本作を書き始めたのは2005年の春頃でした。
当時の僕は、紡ぎたい物語と書きたい文体とがミスマッチを起こしていて、どうにも苦しい状況にありました。
歴史小説の様相の強い硬派なファンタシーを紡ぎたがっていたのに、ライト・ノベルズ系の軟派な文体で書きたがっていたのです。
「硬派なファンタシー」への執着は、十代中盤からの筋金入りのものです。
一方、「軟派な文体」は、十代後半に自然と覚えたものでした。
「硬派なファンタシー」は、昔も今も好きです。
が、「軟派な文体」は、そんなに好きではありません。
『魔術幻想舞踊』は「硬派なファンタシー」という位置づけです。
当然、「3度の食事」で書くべき物語でした。
が、当時の僕は「3度の食事」に自信が持てずにいました。「3時のオヤツ」への誘惑が妙に強く感じられたのです。
それで、
(ま、いっか!)
とばかり、半ば見切り発車の体で書き始めたのが、本作『随筆の心象風景〜魔術幻想舞踊』でした。
「硬派なファンタシー」を1人称で書く辛さは想像通りのもので、なかなかに苦労しました。
その反面、3人称では描きにくい側面に触れることができ、思わぬ収穫を得ました。
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『魔術幻想舞踊』は「康子」の物語です。
本作では、主人公「僕」の相手役として登場しました。
この「康子」を主人公に、僕は3、4編の長編小説を書いております。
もう、かなり長い付き合いです。
そのために――
本作しか御存じない読者の方々には、不可解なところが多々あったかと思います。
それらの点を、一つひとつ丁寧に説明することを、今回は諦めました。
長い物語の一コマが切り取られているのだと、お感じ頂ければ幸いです。
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『魔術幻想舞踊』は、僕にとっては、非常に思い入れの強い物語です。
あまりにも強すぎて、巧く書けずにいます。
今回も、失敗といえば、失敗でしょう。
書店の売り物になるとは、ちょっと思えません。
が、いつの日か、書店で手にとって頂けるまでに仕上げたいと考えております。
そのときは、歴史小説の様相の強い硬派なファンタシーとして、3人称の語り口に仕上がっているはずです。
――2006年12月、式部たかし