(6)


 僕らはJR池袋駅の東口を出て、サンシャイン・シティの方に向かった。
 池袋は全くの不案内というわけではなかった。
 付近に友人がいて、何回か遊びにきたことがある。

 相変わらず無秩序な街だと思った。
 地元の人でさえ、呆れている節がある。

「でも、好きだな、池袋は……。この雑然がいい」
 と明梨は云った。

 会話は、それなりに弾んだ。
 調子に乗って、
「夜、女の子と歩くなんて初めてだよ」
 と云うと、明梨は声に出して笑った。
 冗談と解したらしい。
 本当だよ、と云おうとして、恥の上塗りになることに気付き、止めた。

 かわりに、別のことを訊いた。
「もてるだろう?」
「私が?」
「ああ……」
「どうかな……」
「本当に?」
「そっちこそ、どうして、そんな風に思うの?」

 言葉とは裏腹に、明梨は得意げに笑った。
 そう云われたことは嬉しかったようだ。

「どこに入る?」
 明梨が話題を移した。
 ゆっくり話ができる店がいいと、明梨は云った。

 しかし、そんな店が簡単にみつかるとも思えない。
「池袋って案外に不便――札幌の方が、ずっとまし……」
 と不満げに云うので、
「そうみたいだな」
 と話を合わせると、
「ここで済ましちゃう?」
 と明梨は云った。
 ファーストフード店だった。

「かまわないよ」
 と僕は云った。
 明梨と一緒なら、それでよかった。

   *

 無難にハンバーガーやポテトを注文した。
 僕がアイス・コーヒーを追加すると、明梨もそれに倣った。

 会計を終え、トレイを手に二階席に昇った。
 窓際のカウンター席に、まず明梨が座った。
 店内がすいていたので、僕は一つ席をとばして座った。そのほうが、いつもの距離を保つには、ちょうどよかった。

 夜景の奇麗な席だった。

「やれやれ……。不摂生は良くないって、この前、お母さんに云われたばっかだったんだけどな……」
 と明梨はフライドポテトをつまんだ。
 自分で選んでおいて何を……と思ったが、そうではない。
 実はファーストフード店が一番落ち着くのだと、明梨は云った。
 育ちが良さそうなのに、意外だと思った。

「帰ってたのかい? 北海道に?」
「うん、一週間ほど……。金崎(かねさき)くんは?」
「いや。帰ってない」
「なんで?」
「親と喧嘩するのが目にみえてる」
 苦笑混じりに、うなずいた。
 どうやら、明梨にも身に覚えがあるらしかった。

 この日、明梨は肌にぴったりの濃緑のウェアに、白い薄手のカーデガンを羽織っていた。
 下は漆黒のタイト・ジーンズ――
 夏だというのに長袖なのは、肌を見せるのを嫌ってか――あるいは、僕のように、冷房を嫌ってのことか――

 体型のくっきりとわかる服装だ。
 意識しているのか無頓着なのかは、よくわからない。
 おそらくは意識しているのだろうが……。

 明梨は豊かな胸を持っていた。
 隣に座ると、よくわかった。
 そこへ視線が向かうと、僕は慌てて顔を背けた。
 やはり、まずいだろうと思った。

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