あとがきです。
『宇宙にいちばん近い夜』は、私が、小説だとか物語だとかといったもののノウハウを、特に意識することなく、書き上げたものです。
当時、ワープロの覚えたてでした。
自分にとっての未知の「文明の利器」を使える嬉しさに、ただ、ただ、書きなぐっていたように思います。
私は「作家」という言葉が好きです。
「フリーライター」や「小説家」よりも好きです。
ものを作る人――
「作家」を字面通りに解釈すれば、そういうことです。
よい響きではないですか。
もちろん、実際には、ものは作っただけでは駄目で、その作ったものを、いかに上手に伝えるかということが、非常に重要な地位を占めてきます。
当時の私は、いや、つい最近までの私は、そうした表現の厳しさについて、かなり頓着なかったように思います。
それは、さておき――
『宇宙でいちばん近い夜』の式部たかしは、良い意味でも悪い意味でも、頑に「作家」であろうとしています。何だかよくはわかりませんが、一生懸命、ものを作ろうとしています。
関心が、もの作りにばかり向けられているので、表現のほうは、すっかりお留守です。
そんな式部たかしが一生懸命に作ったものが、はたして、どれくらい、読者の方々に伝わっているのか? はなはだ、疑問に思います。
それが、この作品の本質的な欠点といえましょう。
私は、学校の作文が嫌いでした。
表現の仕方ばかりが問われ、表現の対象――つまり、どういうものを作るか――は、ほとんど問われていなかったように感じたからです。
おそらく、私は表現の下手な児童であったのでしょう。
でも、何を表現するかについては、人一倍のコダワリがありました。
そのコダワリの気持ちは、「学校の作文」という枠組みをこえたときに、初めて充足しました。
こうして、私は、物書きの道に興味をもっていったのだと思います。
『宇宙にいちばん近い夜』は、そんな自分の原点を思い出させてくれる作品です。