2006/2/25

 喫茶店のカウンターに並んでいたら――
 私の斜め前に、大きな風呂敷を抱えたおバアさんが立っていました。

 そのおバアさん、農作業着みたいなのを身に付けて、いかにも垢抜けない様子――
 風呂敷の中身は泥のついた野菜です。

 おバアさん、風呂敷を床においてカウンターの向こうのお兄さんに向かって話しかけました。

 ――あのね。テイクオフ というのを、お願いしたいんだけど……。

 ……

 ……

 ……

 へ?

 ……

 ……

 ……

 京子さん、目が点――   (・・)

 註:テイクオフ(take off)…離陸

 ……

 ……

(それを云うならテイクアウトだろう)
 って思いましたが――
 あまりにも急な展開なので、成す術なく――

 そりゃ、できるんなら、してもいいけど……テイクオフ――

 で――
 カウンターの向こうのお兄さん、

 ――ちょっと、それは ……。

 って首を傾げてる。
 それをみたおバアさん――

 ――できないの?

 と鼻白む。
 お兄さん、怯む。

 ――わ、私ですか? 試したことがない ので……。

 そりゃそうだろ。

 私だって試したことないよ。

 ……

 ……

 気を取り直したお兄さん――

 ――お客さまは、されたことがあるんですか?

 ――あるよ。他の店で――

 ―― テイクオフ を、ですか?

 ――ええ。

 その店には、滑走路があったらしい。

 すごー。

 ……

 ……

(っていうか、お兄さん、遊んでるでしょ?)
 って思ってみていたら、やっぱりニヤニヤ笑ってる。

 けど、そんなに嫌味な感じじゃない。

 ――テイクアウトですね。もう間違えないで下さいよ。

 と、お兄さん――

 ――あ! また間違えた!

 と、おバアさん――

 どうやら、ここの常連さんだったらしい。
 それで、お兄さんも意地悪していたのか。

 しっかし……。

     *

 テイクアウトとテイクオフを間違える人がいるって話はきいてましたが――
 まさか本当にいるとはね……。

 京子さん、ちょっと感動――

 ちなみに――
 おバアさんの抱えていた風呂敷の野菜は、どれも色つや良くて立派な出来映え――
 自家製だとしたら、ただ者じゃない。

 ま、テイクオフはできないと思うけど――

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