書談

白石昌則・東京農工大学の学生の皆さん 著

『生協の白石さん』

 講談社 2005年11月2日発行 (定価952円+税)



 インターネットが作ったベストセラーである。

 この種のものは敬遠してきた。
 どこか眉唾な感じがするからである。

 それでも、本書を手にとる気になったのは、

 ――要望・苦情処理の優れた指南書だ。

 との見方があることを、知ったからである。

     *

 白石さんは、ご本名を白石昌則さんといい、国立大学の生活協同組合(生協)の職員でいらっしゃる。

 生協の組合員は、大学の学生や教職員だ。
 その組合員が要望・苦情を好き勝手に書ける「ひとことカード」というものがある。
 白石さんは、その「ひとことカード」の回答を担当されていた。

 その回答の妙が、インターネットで話題となり、本書の企画に結実した。

     *

 要望・苦情対応には悩まされる。
 僕も、ときに悩まされる。

(本当に優れた指南書なら、是非、手元においておきたい)
 と思って、買った。

     *

 たしかに――
 白石さんの対応術は優れている。

 余人に真似のできるものとも思えない。
 実に誠実で、真面目な対応だと感じる。

 が、当の白石さんは、そうした印象は、

 ――志高き大学生協職員の一般的イメージによるお陰

 と分析しておられる。
 一般的な生協職員の正のイメージを、自分が代表してしまったにすぎない、ということである。

 謙虚な方である。

     *

 要望の中には、

 ――あなたを下さい。白石さん。

 というものまであった。
 おそらく、「生協の白石さん」がブレイクした後に出された要望だろうと思う。

 滅茶苦茶な「要望」である。

 が、白石さんのお答えは澄ましたものだ。

 ――私の家族にもこの話をしてみたのですが――

 で始まり、

 ――「まだ譲ることはできない」との事でした。

 と続く。
 そして、ご家族の「まだ」という言葉には一抹の不安を感じるとしながらも、

 ――諸事情ご理解の上、どうぞご容赦下さい。

 と結ばれている。

 誠実で、真面目で、謙虚――
 でも、ユーモアを忘れない。

 そこが余人に代えがたいように思われる。

 僕も、学生時代、大学生協にはお世話になった。

 実際、志の高い人が多い。
 が、ユーモアまで兼ね備えている人は希有である。

 白石さんの白石さんたるゆえんだ。

     *

 本書のあとがきで――
 白石さんは、ご自分の奥さんのことにも触れられる。

 ――妻。その生き様がエンターテインメント。生きた教材です。

 きっと豊かで、温かなお人柄なのだろう。
 その奥さんに向かって、白石さんはおっしゃる。

 ――貴方が妻で幸せです。

 と――

 こういう方だから――
 こういう企画が成り立ったんだな、と――
 改めて思った。

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