書談

竹内 薫 著

『夜の物理学』

 インデックス・コミュニケーションズ 2005年3月15日発行 (定価1500円+税)



 書名が注意をひく。
「物理学」に「夜」がマッチしない。

 だから、
(おや?)
 と思う。

 例えば、「夜の婦人科学」ならわかる。
「夜の泌尿器科学」でもわかる。

 が、「夜の物理学」である。
(いったい何なんだ?)
 と、思わず訝(いぶか)ってしまう。

「ナイトサイエンス」という言葉があるそうだ。
 直訳は「夜の科学」である。
 直感や霊感に基づくサイエンスを指す。

 サイエンスは一般に論理と実証とに基づく。
 仮説を立て、実験を行い、仮説の妥当性を論理的に判断し、その判断を基に何らかの新しい知見を導く。
 これを「デイサイエンス(昼の科学)」と呼ぶならば、ナイトサイエンスは、その裏面にあたる。

 本書は物理学をナイトサイエンスの視点で切り取った。
 論理では割り切れない物理学の人間模様がユーモアたっぷりに描かれている。

 サイエンスに直感や霊感はなじまない。
「科学的に考えろ」などという。

 ――直感や霊感に頼らず、実証に基づき論理的に考えろ。

 という意味である。

 が、論理や実証ばかりがサイエンスではない。それ以前の段階では科学も閃きに満ちている。
 閃きは、しばしば人の知性の裏面を映す。

 サイエンスの現場では自明のことである。
 が、一般には、あまり実感されていない。

 当然だろう。
 科学書の多くは科学者が書いている。
 彼らが自分の知性の裏面に触れたがらないのは自然である。そうしたものは大抵、ドロドロしているからだ。

 著者は科学者ではない。サイエンスライターである。
 それゆえに、現代物理学をナイトサイエンスの視点で語られる。

 巷間、

 ――優れたサイエンスライターは多くない。

 と、いわれる。

 たしかに、そう思う。
 ナイトサイエンスまでキッチリと描ける人は多くない。

 著者はキッチリと描いている。

 2005年7月、記――

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