草思社 2005年3月31日発行 (定価1200円+税)
手鏡事件というのがあった。
某大学教授が女子高生のスカートの中を手鏡で覗いたとされる事件である。
スカートの中を覗くのは悪である。
これには多くの人が同意する。僕も同意する。
が、
――なぜ、これが悪なのか?
と問われると困る人がいる。
とりあえず僕の身近に一人いる。
二十歳前の青年だ。ごく普通の青年である。ちゃんとした教育を受けており、頭も悪くはない。
なのに答えられない。
多分、彼に本書はうってつけだ。
倫理の入門書である。倫理学者が中学校で授業をする、という体裁がとられている。
これが功を奏し、様々な取っ付きにくい問題――倫理とは何か、道徳とは何が違うのか、といった問題を、わかりやすく説明できている。
中学生向けだからといって子供騙しに堕ちてはいない。大人の読者も意識された内容になっている。
倫理の定義以外にも、例えば善悪の定義、労働の意義など、日頃、人々があまり考えないことにスポットが当てられる。
――援助交際が、なぜ、いけないか?
というくだりもあった。
1947年生まれの著者(男性)が、中学生を相手に援助交際についてオジさん口調で語る。
そのオジさんの言葉――
「私が指摘しておきたいのは、みなさんくらいの年齢の女の子は、女の体をもっているだけで、自分で意識しているよりもずっと男性の目にたいして色気を発散させているということです」(p132)
特定の嗜好をもつ男性には実感のこもる言葉である。
(そこまで正直にいわなくても……)
と思う。
オジさんの視点を誤摩化さなかった誠実さに好感がもてる。
そういう意味でも本書は良心的だ。
よんで損はしなかった。
2005年5月、記――