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2005年12月31日 (土) |
マル太・管理人モード（リニューアル） |
いつも『道草日記』を御覧頂き、ありがとうございます。
今年も残すところ2時間となりました。
いま、NHKの『紅白歌合戦』をつけておりますが――
みのもんたさんの悪戦苦闘ぶりが印象的です。
最近の『紅白』は、歌と歌との合間が、どうしようもなくシックリこなくって、ここ何年もみていなかったのですが――
今年は、みのさんのトークのテクニックが気になって、つい、みてしまっています（笑
それにしても――
これだけメディアが発達した現代なのに――
プロの司会者へ台本なんか渡すもんじゃないですよね。
しかも、ギャグまで指定のコチコチのやつなんか――
NHKのプロ意識は、どこかズレている気がします。
以上、ネット・ニュースで、よみました。
どこまでホントかは、わかりませんけどね。
＊
2006年から『道草日記』をリニューアルいたします。
どういうリニューアルにするかは未定です。
あと2時間の内に決めます。
今後も、よろしくお願い致します。
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2005年12月31日 (土) |
恩田仕様の石原莞爾 |
その男は自問する。
――変えられるのか。
と――
――俺にも変えられるのだろうか。あの悲惨な歴史を。
と――
＊
昨日の『道草日記』で触れた小説――久々に読み始めた小説――というのは、恩田陸さんの『ねじの回転』（2005年、集英社文庫）である。
二・二六事件が題材である。
時間遡行のSFミステリーだ。
二・二六事件は日本の近代史の重要転換期である。
1936年2月26日――陸軍の青年将校たちがクーデターを起こし、ときの総理大臣官邸などを襲撃――国の要人を幾人も殺害する。
結局、未遂に終わるのだが、この事件を期に、政界や財界が軍部に抑え込まれていく。
（恩田さんが二・二六事件？）
で面喰らう。
たしかに、恩田さんの作風は硬派で理知的だ。歴史物を扱える。
が、ライト・ファンタジー系の要素も濃い。
（いくらなんでも、ちょっと作風が違うでしょう？）
ということである。
が――
冒頭に触れた「その男」――
彼を時間遡行のSFミステリーに登場させるのは、抜群のセンスといわなければならない。
「その男」とは――
石原莞爾である。
満州事変の首謀者とされる。
陸軍始まって以来の傑物と評され、重職を歴任し、戦略家・政略家としての手腕を発揮するが、終始、アウトサイダーを貫いたことと病を患っていたこととによって、対米開戦前には失脚――以後、歴史の表舞台に帰り咲くことはなかった。
対米開戦を決意した総理大臣・東条英機は、陸軍士官学校の3年先輩に当たる。
もし、石原が先輩だったら、歴史は変わっていたかもしれない。軍略家としての石原の存在感が、官僚色の濃い東条の出世を阻んだかもしれないということである。
そうなれば、対米開戦前夜の総理大臣は、石原だったかもしれない。
歴史のイフは無意味である。
が、物語にとっては、そうではない。歴史のイフは甘い果実の種である。
その石原に、語らせるのである。
――俺にも変えられるだろうか。あの悲惨な歴史を。
と――
石原莞爾は二・二六事件では大した役割を果たしていない。
本来なら、登場人物に加える必要はない。
が、恩田さんは加えられた。
なぜか？
おそらく、物語の紡ぎ手としての嗅覚が働いたのだろうと思う。
売れっ子作家の面目躍如といったところか――
作中、石原が自問する。
――奴らは、いったい俺に何を期待しているのだろう？
「奴ら」とは、二・二六事件の歴史に介入しようとしている未来人のことである。
これを石原莞爾にキッチリいわせるところが、嗅覚である。
恩田仕様の石原莞爾――
悪くない。
石原が主役なら、もっと良かったのに――
ま――
それは、マル太（式部たかし）の物語である。
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2005年12月30日 (金) |
小説は娯楽か |
今日、久々に小説を読み始めてみて――
思い出したことがある。
1、2ヶ月ほど前のこと――
「トクナガさんって、小説が娯楽じゃないよね」
と、いわれた。
（ああ、そうだな）
と思った。
「トクナガ」というのは、僕の本名である。
とある作家さんのお言葉である。
年上の女性の方だ。
お言葉の意図がどこにあったのかは、いまひとつ確認し損ねたのだが――
おそらく、いい意味でも、わるい意味でもなかったと思う。
事実として指摘されたのだろう。
＊
誤解のないようにいっておくと――
僕は、小説を娯楽だと思っている。
少なくとも、基本的には娯楽だ。
中学時代――
試験が終わって真っ先にとりかかったのは、小説読みだった。
が――
最近の僕にとっては、その辺が微妙である。
ほとんどの小説が、もはや娯楽ではなくなっている。
娯楽でなくて、何なのか？
勉強である。
学習の対象である。
実際、人様の小説を読んでいて、
（へえ！）
とか、
（なるほど！）
とか思うことはあっても、
（楽しい！）
と思うことはない。
自分の書いた小説は別である。
これは娯楽になり得る。
もちろん、まずい点ばかりが目に付き、元気をなくすこともしょっちゅうだ。
が、自分の小説が伝えようとしている物語は、僕の中では完全無欠なので、十分に想いをはせることができる。
だから、娯楽になる。
これが、人様の小説だと、つい
（僕なら、こうはしない）
とか、
（次の展開はこうなるはず……）
とか、
（ああすれば、もっと面白いのに……）
などと考える。
で――
自分の直感に意味があったかどうかを確認するために、以後、作者の意図に敏感になっていく。
つまり、仮説の検証である。
こうなっては娯楽ではない。
勉強である。
自分の小説を読んでいるときは、検証など必要ない。
だから、気楽に読める。
もちろん、以上は完成させた作品の話――
未完の作品を読むのは辛い。
散らかった自分の部屋を前にして、茫然自失となるに同じである。
＊
というわけで――
僕にとって、小説は娯楽ではない。
それが、いいことなのか、わるいことなのか――
今の僕にはわからない。
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2005年12月29日 (木) |
硬派で厚い本、軟派で薄い本 |
最近、硬派の厚い本が減ってきたという。
数十年前なら、どこの書店にもあって、それなりに敬意を払われていた。
それが、今はない。
代わりに――
軟派の薄い本ばかりある。
これを嘆く人がいる。
――ヤワでウスっぺらな本ばかりとは！
――この先、日本の文化は大丈夫か！
ということである。
軟派になって薄くなったことを、本の退化とみるか、進化とみるか――だろう。
軟派になって薄くなったことが、必ずしもマイナスだとは思わない。
その分だけ、読者に手間をかけないことは明白だからである。
もちろん、中身の備わっていることが前提だ。
中身が備わっていなければ、軟派だろうと硬派だろうと、薄かろうと厚かろうと、関係ない。
本は、読者にとっては、最後まで読み通す気なるかどうかが重要だろうと思う。
もちろん、読者にも色々いる。
読解力に優れている読者もいれば、そうでない読者もいる。
軟派な薄い本の優れている点は、読解力に不安のある読者でも、最後まで読み通せるかもしれないということだ。
書き手の立場でいわせてもらえれば――
硬派の厚い本を書くよりも、軟派で薄い本を書く方が難しいと感じる。
もちろん、中身の備わっていることが前提である。
軟派で薄いのに、中身が備わっている――これが凄いのである。硬派で厚い本に中身が備わっているのは、ある意味、当然である。
硬派で厚い本は、どこか読者に甘えているところがあるように思う。
その甘えが許されなくなってきたということではないか。
書き手の技術が、この数十年で、格段に進歩してきたということである。
一つ忘れてならないことは――
辞書や辞典の類いが軟派になって薄くなったのではないということである。
もし、そうなったら、この先の日本の文化は悲惨に違いない。
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2005年12月28日 (水) |
kikuさんのこと |
kikuさんは小説サイト『the River under the Moon』の管理人さんである。
ファンタジー小説をメイン・コンテンツとされている。
僕が『たまには道草いつも道草』を立ち上げた頃――つまり、2004年の初夏の頃に――
『Yahoo!ジオシティーズ』の『ページディレクトリ』でおみかけした。たしか『SF、ファンタジー、ホラー』の項だったと記憶している。
女魔術師が主人公のファンタジー小説が掲載されているという。
＊
これは、あちこちで書いたことだが――
僕は「女魔術師」というコンセプトに弱い。
きっかけは、イギリスの作家マイクル・ムアコックの『エルリック・サーガ』である。
魔法使いの皇子が主人公の物語だ。
このヒーローが、どこか女性的なのである。
白子で、退廃的で、病的で――
多分、相応の美貌の持ち主である。
――全然、男っぽくない。
という点が新鮮だった。
当時の僕は、屈強な男が段平で魔物をバサバサ切りまくる物語などを読んでいた。
それにはない魅力を感じたのである。
が、翻訳物だったということと、主人公が、やっぱり男であるということとが災いし――
結局、それ以上に、はまることはなかった。
かわりに、物語を作りはじめる。
魔術師（魔道師）の物語である。
いきなり「女魔術師」にとりかかるのはきつかったので――
無難に、男の魔術師の小説を書いた。
書いている最中、いつも「女魔術師」のコンセプトが脳裏にあった。
＊
そのようなわけで――
僕は「女魔術師」には弱い。
だから、kikuさんのサイトをおみかけしたとき、一も二もなく、閲覧する気になった。
みると――
サイトの開設時期が、僕と、ほぼ同じであるという。
親しみがわいた。
kikuさんのファンタジー小説は『時の大河』という。
主人公は「薬屋」と称される魔術師である。
――この世でただ一人、魔術師を名乗ることが許された女
である。
魔術師なのに「薬屋」というのがいい。
僕は母や妹が薬屋なので――つまり、薬剤師なので――「薬屋」という言葉には、あまり、お目にかかりたくない、
身近すぎて――
が、そんな思惑は通り越し、
（面白い！）
と感じた。
以後、『時の大河』をフォローし続けている。
＊
半年ほど前――
こちらからリンクをさせて頂こうかと思った矢先に、休止状態に入られた。
なので、そのままになっていた。
最近、本格的に執筆を再開されたようなので、先週、リンクさせて頂いた次第である（『客間』参照
ファンタジー小説に興味のある方は、是非、ご一読を――
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2005年12月27日 (火) |
――なぜ、男は女性の体を…… |
物語について考えていたら――
突然、
――なぜ、男は女性の体を美しいと思うのか？
について、考え始めていた。
のっけから、しょうもないことで、申し訳ない。
が――
そもそもの『道草日記』は、こういうノリだった。
最近は、少し堅いことばかり、書きすぎていたようだ。
もちろん――
――全ての男が女性の体を美しいと思っている。
というわけではあるまい。
男にも色々ある。
女性の体も様々だ。
それでも――
大雑把にいえば、男は女性の体を美しいと思っている。
少なくとも――
僕は美しいと思っている。
女性の体を眺めていると、時折、
（はあー！）
と、溜め息をつきそうになることがある。
なぜなのか？
とりあえず――
すぐに思い付く妥当な推論は、
――性欲が、男の意識に何らかの作用を及ぼし、女性の体を美しく思わせている。
というものである。
が――
それでは、性欲が審美を決定付けているのか？
ちょっと、それは変だろう。
性欲が審美を調整することはあっても、発起するとは思えない。
それに――
どんな色情狂の男だって、女性の体以外にも一つや二つ、美しいと思う物を持ち合わせているに違いない。
それらの物の中に、なぜか女性の体が入っているのである。
そのことが、不思議でならない。
どこかの哲学者が議論していそうな話ではある。
なので――
哲学のアプローチは、措く。
そうしたアプローチを、僕は捨てた。
せいぜい、自分の作る物語に哲学者を登場させ、うんうんと考察させる程度にとどめておく。
それよりも――
――なぜ、男は女性の体を美しいと思うのか？
に狂おしく悩む男の物語を考えたい。
――なぜだ！ なぜだ！ なぜだ！
と、いつまでも狂おしく悩む男の物語である。
男でなくてもいい。
女でもいい。
子供でもいい。
狸でもいいかもしれない。
そこに――
僕は物語の無限の可能性を感じたいのである。
物語は、哲学を内包し得ると、本気で思っている。
哲学だけではない。
ありとあらゆる文化的営為――学問、芸術、思想、宗教など――を内包し得ると思っている。
その気になれば――
学者にも、芸術家にも、思想家にも、宗教家にもなれること――
それが、物語の作者に課せられた使命なのだろうと思っている。
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2005年12月26日 (月) |
毎日のように本屋に |
物心がついたとき――
おもちゃ売り場にいくのが楽しみだった。
大型スーパーや百貨店などで、父や母が食品売り場にいる間――
僕は、おもちゃ売り場にいた。
それが、いつの頃からか――
書籍売り場に変わる。
多分、小学校低学年の頃だったと思う。
当時、流行していた子供向け歴史マンガに夢中になった。
ほとんど全ての作品を立ち読みで済ませてしまったように思う。
とんでもない悪ガキである。
おかげで――
中学に上がる頃には、すっかり本屋好きになっていた。
とにかく本屋にいるだけで幸せだった。
それが大きく変わった。
大学院時代である。
僕は生理学を専攻していた。
生物学の一分野である。バリバリの実験科学である。
実験をし、論文をよみ、さらに実験をし――そんな生活が理想とされる世界である。
論文というのは英語の論文である。
つまり――
本屋で日本語の書籍をあさる暇があったら、実験をし、英語の論文をよみ、さらに実験をせよ――ということである。
もちろん、そんなストイックな人は多くなかったであろう。
が、当時の僕は、そうしなければいけないような気分になっていた。
本屋に入るくらいなら、研究室に籠って実験をするべきだ――という気分である。
そんな気分でいるものだから――
かえって実験が苦痛になる。
本屋に入らず、実験もせず――の日々が続いた。
文筆に転向し、何が嬉しかったかといえば――
子供の頃の気分で、本屋に入れるようになったことである。
本屋にいるだけで幸せだった子供の頃の気分である。
＊
最近、毎日のように本屋に入っている。
大学院時代には考えられないことだった。
捻れが元に戻った感じである。
嬉しい。
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2005年12月25日 (日) |
東京大学に合格するのは |
三田紀房さんのマンガ『ドラゴン桜』の影響で、東京大学を志望する受験生が増加傾向にあるという。
（ホンマかいな？）
と思ったが――
多分、本当だろう。
『ドラゴン桜』が受験生に支持されている事実は否定しがたい。
『ドラゴン桜』は、元暴走族の弁護士が非進学校で教鞭をとる話――東大合格者を100名も出す高校を目指し、奮闘するという筋立てだ。
僕は、このマンガをちゃんと読んだことはない。
が――
――その手があったか！
と、いたく感じ入った。
――東大は簡単だ！
と、ほざく教師――
（まさに僕のことじゃないか……）
と思った。
＊
東京大学に合格するのは簡単であると、僕も思っている。
厳密には――
東京大学に合格するために何をすればいいかを理解することは、簡単である、ということである。
難しいのは、その実践だ。
残念ながら、世の中には、それを実践できる人と、できない人とがいる。
つまり、受験指導者の力量とは、
――目の前の受験生が、それを実践できるか、できないかを、見極める能力
にかかっている。
実践できる人に、東大合格の手段を伝えられるのは、受験指導者としては最低限の条件だろう。
その手段は、誰にでも理解できる普遍的なものだからだ。
だからこそ、ああいうマンガが成り立つ。
普遍的でなかったら、受験技術を前面に出す作風は成ち立ち得ない。
自分にとって当たり前のことというのは、物語のヒントにもならないらしい。
（うーん！ 僕も、このネタで小説を書けばよかった！）
と後悔をした。
もっとも――
『ドラゴン桜』は、
（マンガゆえの成功かな）
とも思う。
あの路線を小説でやろうと思ったら、かなりの工夫がいる。
どうしても理屈っぽくなるからだ。
『ドラゴン桜』は、そこを絵の力で突破したようなところがある。
＊
一つ、いわせてもらえれば――
自分が受験生だったときに東大を狙った――あるいは十分に狙えた――指導者が、東大志望者を指導することほど簡単なことはない。
そういう指導者が、名もない新設大学に滑り込もうとする生徒を指導するほうが、よっぽど難しい。
逆も、そうである。
自分が受験生だったときに東大など考えもしなかった指導者が、東大志望者を指導することほど難しいこともあるまい。
僕が小説にするなら、多分、この路線だろう。
『ドラゴン桜』の主人公は、どうなのだろう？
機会があれば、丁寧に読もうと思っている。
が、読み始めた途端、僕は、すぐに自分の物語を作りたくなるだろう。
自分にしか紡げない受験指導者の物語を、探したくなるに違いない。
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2005年12月24日 (土) |
クリスマス |
毎年、この日になると――
ヨーロッパをうらやましいと思う。
ヨーロッパのクリスマスは、静かである。
実に静かである。
普段は陽気な若者たちも、この日ばかりは、恋人とわかれ、家族のもとへと帰っていく。
この日も恋人と一緒にいたいと強く思うようになれば、結婚をする。
クリスマスとは、自分の出自に感謝をする日――自分の人生を、もう一度、見つめなおす日――そんな一日であるらしい。
日本のクリスマスが騒がしくて嫌だと、いっているのではない。
ヨーロッパの田舎町の静かなクリスマスが、心の底から、うらやましいのである。
日本のクリスマスでは、絶対に味わえない雰囲気だろう。
無理もない。
2000年の年月で熟成させた慣習である。
非キリスト教文化圏の人間が、いくら真剣に真似をしようとしても、真似は真似で終わってしまう。
本物には及ばない。
日本で強いて相当する慣習を挙げるとしたら――
お盆だろう。
お正月は違う気がする。
お正月では、少しにぎやかすぎる。
もちろん、お正月も悪くはない。
ヨーロッパのクリスマスが本場のクリスマスであるように、日本のお正月も本場のお正月である。
日本のクリスマスがイマイチなのは、ヨーロッパのお正月がイマイチなのと、同じである。
などといっている僕だって――
本場のクリスマスは、記憶の断片である。
4歳から6歳まで、スイスのチューリッヒに住んでいた。
以後、かの地のクリスマスには触れていない。
スイスは夏がいい。
夏のチューリッヒは、湖岸をブラブラと歩きたい。
チューリッヒ湖の岸辺である。
が、冬もいい。
とりわけ、クリスマスの時期である。
多分、お店は、どこも閉まっている。
面白いことはやっていない。
そんな街の通りを歩きたい。
思索にふけるには、もってこいの時間である。
日本人の自分――
日本語をあやつる自分を、突き放すこともできるに違いない。
とはいうものの――
何もやっていない街をブラブラするためだけに片道10時間も飛行機に乗っているのは、しんどいだけか。
いくとしたら、一人旅だな。
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2005年12月23日 (金) |
脳の話をしたくない |
医療関係の会社の広報誌をみていたら――
養老孟司さんが、こんなことを書いておられた。
――脳の話はあまりしたくない。
養老さんといえば『バカの壁』である。
ベストセラーになった。
が、僕の中では、あくまで『唯脳論』の印象が強い。
その「唯脳」の養老さんが、脳の話をしたくないとおっしゃる。
（え？ なんで？）
と思った。
もっとも、最近の御著書を拝見していれば、何となく予想できたことではあったが……。
養老さんが脳に興味を抱かれたのは、学生運動が盛んな頃である。
社会的思想をめぐって議論をするうちに、議論相手の主張の客観的根拠が気になった。
それで脳へと関心がいった。
脳がなければ、いかなる主張もできないからである。
が、この考えを押し進めていくと――
脳ではなく、意識だという話になる。
眠っていては、いかなる主張もできないからである。
さらにいえば――
そもそも、脳という器官を認識し、定義したのは、ヒトの意識である。
脳から意識が生じたというよりは、意識が脳を見い出した、というほうが正しい。
それで、脳の話はしたくないと、養老さんはおっしゃる。
その通りだと思った。
養老さんは僕の数十年以上先を生きておられる。
もちろん、そんな方の感慨が100％理解できるとは思わない。
が、いたく共感したことは事実である。
＊
5年くらい前までの僕は、心脳問題に猛烈な関心を寄せていた。
脳は、いかに心を生み出しているのか、という問題意識である。
高校時代は歴史や文芸が好きで、次に物理や数学が好きだった。
なのに、医学を志したのは、心脳問題へ学問的にアプローチしたかったからである。
が、ここ数年は違う。
脳が心を生み出していると考えるから、医学になる。
心が脳を見い出したと考えれば、医学は、さほど必要はない。
だから、文芸に転向した。
心の側から脳をみようと思ったのである。
そのような意味で――
いまの僕は、脳の話をしたくない。
養老さんとは少し違う意味で、そう思っている。
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2005年12月22日 (木) |
ただのモノになる |
自宅の玄関を明けたら、黒い塊がある。
排水溝に身をひそめている。
ネズミだ。
ずいぶん、のろいネズミがいるものだと思った。
ふつう、人の気配を察したら、一目散に逃げるものである。
が、逃げない。
気付かないのかと思って、わざと靴音を大げさにたててみた。
それでも、逃げない。
よくみると――
死んでいた。
＊
二ヶ月ほど前のことである。
＊
自宅の玄関の前である。
素通りするわけにはいかなかった。
遺骸を袋にいれ、近所の公園にもっていき、木陰に埋めた。
気味が悪かった。
それが不思議だった。
大学院時代は、マウスを実験に用いていた。
マウスの頭から脳を取り出し、特定の組織を摘出して実験標本にするということをやっていた。
マウスの遺骸の処理には慣れている。
それでも、気味が悪かった。
気味の悪さは、どこにあったのか？
多分、
――僕も、いつか、こうなる。
という恐れに通じていたのだと思う。
実験室で、マウスの遺骸を、せっせと処理していた頃は――
そんなことは夢にも思わなかった。
マウスの死は、あくまで他人事だった。
が、そうではない。
彼らと僕らとの間に本質的な違いは何もない。
ともに、この世に生まれ、生き、死んでいく身である。
彼らも僕らも、死んだら、ただのモノになる。
遺骸は、ただのモノである。
少なくとも、そうとみなせば、モノになる。
自分が同じような目にあったときに――
ただのモノとはみなされたくないから、僕はネズミの遺骸を埋める気になったのかもしれない。
そんな自分の心の動きを、
――気味が悪い。
と感じたのかもしれない。
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2005年12月21日 (水) |
子離れ、親離れ |
『下流社会』とかいう本が話題になっている。
「下流」というのは、河川の下流とかではなくて――
上流階級、下流階級の「下流」らしい。
そんな本が話題になっていることは知っていたが、とくに興味を覚えることもなく、すごしてきた。
それが、にわかに看過できなくなったのは、
――あんた、このまま人生の下流をいきていくつもり？
と、嫌味をいわれたからである。
母にである。
夜中に電話をかけてきて、これである。
この本を買って、つまみ読みをし、妙に共感したらしい。
要は、嘆きである。
――うちの息子は下流に成り下がってしまった。
という嘆きだ。
（どうでもいい）
とは思ったが――
実の母親が嘆いている事実は重い。
とにかく、そのままでは話にならないので――
とりあえず、その本での「下流」の定義を問うてみた。厳密な定義である。
すると、
――よくわからん。
という。
母は読書が苦手である。
中学時代の古典全集・読解レベルで終わっている。
仕方がないので、本屋で立ち読みをした。
ところが――
定義がしっかり書かれていない。
単に年収や所得のことではなく、生きる意欲とか、コミュニケーション能力とかにも言及されている。
どうやら、個人の主観のことのようだ。
つまり、自分で自分を下流階級とみなす人々が「下流」の定義であるらしい。
インターネットの書評を検索してみると――
多くの人が同じ問題にぶつかっていた。
総じて、僕と同じ結論に達している。
もし、この結論が正しいのなら――
僕は下流ではない。
僕は自分を下流とは思っていない。
上流とも思っていない。
下流だとか上流だとか――
そんな発想は、何ももたらさないと思っている。
地位や役職のみで尊敬されるとか、されないとか――
膨大な収入はあるのに使う時間はないとか、あるとか――
好きでもない相手と結婚して何が悪いとか、良いとか――
上流だろうが下流だろうが――
そんなことは、どうでもいいのである。
死の直前に後悔するのか、しないのか――
それだけを目安に、僕は生きている。
死の直前は、遠い先とは限らない。
明日かもしれないし、30分後かもしれない。
そういう不条理にも敏感でありたいと思いながら――
僕は日々を生きている。
が――
こうした生き方を、多分、母は終生、理解しないだろう。
別れて暮らし始め、14年が経つ。
無理のないことだ。
共有した生活経験が、あまりにも少なすぎる。
（子離れができていないんだな）
と思う。
こんなことを記す僕も――
親離れができていないのかもしれない。
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2005年12月20日 (火) |
生まれて初めての一人ドライブ |
生まれて初めて――
自発的にドライブに出たかもしれない。
一人ドライブである。
今夕――
自宅のCD棚をホジクリ返していたら、辛島美登里さんのアルバム『アレンジメント（Arrangement）』が出てきた。
1993年のリリースである。
これまでの『道草日記』でも散々、書いているように――
僕は辛島さんのファンである。
なので――
辛島さんのアルバムだけは別の場所にまとめて保管してあった。
『アレンジメント』は、そこにはなく、他のCDと同じ棚に紛れていた。
（なんで、これだけ別にしたのかな？）
と思って、かけてみることにした。
買い物にいく車の中で、である。
多分、10年ぶりである。
理由がわかった。
これはライブの録音である。
曲の始まりや終わりには聴衆の拍手が鳴り響き、ときに辛島さんのスピーチが挟まっていたりもする。
だから――
おそらく、10年前の僕は、
（これは、何度も繰り返し、きくものじゃない）
と思って棚の奥にしまったのだと思う。
誤解のないようにいっておくと――
僕は、この『アレンジメント』が好きである。
臨場感が気に入っている。
が、それゆえに――
何度も繰り返し、ききたくはない。
臨場感が損なわれ、ライブの疑似体感が失われる。
途中でききやめるのも、しのびなかった。
買い物にいく予定を変更し、きき終わるまで、ずっと郊外を走っていた。
僕は車の運転が好きではない。
こんなことは、前代未聞である。
＊
『アレンジメント』は、辛島さんのベスト盤といってもよい。
が、主旨は、そこにはない。
主役は編曲家たちである。
8人の編曲家たちが、辛島さんの当時のヒットナンバーを、この日のライブのために、アレンジしなおしている。
辛島さんは、スピーチの中で、編曲を化粧に喩えておられる。
その上で、
――私の唄の違う一面を教えてもらった。
と述べられた。
印象に残るスピーチである。
10年前に何度もきいたスピーチであることは間違いないが――
新鮮だった。
＊
12年前のリリースである。
多分――
もう廃盤になっている。
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2005年12月19日 (月) |
アート＆サイエンス |
最近――
アートやサイエンスについて考えている。
アートとサイエンスとでは、
――何が違うのか？
である。
もちろん、共通点もある。
が、それは措く。
とりあえず、両者の差異が気になっている。
＊
例えば――
アートでは一回性が尊ばれ――
サイエンスでは再現性が尊ばれる。
アートは直観が支配し――
サイエンスは論理が支配する。
アートは万人に理解されるとは限らないが――
サイエンスは万人に理解され得る。
アートは人の心を強く動かし得るが――
サイエンスはそれほどでもない。
アートにはサイエンスらしき要素があり、サイエンスにはアートらしき要素がある。
ゆえに、両者は相補的といってもよいかもしれない。
そんなことをウダウダと考えた。
＊
日本語でいえば――
アートは芸で、サイエンスは学である。
だから、僕のいうアートやサイエンスは、必ずしも、
アート ＝ 芸術
サイエンス ＝ 自然科学
を満たしているわけではない。
人々の営みの、より根源的な階層に焦点を当てている。
＊
なぜ、両者の違いが気になるのか？
もちろん、両方に中途半端に足を突っ込んでいるからに他ならないのだが――
では、なぜ、両方に中途半端に足を突っ込んだのだろう？
本当はアートをやりたかったんだよね、僕は――
が――
サイエンスに手を出した。
やせ我慢である。
アートを選びきれなかった者のやせ我慢である。
＊
僕がアートを説くと、物書きの僕を知らない人は、
――テメーがいうなよ！ チャンチャラおかしい！
みたいにいう。
物書きでない僕は、一回性や直観を軽視し、再現性や論理を重視し、普遍性にこだわり、感受性をにぶらせているように、みえるらしい。
たしかに――
自分を、そんな風にみせようとしてきたことは、否定しない。
本当はアートをやりたかったのに、
――サイエンスもできます！
と、背伸びをしたことが、諸悪の根源なのだと思う。
もちろん、背伸びをして良かったこともあるけれど……。
人は、やりたくないことをやれる時間までは与えられていない。
いつかは見切りをつけなければならない。
その「いつか」は、自分で判断しなくてはならない。
＊
アートやサイエンスにまつわる本を――
僕は書いたほうがいいのかもしれない。
どっちも中途半端な今のうちに――
書いておいたほうがいいのかもしれない。
そう思う。
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2005年12月18日 (日) |
明るいゲイ |
久々に、すがすがしい気分になった。
服飾評論家のピーコさんが、新聞の悩み相談に答えておられた。
ピーコさんはゲイである。
芸能界デビュー当時から、双子の弟おすぎさんともに、ゲイであることを売りにしておられる。
悩み相談の質問者は、18歳の男性だった。
――僕はゲイなのかもしれません。
という。
男性に恋愛感情を抱き、女性には抱けないそうだ。
周囲に変態と思われるのは辛い――そんな自分が孤独で悲しい、と結ばれている。
ピーコさんの回答は直球だ。
まず、
――あなたはゲイだと思います。
と断った上で、
――人を好きになるのは仕方がないこと。
――男が好きっていうのは一生変わらないんだから。
――（自分が）変態だなんて考えないほうがいい。
と、矢継ぎ早である。
そこが、いかにもピーコさんらしい。
ジメジメとしていなくて、読むほうも元気が出る。
さらに、ピーコさんによれば――
自分がゲイであることは、隠さないほうがいいらしい。
下手に隠そうとすると、暗いゲイになっていく――
それは避けたい。
避けるには、どうすべきか？
まず、事実を受け入れること――
そして、自分を磨き続け、誰にでも好かれる素敵な人間になること――
そうすれば、いつか好きな人にも振り向いてもらえる――
ゲイじゃなくも、好きな人に振り向いてもらえない人は、たくさんいる。
人を好きになることに、ゲイも男も女もない――
だから、
――どうぞ明るいゲイになってね。
というエールだった。
素晴らしい回答だ。
ゲイだとかゲイじゃないとかを通り越し、人として素晴らしい回答である。
誰に対しても通用し得る普遍的なメッセージだ。
人としての懐の深さを感じた。
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2005年12月17日 (土) |
その構想を捨てるとき |
12/12の『道草日記』と翌12/13の『道草日記』とは、矛盾している。
12/12の『小説書きに大切なこと』では――
小説書きには、小説を書けない時間が大切だと書いた。
一方、12/13の『夢への想いの境界線』では――
小説以外のことに、いかに時間を割かないかが大切だと書いた。
矛盾している。
少なくとも、サラッと読んだ感じでは、そうである。
言葉が足りなかった。
小説以外のことであっても、それが小説書きに間接的に役立つのであれば、無駄ではないと思っている。
――むしろ、必須ではないか？
というのが、『小説書きに大切なこと』の主旨であった。
では、「小説以外のこと」に相当するものは何か？
小説とは直に関わってこない虚栄心である。
例えば、必要以上の営利や名誉や技術を追い求めることである。
虚栄心は、向上心と言い換えてもいいかもしれない。
――もっといい生活をしたくありませんか？
――もっと人に認められたくありませんか？
――もっと上手になりたくありませんか？
そういう囁きに惑わされないようにする、ということである。
もちろん――
物書きとしての向上心だけには、注意を向ける。
当たり前である。
それを失うと、物書きが辛くなる。
＊
僕は、社会的には、教師であったり医師であったりする。
――教師や医師としての向上心を、いかに抑えるか？
存外に難しい課題であった。
小説書きである一方、教師であり、医師であり続けなければ、生活が成り立たない。
だから、つい向上心を持ってしまう。
それが、多分、職業倫理上、あるべき姿である。
それを抑えるというのである。
難しい。
生徒さんや患者さんに迷惑をかけない範囲で抑えるのは、並み大抵のことではない。
ときどき、
（医者になっちゃえば楽かもしれない）
と思うことがある。
「医者になる」とは「医師を生業とする」という意味である。
せっかく免許を持っているのだ。
それも、簡単に手に入れたものではない。
（もったいない）
との思いにかられることもある。
が、それをやると後悔をする。
死の直前に後悔をする。
僕には、死の直前に書きたい小説がある。
短編だ。
主人公と舞台とは決まっている。
あとは出来事を決めるだけである。
どういう出来事を描くのか――
それを探しつつ、僕は物語作家を志す。
医者になるのは、その構想を捨てるときである。
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2005年12月16日 (金) |
突然の訃報 |
「今夜の『道草日記』は、仰木監督ですか？」
といわれた。
Mr.アニリンくんに、である。
「なんで？」
と問うと、
――『道草日記』といえば、プロ野球のイメージが強いから。
だそうである。
たしかに、プロ野球ネタは多いが――
そこまでイメージが強いとは……。
ちょっと意外だった。
＊
突然の訃報に驚いた。
プロ野球・オリックス・バファローズの前監督・仰木彬さんが亡くなったという。
今年の10月まで、球場のベンチに座って指揮をとっておられた。
その方が亡くなったというのである。
享年七十だった。
当初、マスコミは病死であることも明かしていなかった。
がんで闘病中であられたそうである。
おそらく――
がんであることがわかったままで、指揮をとっておられたに違いない。
名将といわれる。
大リーグの野茂投手やイチロー選手を育てた方として知られる。
が、仰木監督のことは、寡聞にして知らない。
もっとも印象に残っていることといえば――
まだ、イチロー選手がオリックスでプレイしていた頃、TVの番組の企画に応えて、
――監督、来シーズンはランニング・ホームランを狙ってもいいですか？
と、直談判していた様子である。
TVカメラの回っているところである。
ランニング・ホームランというのは、ボールを外野席まで飛ばすことなく、一打でホームインすることをいう。
現代プロ野球では極めて珍しい。
その一歩手前である3塁打すら、減ってきている状態である。
いかにイチロー選手の足が速いとはいえ、ランニング・ホームランは、きわめて困難であった。
が、仰木監督は即答だったと記憶している。
――おお、ええよ。
演出があったのかもしれない。
が、それにしてもアッサリとした許諾であった。
そういう振る舞いが、よく似合う人であった。
ご冥福をお祈りしたい。
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2005年12月15日 (木) |
虚構の力を信じられるかどうか |
小説を書き続ける気力の源泉は、何か？
ときどき、考えることがある。
何が気力を維持させるのか？
虚構の力を信じられるかどうか、なのだと思う。
虚構の力とは、
――虚構が人の心を揺さぶる力
のことである。
小説を書いていて、ときにむなしくなることがあった。
20代の頃である。
僕は20代のほとんど全てを大学生活に費やした。
大学というところは、虚構が、価値のないものとして切り捨てられる場所であった。
少なくとも、僕の関わった分野はそうである。
虚構の力に疑問をもった。
結局、人の心を揺さぶるのは、現実の力なのである――と思った。
実験や観測に基づく仮説検証であったり、社会調査や資料分析に基づく思想提示であったり、診察・検査や治療試験に基づく医療行為であったり――
僕は、たまたま医学・生理学の分野に関わったわけだが、おそらく、どこの分野も同じだと思う。
文学の分野とて例外ではあるまい。
その文学作品が、いつの時代に、どの場所で、どのようにして書かれたものか、という現実に向き合っている。
虚構の力とは、そうした大学人を安心させるような現実とは無縁の力である。
――そんなん、ウソに決まってるだろう！
と思わせつつも――
それでも、人の心を揺さぶる何かを秘めている。
信じるか、信じないか――
それだけである。
最後は、それだけにかかってくる。
高校の頃の親友の一言が忘れられない。
当時、彼は、小説書きなどには興味を示さず、ひたすら実学を志し、社会の上層を目指して努力を重ねていた。
その彼が、
――人間、小説を読まなかったら駄目になる。
といった。
現実の力に頼り切ることを戒めたと同時に――
やはり、彼も信じたかったのだと思う。
虚構の力にも価値があるということを、である。
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2005年12月14日 (水) |
物欲バトン、まなべくん |
物欲バトン
■Q1. 今やりたい事
物語作り、小説書き
■Q2. 今欲しい物
当面の生活資金
■Q3. 現実的に考えて今買っても良い物
外付けハードディスク（書いた作品のバックアップ用）
■Q4. 現実的に考えて欲しいし買えるけど買ってない物
同上
■Q5. 今欲しい物で高くて買えそうにない物
小説書き専用の部屋
■Q6. タダで手に入れたい物
特に無し（タダは結果的に高くつく）
■Q7. 恋人から買いたい物
恋人がいない。
■Q8. 恋人にあげるとしたら
だから、いないって――
■Q9. このバトンを５人に回す。
先日、回したばっかりだから、とくに回さない。
■Q10. このバトンを無視したら？
だから、回さないって――
（ええ、受け取りたい方は、是非、お願いします（ペコリ））
＊
今度は「物欲バトン」である。
まなべくんから、もらった。
まなべくんは、大学院時代の後輩だ（『客間』にリンクあり）
「25歳くらい」ということなので、僕より7つほど歳下である。
ほとんど年齢差を感じない。
僕が若いのか、彼が大人びているのか？
それとも、僕が幼くて彼が老け込んでいるのか？
ときどき、
――実は仲が悪いんじゃないですか？
と心配されることがある。
僕に、そのつもりはない。
彼の感じること、思うこと、彼の目指す物、苛立ちの対象――どれも、ある程度はわかるつもりだ。
それなりの共感を覚える。
もちろん、彼のほうで、どう思っているかは知らない。
僕は、一度は生理学を志した。
彼も、多分そのはずである。
今は二人とも大幅に軌道修正を加えている。
互いに影響を与え合ったことは間違いない。
2003年の夏――
彼を誘って茂木健一郎さんの研究室を訪れた。
今年、『脳と仮想』（新潮社、2004年）で小林秀雄賞を受賞された方である。
よく、ついてきてくれたと思っている。
茂木さんは、伝統的な生理学者とは、かなり違ったスタンスで活動をされている方だ。
いま思えば、これが彼との本格的な付き合いの始まりだった。
以後、彼も僕も少しずつ舵を切っていく。
彼が後悔をしていないといいのだが、さて、どうか。
僕のみる限り、彼は後悔をしていない。
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2005年12月13日 (火) |
夢への想いの境界線 |
想いを強く持ち続ければ、適わない夢はないと教わった。
と同時に、人生、そんなに甘いものじゃないとも教わった。
想いを強く持っていればいいというものではない、と――
どちらも本当だろうと思っている。
例えば、マンガ家になりたい子供がいるとする。
その子が、「マンガ家にないたい！」との想いを強く持ち続ければ、あらゆる努力を惜しまないので、多分、夢は適う。
と同時に、その想いが、あらゆる努力を惜しまないくらいに本気でなければ、夢が適うことはない。
つまり、あらゆる努力を惜しむ・惜しまないの境界線が、想いにはあるようなのだ。
その境界線を見極めたいと思っている。
他ならぬ自分自身の境界線――である。
僕は小説家になりたい。
死ぬまで、物語を紡ぎ続けたい。
人の心を揺さぶる物語を、である。
が、その想いの境界線は、どこにあるのだろう？
時々、それがわからなくなる。
現段階で、漠然と感じている境界線は――
小説とは無関係のことに割く時間を、いかに惜しむかだと思っている。
以前は違った。
小説に割く時間を、いかに惜しまないかであった。
そうではない。
それでは、わかりにくい、
――小説に時間を割く。
とは、
――小説以外のことには時間を割かない。
ということに他ならない。
人に時間は限られている。
が――
これは、いま一つピンとこない境界線なのである。
実は、もっと明瞭な境界線があると思っている。
誰が考えても、納得できる境界線である。
それがみえたとき――
僕は、小説家として認められているだろう。
あるいは、想いをキレイに捨てているか――
どちらかだと思う。
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2005年12月12日 (月) |
小説書きに大切なこと |
昨夜は朝まで小説を推敲し、そのまま副業に出かけた。
30分は寝たけれど――
さすがに、辛い。
早く小説書きだけで生活できるようになりたい――
というより、今の副業に頼らずに生活できるようになりたい。
当分は無理だろうと思っている。
未来永劫、無理かもしれない。
これは、現段階での勝手な憶測なのだが――
副業の一つや二つのあるほうが、小説書きには適している気がする。
小説書き以外の自分を持っていないと、小説書きに没頭できない気がする。
例えば、怒りの感情などというものは、小説を書いているだけでは、わいてこない。
とにかく小説さえ書いていれば基本的には幸せなので、怒りを覚えない。
つまり――
小説を書いているだけでは、ハングリーになれない。
小説書きには、むしろ小説を書けない時間が貴重なように思える。
（うおー、書きたいのに、書けーん！）
と、のたうつ時間が大切ではないか。
そういう時間があって初めて、小説書きに没頭できる。
小説書きに大切なこと――
それは、小説を書けない時間――
とても逆説的だ。
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2005年12月11日 (日) |
映画ファンの妄言 |
僕は、女優のチャン・ツィイーさんが好きである。
だから、チャン・イーモー監督の映画『LOVERS』が封切りになったときは、映画館へみにいった。
（『LOVERS』の主演のお一人がチャン・ツィイーさん）
ジャンルが比較的、マイナーであるということと、公開初日から、だいぶ時間がたっていたということがあって――
観客は僕以外に二人だけだった。
（いや〜、寂しい〜）
である。
それはともかく――
この映画で、僕は金城武さんという俳優の存在を知った。
もちろん、お名前は知っていたし、ご出演の作品もチラホラとなら知っていたけれど、ご容貌やご演技をしっかりみたのは『LOVERS』が初めてであったわけである。
女優さんにせよ、男優さんにせよ――
容貌や演技をみただけで、即、物語になる人がいる。
小説書きとしての創造力が刺激されるということである。
中でも事象が刺激される。
物語は、人物、世界、事象の三要素からなる。
そのうちの事象の部分が刺激されるということである。
チャン・ツィイーさんが、そうであった。
僕にとっては、ど真ん中の「女優の美」なのである。
金城武さんもそうである。
小説書きの血が騒ぐ。
何より色気がある。
男の色気である。
チャン・ツィイーさんの場合、残念ながら、この人を主役にした物語は紡げない。
どうしても脇を固める人物になってしまう。
もちろん、端役ということではない。とても印象深い女優さんなのだけれど――
僕が物語で動かすヒロインとは相容れない、ということである。
が、金城武さんは違う。
十分、主役になる。
かなり、イヤなヤツにはなると思うけれども、男の優しさも、男の身勝手も、巧く具象化できる気がする。そんな容貌をもつ男優さんである。
男優の神髄は悪役にあると思っている。
悪役ができなかったら、
（男優じゃない）
と思っている。
金城さんは、悪役の線が濃厚である。
そう勝手に思っている。
僕と同い年だそうである。
知らなかった。
とある脚本家の方のブログを拝見し、知った。
つい先ほどのことである。
チャン・ツィイーさんの相手役も、この人ならいい。
（好きなだけ絡んじゃって下さい！）
である。
以上、映画ファンの妄言――
映画ファンといえるほど、たくさん視てはいないけれど――
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2005年12月10日 (土) |
小説世界に出かける予定 |
外で夕飯を食べていたら電話があって、車検が終わったという。
車を預けているディーラーさんからである。
引き取りは、今日でもいいし、明日でもいいといわれた。
多分、明日のほうが、ご都合はよかったはずである。
終業時間が迫っていた。
そのまま引き取りにいくと、終業時間を過ぎてしまう。
が、
「すみません。今日でお願いします」
といった。
「明日、出かける予定なんですよ」
と――
本当は、明日でもよかった。
にもかかわらず嘘をついたのは、ある意味で
――明日、出かける予定
が、あったからである。
いま書いている小説世界に出かける予定である。
現実世界に浸かった日には、なぜか小説世界に浸れない。
――小説世界に浸る気持ちになれない。
というのではなく、
――小説世界に浸る気持ちはあっても、なぜか浸れない。
という感じである。
小説世界のほうが逃げていく。
だから、小説世界に浸るときは、極力、現実世界から遊離しておく必要がある。
一度、小説世界に出かけたら、何か区切りが付くまでは、なるべく帰ってこないほうがいい。
というわけで――
嘘をついた。
ディーラーさん、ごめんなさい。
凄い迷惑は、かけていないはずである。
お店についたのが終業時刻ちょうどであった。
説明の時間などを含め、多分、5〜10分くらいの遅れである。
担当整備士の方が、
「ずいぶん早いお着きでしたね」
といってくれた。
ええ、だいぶ急ぎました。
真相が真相なだけに――
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2005年12月9日 (金) |
スヤスヤと眠っている |
日本語の物書きに専従するようになって――
英語に触れなくなった。
よまなくなったし、きかなくなった。
よむほうは、それなりにやってきた。
だから、よしとしよう。
が、きくほうは問題である。
そのうちに、ききとれなくなるに違いない。
英語自体を忘れてしまうに違いない。
それでも別に困らない。
けれど――
せっかく、多少は使えるレベルを維持してきたのである。
貧乏根性が手伝って、
（このまま朽ちさせるのは、もったいない）
と考え、とりあえず、英語をきくようにしてみた。
某リスニング教材を活用している。
副業への行き帰りの時間を利用している。
往復3時間近くも電車に乗っている。
眠ろうにも眠れなかった。
（ヤバい！ 時間の無駄だ）
と思った。
それで、始めた。
そうしたら――
眠るようになった。
なぜかは、わからない。
スヤスヤと眠っている。
英語をききながら、眠っている。
（どういうこっちゃ？）
である。
睡眠学習だと割り切っている。
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2005年12月8日 (木) |
マル太・管理人モード（印象バトン） |
今日の『道草日記』はお休みです。
八尋さん（『客間』にリンクあり）から「印象バトン」なるものを頂きました。
以下、その回答です。
＊
１）バトンを回してくれた人の印象
八尋さんの印象：
小説が巧い！
自分を客観視できている。
どんなときもユーモアを忘れない。
姉貴肌だけど歳下には弱い。
２）周りからみた自分はどんな子だと思われていますか？ ５つ述べて下さい
今年で32歳なので、多分もう「どんな子」って感じではありません。僕を子供だと思える年齢の人にいわせると、おそらく……：
１）頑固・強情
２）威圧的・高圧的
３）責任感はある
４）面白みにかける
５）融通がきかない
３）自分の好きな人間性について、５つ述べて下さい
５つじゃ足りませんよ（笑）ま、とりあえず……：
１）意地っ張り
２）人に配慮しすぎて不器用
３）ときに自分を突き放す。しかも徹底的に
４）頼まれると断れない。引き受けてムリヤリやり通す
５）自分をよくみせようとし、かえって自己嫌悪に陥る
４）では、反対に嫌いなタイプは？
これも５つじゃ足りませんね（笑：
１）地位や名誉に固執する
２）立場の弱い人にだけ威圧的
３）言葉のやりとりを疎かにする
４）とにかく笑えばいいと思っている
５）相手によかれと思う嘘なら平気でつく
５）自分がこうなりたいと思う理想像とかありますか？
ありません。
小説のキャラクターの理想像ならあります。それを目指して小説を書いています。
６）自分のことを慕ってくれる人に叫んで下さい
僕のことはいいので、僕の小説のキャラクターのほうをお願いします（笑
７）そんな大好きな人にバトンタッチ５名！（印象付き）♪♪
５名も挙げられませんよ。
しかも「そんな大好きな人に」の「そんな」っていうのは「自分のことを慕ってくれる」ってことですか？
そんな条件では１名だって挙げられません（笑
とりあえず、僕がバトンをお渡ししたい人ということで――
１）ココピコさん
（印象：とにかく若い！ 頭が柔らかい！ いつでも明るいお母さん。クヨクヨするようでクヨクヨしない）
２）アマサイさん
（印象：渋い！ あと○十年したら、味のあるいいおバアさんになっていそう。小説のモデルになって下さい）
３）まなべくん
（印象：人生の醍醐味はアウトローにあると信じている。それを実践する勇気がある。いつか悟りをひらいて天空に飛び立ちそう）
４）Mr.アニリンくん
（印象：最近、ちょっと元気ないよなあ。っていうか、最近、僕のサイトみてないでしょ？ 別にいいんだけど……）
５）京子さん
（印象：ぽち(仮)さんに先を越された。残念……）
あ、なんとか５名――
もちろん、お忙しい場合は無視して下さってかまいません。
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2005年12月7日 (水) |
ミスを指摘する教育 |
この国の子供（未成人）教育は、ミスを指摘する教育である。
例えば、高校数学で、
――x3 を微分すると 3x2 である
と、すべきところを、
――2x2 である。
と、すると、バツを付けられる。
が、
――なぜ、x3 を微分すると 3x2 になるのか？
という質問には答えられなくても、困らない。
「微分する」の意味がわかっていなくても、「微分する」の手続きがわかっていれば、それでいい。
高校時代、秀才の友人がいた。
――微分で躓（つまず）きかけたけど、x3 を 3x2 にすればいいとわかってから、楽になった。
と、いっていた。
要領の良い友人だった。その後、現役で京都大学に合格する。
現役というのは、予備校通いをすることなく、という意味である。
僕は要領が悪かった。
「微分する」とは、
――関数をグラフに描いたときに、そのグラフの接線の傾きを片っ端から求めていく手続きに同じだ。
と納得する頃には、高校卒業後、2年が経っていた。
その間、計算ミスに苦しめられた。
数学でも理科でも、とにかく計算ミスを繰り返した。
――そのミスを何とかし、早く大学に行け。
と親にはいわれた。
自分の勉強やり方は、この国の社会に適していない、と感じるようになった。
医学部に入り、臨床実習で外科を回っていたときに、
――全ての手続きには意味がある。
と習った。手続きに無意味なものはない、ということである。
（そんなん、当たり前じゃないか）
と思った。
そのときに気が付いた。
この国では、例えば「微分する」の意味を気にするような学習態度は、社会に出てから求められるのだ、と――
もちろん、多く人の場合、社会に出る頃には、「微分する」の意味や手続きとは無縁になっている。
だから、「微分する」など、どうでもいい。
が、
――「微分する」って、つまり、どういうこと？
に通じるような問題意識をもっていないと、この国の社会で重要な地位を占めることはない。
どこの国でも同じだと思う。
だから、思う。
ミスを指摘するだけの子供教育に価値はあるのか、と――
x3 を確実に微分できる子供よりは、微分の意味を確実に知ろうとする子供のほうが、将来、社会で重用されることは間違いない。
ちなみに、高校数学でいえば――
微分は、まだマシなほうである。しっかりと教える先生は、決して少なくはない。
ところが、積分のほうは酷い
3x2 を積分すると x3 になることを、しっかり教える先生がどれほどいるか、疑問に思う。
――微分の反対が積分だ。
では、意味を教えたことにはならない。
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2005年12月6日 (火) |
捨てちまえ！ |
世の中には、
――捨てる技術
というものが、あるらしい。
ちょっと前に話題になった本である。
（……んな技術、あるかい！ その気になったら、全部クソミソで捨ててちめーばいいじゃねーか！）
と思っていた。
今も基本は変わらない。
捨てるのは簡単である。
その気になりさえすれば、捨てられる。
いとも簡単に捨てられる。
そうやって無闇に捨ててきて、とくに失敗したことがない。
捨て過ぎて痛い目にあった記憶がない。
だから――
僕は、その話題になった本を、読まなかった。
読む必要性が感じられなかった。
今も感じていない。
この秋、机の上を整理した。
何年も放っておいた机の上を、である。
ペンや消しゴム、定規、クリップ、ノリ、テープ、修正液など、数多くの文房具を整理した。
捨てるものと捨てたくないものとに分けた。
そして、捨てたくないものをビニール袋にまとめ、TVの脇に置いておいた。
一ヶ月後――
そのビニール袋が邪魔になった。
何かの拍子で、袋の端が画面にかかり、TVがみえずらくなったのである。
僕は、その袋を捨てた。
勘違いで捨てた。
捨てるものと捨てたくないものとに分けていた。
捨てるものは、とっくの昔に捨てていた。
それを、まだ捨てないでいると勘違いをし、捨てたのである。
捨てた翌日に気が付いた。
が、不思議と後悔はなかった。
その袋に何が入っていたかも思い出せずにいた。
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2005年12月5日 (月) |
読んでいて、ひたすらに |
読んでいて、ひたすらに心地よい文章――というものを目指している。
例えば――
リズミカルでテンポがよく、懐が深くて果てはみえず、読み手に現実の憂さを忘れさせる――
そういう文章である。
小説にせよ随筆にせよ、最後は文章の技量で決まると思っている。
もちろん、
――何を伝えるか。
は重要だ。
劇のない小説、心のない随筆は、存在意義を問われる。
が、それだけでは不十分である。
最後に効いてくるのは、
――どのような文章で伝えているか。
であろう。
小説に劇があり、随筆に心があっても、文章が乱れていれば、読み手の気持ちを揺さぶることはない。
文章は、時代と共に変わっていく。
一千年前の文章が、今の読み手の気持ちを揺さぶることは、稀である。
それでも――
物書きは、文章にこだわっていくしかない。
『源氏物語』や『枕草子』が残されてきたのは、読み手の気持ちを激しく揺さぶったからである。
書かれた当時の読み手の気持ちを、である。
中身だけではないはずだ。
文章自体が優れていたのだと思う。
読んでいて、ひたすらに心地よい文章だったのだと思う。
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2005年12月4日 (日) |
映画やTVがなかった頃からの映像 |
――文章を小説たらしむる条件は何か？
について考えている。
ときに、
――これは小説ではない。
とのコメントを耳にする。
小説と小説でないものとが混在するから、このようなコメントが生まれる。
では、小説的文章とは、どのようなものか。
一つの答えは、
――映像
である。
――映像性
と、ボカしたほうがよいかもしれない。
要するに、その文章を読んでいて何らかの映像が思い浮かぶか否か、ということである。
もちろん、映画的な映像、TV的な映像のことではない。
もっと曖昧で、いい加減な映像である。『源氏物語』の時代から、人々の心中に映し出されていたであろう映像をさす。
通例の評論や随筆では、映像が思い浮かばない。
強いて思い浮かべるとしたら、広い講堂の演壇で講演者が一人で喋っている映像である。
基本的には、この種の映像、一通りだけである。
小説は違う。
どんな場所の映像も思い浮かぶ。
どんな事象の映像も思い浮かぶ。
ときに自分がみたこともないような映像さえ、思い浮かぶ。
だから、小説は映像が鍵である――少なくとも、今の僕は、そう思う。
実をいうと――
つい数カ月前までは、別の考えをもっていた。
今は考えを変えた。
小説は映像だ。
映画やTVがなかった頃からの映像――人の心が織り成す映像――
それが文章を小説たらしむる必要条件である。
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2005年12月3日 (土) |
冬支度 |
仙台は雪が舞った。
今冬の初雪だと思う。
月日が経つのは早い。
つい先日まで夏の盛りだと思っていたのに、もう冬支度である。
夏をまとめて5年ぶん――
冬をまとめて5年ぶん――
などとまとめられたらいいのに、と思う。
一年ごとにやってこられたら目まぐるしくてしょうがない。
そんなバカなことを考えた。
面倒なのは車のタイヤ交換である。
雪道をノーマルタイヤで走ると命が幾つあっても足りはしない。
だから、スタッドレスタイヤに交換するわけだが、これが面倒である。
ただ店に頼みに行くだけでも面倒である。
毎年、自分の手で交換している人もいるときく。
驚きである。
車を持つのをやめればいいんだよな。
難しい話ではない。
夏や冬をまとめて迎えることを考えるよりは現実的である。
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2005年12月2日 (金) |
ギャグマンガで |
ギャグマンガで大笑いをする。
久々である。
心の底から笑うというのは、なかなかできないものだ。
いわゆる「笑いのツボ」を突かれることは、滅多にない。
子供の時は、つまらないことでも大笑いをしていた気がする。
だんだん、それに慣らされ、次第に笑わなくなる――いわゆる脱感作ということだろうと思う。
大人になっても、酒の席では、あい変わらず笑っている。
つまらないことにも大笑いをする。
――アルコールが脳の抑制機能に抑制をかけるから。
と神経薬理学では説明される。
どちらも、生理的には自然なことである。
ちなみに――
僕は、あの酒の笑いが嫌いである。
腰を据え、酒を飲みつつ話をするだけなら、そんなにイヤではないけれど――
笑うときは、理屈なしで笑いたい。
神経薬理学的なことや、生理的メカニズムを考えずに笑いたい、ということである。
ギャグマンガの笑いは、そうである。
少なくとも僕にとっては、そうである。
理屈を通り越している。
もちろん、
――どういうギャグマンガがおかしいか。
という理屈なら成り立ち得る。
ギャグの基礎理論である。
が、自分がおかしいと思うギャグマンガに触れ、「笑いのツボ」を突かれ、一人、ケタケタと笑っている分には理屈は不要だ。
それにしても……。
「ギャグの基礎理論」か――
書いていて、おかしい。
（なんだ、それ？）
である。
大真面目に研究している学者が、いるそうである。
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2005年12月1日 (金) |
人を描くには |
人を描くには、人と人との関係を描くに限ると、思っている。
一人の人しか登場しない物語では、一個の生物種としてのヒトしか描けない気がする。
ヒトは、誰か他のヒトと関係を持つことによって、初めて人になる、ということである。
＊
安彦良和さんのマンガ『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』（角川書店）の9巻と10巻とを読む。
安彦さんは人を描くのが巧い。
――ああ、こいつ、こういうヤツだったんだな。
と、納得させられる。
このマンガは安彦さんのオリジナルではない。
原作は1979年に制作・発表されたアニメーションで、安彦さんはキャラクター・デザインを手がけられた。
当時の安彦さんはアニメ作家である。
その後、マンガ家に転身され、かつて御自分が手がけられたアニメーションをマンガ化されている。
単純なマンガ化でないところが面白い。
所々にオリジナル視点を加えておられる。
とくに9巻、10巻は、アニメーションでは触れらていなかった過去の物語を描いておられる。
『ガンダム』好きなら誰もが熟知しているキャラクターたちを多数、登場させ、彼ら彼女らの若き日々の様子を活き活きと描いておられる。
――ああ、こいつ、こういうヤツだったんだな。
というのは、この9巻、10巻を読んでの感想である。
（なんで、こんなに活き活きと人が描けるのだろう？）
と思って考えてみると、安彦さんは、人を描くのではなく、人と人との関係を描いておられる。
そういうことである。
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