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2005年9月30日 (金) |
わかった振りが大嫌いである |
僕は、わかった振りが大嫌いである。
社会生活を営む上で、これほどの害悪はないと思っている。
わかった振りとは、要は、人を欺くことでしかない。
人間社会のありとあらゆる不和を引き起こしうる。
しかも、わかった振りは、極めて安易に実行できる。
誰にでもできる。
どんなに愚かな人にもできる。
僕は、わかった振りが大嫌いである。
そんな僕でも、わかった振りをすることがある。
人の世を生きていくためには、わかった振りをしなければならないことがある。
必要に迫られてする。
仕方なくする。
最高に気分が悪い。
図工用の粘土に牛乳をふりかけて混ぜたものにシャブリつくように気分が悪い。
わかった振りをした自分を、僕は絶対に許さない。
終生、許さない。
本当に許さなかったら気が狂うので、現段階では、適当なところで誤摩化しをする。
が、ここには書く。
僕は許さない。
本当は許さない。
わかった振りをした過去の自分――わかった振りをする今後の自分を、僕は許さない。
決して許さない。
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2005年9月29日 (木) |
危機管理について考えた |
危機管理という言葉がある。
危機的な状況に直面した場合の対処ないし、その準備――というような意味で使われることが多いようだ。
「危機管理」という言葉は誤解を招く。
まるで危機が管理できるみたいである。
実際には、危機は管理できない。管理できないから危機なのである。
「危機管理」とは、危機的な状況における自己管理くらいに理解しておくほうがよいように思う。
一番の問題は、
――今が危機である！
と、いかに気が付くかであろう。
いくら危機管理の知識が万全でも、危機的な状況であるということに気付かねば、意味をなさない。
どうすれば気付くのか？
僕は割と悲観的だ。
直感をみがくしかないと思っている。
とくに個人における危機管理ならば、他にどうしようもない。
理詰めでは無理である。
例えば、情報を入念に集めれば、迫る危機を察知できるかもしれない。
が、個人の情報収集力には限界がある。
そもそも、迫る危機に気付いていないのに「情報を入念に集める」など無理であろう。
ところが――
組織における危機管理ならば、比較的、容易である。
鍵は日頃からのコミュニケーションだ。
一人の人間の直感には限界がある。
が、複数の人間の直感を総合すれば、大抵の危機には気付けるのではないか。
組織において、コミュニケーションは、どんなに重視しても重視しすぎることはない。
危機管理の観点からも、そういえる。
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2005年9月28日 (水) |
人間から魂を抜き取る |
――人形に魂を吹き込んで人間を模造しようなんて奴の気が知れんよ。
押井守さんのアニメーション映画『イノセンス』の中の台詞である（フィルム・コミック『イノセンス』2004年、徳間書店）
主人公バトーの敵役であるキムという人物の台詞だ。
声は俳優の竹中直人さんが演じた。
少し長いが、続きを引用しよう。
――真に美しい人形があるとすれば、それは魂を持たない生身のことだ。崩壊の寸前に踏みとどまって爪先立ちを続ける死体――人間は、その姿や動きの優美さにて……いや、存在に於いても人形に適わない。
この台詞が好きである。
音韻もさることながら、内容が気にいっている。
人間は魂をもつ。
ゆえに、人形の美には適わない。
人が、人間の容姿の美しさを極めようと思うときに障害となるのが魂なのだ、ということである。
人形に魂を吹き込むのは容易なことではない。
ところが、人間から魂を抜き取ることは容易である。
殺人のことをいっているのではない。
人を殺さなくても、人間から魂を抜き取ることはできる。
魂を無視すればよい。
実際、世の中の快楽殺人者のほとんどは、被害者を殺す前に、被害者の魂を無視しているはずである。
つまり、被害者の生身から魂を抜き取っているのである。
魂は主観的なものだと僕は思っている。
例えば、僕の魂は、僕の体の内には存在せず、僕自身の心の内に存在している。それを、ときと場合とに応じて、自我ないし自己と名付け、便宜上、使い分けている。
それ以上に重要な点は、僕の魂は僕以外の人の心の内にこそ存在しているということである。
僕の魂は僕以外の人の数だけ存在している。
もちろん、以上のような見方は古くからあり、ここで特段の目新しさを主張するものではない。
僕が強調しておきたいことは、人は、自身の魂を、自身の生身の内にではなく、他人の心の内に宿しているという点である。
つまり、人は、その気になれば、簡単に他人の魂を握りつぶすことができるということである。
人間から魂を抜き取り、人形と成してしまうことは容易である、ということである。
『イノセンス』のキムは、
――人間は、人形の美には適わない。
と、いう。
その通りと思う。
人間の美を追及しようと思えば、人間の魂を握りつぶせばよい。
少なくとも、人間の外見の美を追求しようと思えば、それが早道である。
善いとか悪いとかを論じるつもりはない。
ただ、このことを、いつも心のどこかに留めておきたいと思う。
人が、人の容姿の美しさを極めようとするとき、必ずや、なにがしかの危うさを伴う可能性がある――
そういうことである。
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2005年9月27日 (火) |
気になる女の子 |
小学生や中学生のとき――
近所を歩いていて、気になる女の子にバッタリ会わないか、と夢想したことがある。
「近所」とは、その女の子の家の近所である。
もちろん、うまく会えるわけがない。
仮に会えたとしても、
（え？ マジ？ どうしよう！）
と慌てふためき、結局、知らない振り――というのが関の山だったろう。
あ。
いま書いていて思い出したが、2回ばかり、うまく会えた記憶がある。
いずれも中学生のときだ。
当時の僕はウブだったので、2回とも、ただスレ違っただけで終わった。
一言も声をかけられなかった。
――え？ マジ？ どうしよう！
と慌てふためいた結果である。
ちなみに、この1回目と2回目とでは別々の女の子である。
中学生のマル太は、どうやら恋多き少年だったようである。
＊
大学生のときにも似た経験がある。
近所のレンタルビデオ屋で、気になる女の子とバッタリ遭遇したのである。
そのレンタルビデオ屋は、気になる女の子の家の近所にあり、かつ僕の家の近所にあった。
つまり、その娘（こ）の家の近所に僕は住んでいたわけである。
にもかかわらず、その娘（こ）とのバッタリ遭遇は1回きりであった。
後にも先にも、これっきり――
もう少し多く遭遇していても、おかしくはなかったと思うのだが……。
よほど相性が悪かったらしい。
ちなみに――
当時の僕は、
――え？ マジ？ どうしよう！
と慌てふためくほど、ウブではなかった。
――やあ、偶然だね。どうだい？ これから一緒に食事でも……。
みたいなドラマの真似さえも、しようと思えばできたはずである（多分
でも、そうしなかったのは、それが悪趣味だから、というだけではない。
僕がレンタルビデオ屋に来ていた理由は、当時、付き合っていた彼女と一緒にみたビデオを返却するためだった。
気になる女の子がいたのに、その彼女と付き合い始めていたのだから、ヒドい話である。
僕が、いまだに結婚できないのは、こうした不誠実の積み重ねの報いだろうと思っている。
それは冗談だが……。
＊
何歳になっても、気になる女の子の存在は大事にしたい。
気になる女の子を気にしつづけることができる感受性を、である。
もし、それが、本当に可能なら……。
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2005年9月26日 (月) |
仕事を楽しむ |
仕事を楽しむとはどういうことか、について考えた。
――仕事を楽しめる人は、強い。
などという。
その通りと思う。
この場合の仕事というのは、
――どうしてもやらなくてはならないこと
である。
ときに生活のために、ときに人に頼まれて、ときに宿命的に、どうしてもやらなくてはならないこと、である。
通常、最初は楽しめない。
最初だから慣れていないし、そもそも「どうしてもやらなくてはならない」から、仕方なく、引き受けたわけである。
ここまでは万人が同じと思う。
が、仕事の楽しみ方を知っている人は、ここから先が違ってくる。
――どうやったら楽しくこなせるか。
を考える。
自分流のアレンジを始める。
もちろん、仕事の本質は変えられない。
変えるのは、本質の周辺である。
車の運転で喩えるならば、運転席の位置や鏡の向きを調整するようなものである。
これが大切である。
運転席の位置や鏡の向きが狂っていては、運転は辛いだけであろう。楽しくなるわけがない。
「楽しむ」とは、ある意味「楽をする」に通じる。
もちろん、仕事の質を落とさずに楽をするのである。
仕事を質を落として楽をするのは「怠ける」ということである。
一つ注意すべきことがある。
人は決して全ての仕事を楽しむことはできない、ということである。
どうしてもダメなもの、というのがある。
これが大事である。
よく、
――自分のやりたいものを探せ。
などという。
間違いだと思う。正しくは、
――どうしてもダメなものを探せ。
であろう。
人生の失敗は、大抵の場合、「自分のやりたいもの」を見つけ損ねたからではないように思う。
「どうしてもダメなもの」を見つけ損ねたから、ではないか。
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2005年9月25日 (日) |
突然の解任劇に「？」 |
納得がいかない。
田尾監督の解任劇である。
プロ野球・東北楽天ゴールデンイーグルスのことだ。
一度は来季の続投が言明された。
それなのに、突然の解任劇である。
「今シーズンは勝った、負けたで判断されるわけがないと思っていた」
今日、田尾監督が語ったとされる言葉である（毎日新聞、提供）
（そりゃ、そうでしょう！）
というのが僕の本音だ。
もともと3年契約であった。
しかも、戦力的には明らかに不利な状況での1年目である。
勝てという方がおかしい。
今季は、どれくらい球団が地元に根付いたかで評価されるべきである。
その点、田尾監督は合格だ。
球団は、少なくとも仙台や宮城には根付きつつある。
さすがに「東北全域に根付いた」とはいえないが、そんなことはマトモなファンには最初からわかっていたことである。
プロ野球のチームは街で支えるものである。せいぜい県の規模である。東北6県では広すぎる。
その辺の感覚のマズさは球団のネーミングに象徴されている。
なぜ、チーム名に「東北」を入れるのか？
「仙台イーグルス」や「宮城イーグルス」ではいけなかったのか？
仙台や宮城だけでは経済圏が小さすぎるとの判断か？
貧乏根性が透けてみえるみたいで、残念である。
何もないところからスタートした今年のイーグルス――
それでも、大勢のファンが球場に詰め掛けた。
今季のチームの顔は、何といっても田尾監督であった。
皆、田尾監督の苦闘ぶりが気になって、球場に応援にいったようなものではなかったか。
乏しい戦力で、いかに野球を魅せるのか？
来季に向け、いかに今季を闘うか？
そうした観点からみて、今季の田尾監督が大きなミスをしたとは思えない。
いったい、解任の理由は何なのか？
球団経営陣は、地元ファンに親しまれている点は評価できるものの、監督としての手腕には疑問をもっているという。
選手の起用法や育成法だそうである。
しかし、そんなものが1年で評価できるのか？
最近では、地元ファンからも解任を要求する声が高まっているという。
そのファンとやらは、どういう理由で解任を要求しているのか？
まさか、90敗したからか？
もし、そんな理由で解任を要求しているファンがいたとすれば、そのファンは、プロ野球の魅力がわかっていない。
多分、勝たなければ意味がないと思っているのだろう。巨人や阪神などの既存の人気球団からの鞍替え組ではないか。
もし、今季の成績を最大限に重視するならば、去年の段階で田尾監督に就任を要請するべきではなかった。
当然である。
田尾監督には現場指揮の経験がゼロであったのだから――
にもかかわらず、田尾監督を起用したのだから、せめてあと一年は任せるのが筋である。
今季の失敗を活かせないとわかった時点で解任すべきであった。
後任には野村克也氏（元ヤクルト監督、元阪神監督）らの声が上がっているという。
場当たり的な人事だ。
野村氏は過去の人だ。
プロ野球の監督には耐用年数という観念がある。野村氏の監督しての耐用年数が過ぎてしまったことは、阪神時代の失態が示している。
お歳からいっても現場指揮は無理ではないか。少なくとも長期の現場指揮は無理である。
もし野村氏に任せるのであれば、今季であった。
しかも、1年契約で、である。
――そんな失礼なことはできない！
とでもいうのだろうか？
合理性を重視したから、田尾監督を今季で解任するのであろう。であれば、昨年のうちに、もっと合理的になるべきだった。
結局、今回の解任劇の真相は、球団の内部抗争だと僕は思っている。
――あいつは気にくわねえ！
という低レベルの解任理由ではないか？
そうでないと主張するならば、是非、納得のいく理由をファンに説明して欲しいものである。
球団経営陣には、その義務がある。
もちろん――
これが楽天株式会社の内部人事なら、口は挟むまい。
楽天株式会社の経営が傾こうと行き詰まろうと、僕ら部外者にはどうでもいいことである。だから、人事に口を挟む権利もない。
が、東北楽天ゴールデンイーグルスは違う。
イーグルスは基本的には楽天株式会社のものではない。
プロ野球ファンのものである。
――ファンあってのプロ野球
という。
プロスポーツの基本である。
それを1年目から忘れるようでは困るのである。
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2005年9月24日 (土) |
自分自身を主人公とした自分の物語 |
人が、人として生きていくためには、物語が必要だと思っている。
自分自身を主人公とした自分の物語である。
例えば、
――私は、この子の親なのだ。
と思って子育てに勤しむ者には、「私は親であり、子育てに勤しんでいる」という物語が必要である――そのように考えることができる。
この種の物語は無数にある。
例えば、
「私は町のラーメン屋で、毎日、多くの客に喜んで食べてもらっている」
とか、
「私は自治体の公務員で、住民に不可欠なサービスの担い手である」
とか、
「私はマンガ家で、少年たちに夢や希望を与え続けている」
とか――
敢えて淡白な書き方をしたが、これら物語の一つひとつは、本当は濃厚で精緻である。
つまり、人生の解釈――あるいは人生そのもの――といっても、いいのかもしれない。
この種の物語に満足している人は、充実した人生を送っている。
満足していない人でも、その「満足していない」という部分まで含めて物語に昇華できている人は、それなりに充実した人生を送っているに違いない。
心配なのは、この手の物語に無自覚な人である。
人生を後ろ向きに生きている人の多くは、自分の物語に満足していないばかりか、自分の物語を狭い視野でとらえている。
例えば、
――本当はこんな仕事、やりたくなかったんだ。
で止まっている人のことだ。
物語の幅が狭すぎる。
なぜ、「こんな仕事」をやる羽目になったのか？
それでも、それを全うするには、どうしたらいいのか？
どうすれば、今の状況から抜け出せるのか？
本当に抜け出す必要はあるのか？
そういった観点が欠けている。
だから、物語の幅が狭い。正確には、物語の一部しかみえていない。
そういう人も、傍目には、すばらしい物語を生きているようにもみえる。
が、その自覚がないために、つい後ろ向きに生きてしまい、その結果、周囲と摩擦を起こし、ときに多大な迷惑をかけている。
自分の物語を作るのは自分自身である。
周りの人間には、いかんともしがたい。
自分の物語に無自覚な人と付き合うのは、難しい。
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2005年9月23日 (金) |
ソフトクリームをブチュ |
蹴られてしまった。
小さな男の子に、である。
今日、電車に乗っていたら、隣の座席に、お母さんと小さな男の子とが座った。
電車が動き始めると、男の子はジッとしていられなくなり、お母さんの膝の上で暴れ始める
そのうちに、男の子の片足が、
――バシ
と僕のズボンの裾をヒットする。
しばらくして、また、
――バシ
また、
――バシ
計3回も蹴られてしまった。
蹴られたからといって、どうってことはない。
きれいなズボンをはいていたわけじゃないし……。
でも――
あんまり気持ちのいいものでもない。
男の子は気付いていたのだろうか？
僕のズボンの裾を蹴ったことに、である。
意外と気付いているものだと思う。
でも、怖くて言い出せない。
――ゴメンなさい。
が言い出せない。
僕も人のことはいえない。
＊
27年前のこと――
僕は4歳か5歳で、スイスのチューリッヒに住んでいた。
デパートの前で、親にソフトクリームを買ってもらい、ご機嫌でペロペロなめていたら、思わず、
――ブチュ
と、目の前のジーンズにくっつけてしまった。
スイス人のお兄さんのお尻である。
お兄さん、気付かず――
僕は知らんぷりで、その場を離れた。
当時、僕は現地の言葉がペラペラだったらしいので、謝ろうと思えば謝れた。
でも、謝らなかった。
できなかった。
勇気が足らなかった。
チューリッヒのお兄さん、ゴメンなさい。
本当は、ちゃんと謝るべきだったのです。
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2005年9月22日 (木) |
主語を省く |
台所の母親が、居間の子供に向かって、
「何してるの？」
と訊く。
「TVをみてる」
と子供が答える。
この会話を英語に直訳すると、
――What are you doing?
――I'm watching TV.
となる。
が、もっと直訳すると、
――What doing?
――Watching TV.
になる。
日本語では文脈上、明らかな場合には、主語を省く。
＊
英語を母国語とする人に、以上のような説明をしたら、
「Really?（ホントに？）」
と驚かれた。
主語を省くということが、彼らにとっては摩訶不思議らしい。
英語で主語を省くことは極めて稀だからだろう。
僕らにいわせれば、いちいち主語を指摘するのが摩訶不思議だが……。
＊
ちなみに、
――What doing?
――Watching TV.
でも意味は通じるかと、尋ねてみた。
通じるという。
が、良い英語とはいえない、ということであった。
同様に、日本語で、
――あなた今、何しているの？
――僕は今、TVをみてる。
としてみる。
不自然である。
良い日本語とはいえない。
こんなやりとりを普通に小説で書いたら、おかしい。
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2005年9月21日 (水) |
後藤田正晴さんが |
後藤田正晴さんが亡くなった。
91歳だったという。
最近までTVに出ておられた。
（まだまだ、お元気なんだな）
と思っていたら、この訃報である。
元副総理の肩書きで呼ばれる。
旧内務官僚に始まり、警察庁長官、内閣官房長官、法務大臣・副総理などを歴任した。
――なろうと思えば首相になれた人
ともいわれる。
僕が後藤田さんの人となりを初めて意識したのは、佐々淳行さんの『わが上司 後藤田正晴』（文春文庫、2002年）を読んだときだ。
佐々さんは官僚出身の文筆家で、長年にわたり後藤田さんに仕えた人である。
この本の帯に「後藤田五訓」と呼ばれる5つの訓戒が書かれている。
一、省益ヲ忘レ、国益ヲ思エ
一、悪イ、本当ノ事実ヲ報告セヨ
一、勇気ヲ以テ意見具申セヨ
一、自分ノ仕事デナイトイウ勿レ
一、決定ガ下ッタラ従イ、命令ハ実行セヨ
昭和61年――
当時、内閣官房長官だった後藤田さんが、佐々さんら直近の部下たちへ示した訓戒であるらしい。
1番目以外は、世間一般に広く通じる訓戒である。
後藤田さんは官僚として抜群に優秀だったといわれる。
上記五訓に忠実な官僚なら、優秀に決まっている。
政界に転身した後も、官僚のポジティブな面を上手に活かした人である。
総理大臣の椅子を固辞したのは、元来の職分を越えすぎるとの御判断があったためではないか。
ニュース23（TBS系列）の筑紫哲也さんは、今日の放映の中で、
――政界に入る前と出た後とで、これほど評価の変わった政治家は珍しい。
というようなことを指摘された。
最初は旧内務省出身の冷徹な役人だったのが、最後は理知的で誠実な護民官になって、多くの政治家や有識者の信望を集めたというのである。
――カミソリ後藤田
と渾名（あだな）された。
「カミソリ」の意味がよくわからなかった。
もちろん、鋭利な人だから付いた渾名だろう。
が、それだけではない。
多分、政治家や一般官僚やマスコミを震え上がらせるだけの素地が、この人にはあったのだと思う。
戦前の内務省とは、そういう役所であった。
僕らの世代にとっての後藤田さんは、中曽根内閣での官房長官から始まる。
すでに「内務省」のレッテルは剥がれつつあった。
筑紫さん風にいえば、理性的な護民官の後藤田さんしか知らなかったことになる。
バランスの人ともいわれた。
後藤田さんがハト派にみえるときは、時代がタカ派に傾いている。
左派にみえるときは、右派に傾いている――
そういうことである。
その後藤田さんが、数年前のインタビューで、小泉総理を、こう評していた。
――あの総理は危ない。ときに頑固に猛進する。
同時に、
――世間が思っているほど右ではない。むしろ反対だ。
とも評している。
――だから、私には、よくわからない。
とも――
率直な評だと感じる。
ふと妄想した。
もし、後藤田さんが小泉総理の官房長官を務めていたならば――
これ以上の適任者は、なかったかもしれない。
郵政民営化問題も、とっくの昔に解決していたように思う。
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2005年9月20日 (火) |
ピカチュウは放射能を出す!? |
今日もレストランで聞き耳をたてた話――
高校生くらいの集団が、仲良く夕飯を食べている。
「○○って、放射能が出るらしいよ」
「えー？ それって、まるでピカチュウじゃん！」
「ポケモンの？」
「アハハハ！」
＊
きいていた僕は、
（えー！）
である。
（ポケモンのピカチュウって、そんな代物だったのか！）
絶句した。
（それは面白い！）
の絶句である。
「ポケモン」も「ピカチュウ」も知らなかった。
何のことかサッパリである。
子供たちに人気があるということしか知らなかった。
が、なぜ人気があるのか、ようやくわかった気がした。
きっと、人気の秘密は、
（放射能を出す！）
に違いない。
正しくは、
――放射線を出す。
である。
放射能とは「放射線を出す性質」を指す。
もちろん、人体に有害である。
一定量を超えた放射線を浴びると酷い目にあう。
浴びる量が多ければ簡単に死亡する。
ポケモンの物語に、そんな小道具が使われていたとは――
（新鮮だ！）
と思った。
（もっと早く知っておくべきだった）
とも――
しかし――
＊
高校生たちの会話の続き――
皆で「アハハハ！」と、ひとしきり笑った後で――
「いや、それ違うっしょ。ピカチュウは放射能ださないから――」
「えー！ 昔は出してたよ」
「出してないよ。そんなヤバいもん、出すわけないじゃん。子供向けなんだし……」
「ウソ？ マジで？」
高校生たちに沈黙が訪れる。
＊
（なんだよ。ガセネタかよ）
僕のテンションも一気に下がった。
あの「アハハハ！」は何だったんだろう？
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2005年9月19日 (月) |
業界話に御用心―― |
レストランで夕飯を食べていたら、隣の席の女性2名が、いきなり業界話を始めた。
業界の外部の人にはわからない言葉を飛びかわせている。
（みっともないな）
と思った。
みっともないだけなら、まだいいのである。
ときには、業界全体のリスクになりかねない。
（業界話に御用心――）
である。
2人の話が業界話だとわかったのは、僕の知らない業界ではなかったからである。
医療業界の話だった。
医療に限らず、サービス業に従事している場合、公共の場での世間話には注意を払わないといけない。周囲はサービスの対象者であふれているからだ。
医療の場合は、患者、患者の家族、患者予備軍などである。患者予備軍を含めれば、ほとんど全ての人がサービス対象者である。
業界の内部では常識的なことでも、業界の外部では非常識的なこと――というのは、結構たくさんあるものだ。
もちろん、事情を細かく理解すれば、どれも自然なことであったり、仕方のないことであったりするのだが、普通、そうは解釈してくれない。
悪意に満ちて解釈される。
言葉の断片では、負の側面しか伝わらない。
僕も時々、失敗をする。
酒の席で何気なく医療の話題を持ち出し、周囲に振り向かれ、後悔したことがある。
だから、医療関係者と酒を楽しむためには、一室を借り切るくらいが丁度よい。
値は張るし、手間もかかる。
が、仕方ない。
話題に注意を払って酒を飲むくらいなら、飲まないほうがましである。
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2005年9月18日 (日) |
小説に未来はあるか？ |
小説に未来はあるか？
時々、不安になる。
マンガやアニメやゲームが、これだけ隆盛を極めている時代である。
小説が生き残れる保証は、どこにもない。
これは以前の『道草日記』にも書いた記憶があるが――
もし、小説が生き残れるとしたら、斬新な物語が生まれやすい媒体としてではないかと思っている。
マンガやアニメやゲーム――あるいは、TVドラマや映画――は、一人で創作することができない。
小説はできる。
だから、斬新な物語が生まれやすい。
一人は身軽だ。
色々な冒険が可能である。
予算の制限もない。
これも大きい。
とある有名なTVドラマ脚本家が、
――小説は書いていて寂しくなるときがある。
といっていた。
TVドラマでは、地震や火事は簡単には起こせない。予算がかかるからである。
しかし、
――小説では、地震も火事も起こし放題――
それが寂しいということだ。
――この地震は、物語の展開上、どうしても必要なんだ！
とプロデューサーに力説する必要がない。
もちろん、小説が他のメディアよりも自由であるという点は、大いに活用すべきである。
が、このことが必ずしも良い効果をもたらすとは限らない。
とあるベテラン映画監督は、
――物語は、制約があるから面白くなる。
といった。
つまり、地震や火事が簡単には起こせないからこそ、物語は面白くなる、ということである。
御自身の経験に依るのだろう。
妙に説得力がある。
似たようなことなら、僕も経験している。
――なんでも自由に書いてね。
といわれ、かえって、つまらなくなった。
自由は諸刃の剣である。
小説に未来はあるのだろうか。
将来、小説なんて誰も読んでいないかもしれない。
遠い将来の話では、ないかもしれない。
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2005年9月17日 (土) |
物語を紡ぐ喜び |
物語には動と静とがある。
僕は、物語の静の部分に惹かれる。
静の部分が圧倒的に好きである。
躍動する動と動との合間の一瞬の静が好きである。
もちろん、だからといって、静ばかり描くわけにはいかない。
静を描きたいなら、動も描かないといけない。
物語として成立するためには、動の部分も存在しないといけない。
静だけの物語は退屈である。
とはいえ――
退屈なのは物語の受け手だけではないか。
紡ぎ手のほうは、実は、そんなに退屈ではない。
むしろ、楽しくてしょうがない。
少なくとも僕はそうである。
僕は、静の部分において、もっとも登場人物に親しみを覚えやすい。
動の部分では、登場人物の境遇が非日常的すぎていて、ついていけないのである。
まあ、一概にはいえないか――
登場人物の性格によっては、動の部分のほうが描きやすいこともある。
静の部分よりも動の部分のほうが自然に感じられる登場人物である。
要するに、いかに登場人物に親しみを感じられるか、である。
物語を紡ぐ喜びは、その一点にかかっているといっても過言ではない。
少なくとも僕の場合は、そうである。
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2005年9月16日 (金) |
結婚は何となく |
近年、熟年夫婦の離婚が増えている、という。
多分、本当のことだ。
僕の周辺でも、実例の噂はチラホラきかれる。
そういう噂をきいていると、
（結婚生活ってのは、決して頑張りすぎてはいけないんだな）
と感じる。
当然だ。
懸命な頑張りが、そう長続きするわけがない。
子供が生まれれば、鎹（かすがい）にはなるだろう。
が、かえって事態をみえにくくもする。
本当は、もっと早く別れるべきだったのに、子供が生まれたせいで、別れるのが20年ほど遅れた、などという話は珍しくもない。
もちろん、その20年がムダであったということでは決してない。
それはそれで意味のある時間である。
ものは考えようである。
＊
――結婚は勢いでするものである。
という考え方がある。
一理ある。
が――
本当は違うのではないか。
少なくとも、理想的には違うのではないか。
――結婚は何となくするものである。
これが意外な真理に思える。
勢いがなければできないような結婚は、多分、しないほうがいい。
現実問題としては、そうもいかないが……。
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2005年9月15日 (木) |
日本人の睡眠不足 |
――なぜ日本人は公共の場で居眠りができるのか？
外国人には理解できないそうである。
たしかに、海外の公共の場で居眠りをしている人は、みたことがない。
日本国内においても、外国人が居眠りをしているところは、みたことがない。
もちろん、
――日本は治安が良いから。
というのが大きな理由の一つだろう。
少なくとも、海外に比べれば日本の治安は、まだ十分に良い。
この治安の良さに慣れているから、日本人は特に不安を感じることなく眠れてしまうのだろう。
睡眠不足も理由の一つかもしれない。
日本人の多くは慢性的な睡眠不足である。
1日の睡眠時間は6時間もあれば十分と考える日本人は多い。
が、海外では必ずしもそうではないようだ。
例えば、ヨーロッパ人の知己は、
――6時間でも生きてはいけるが、8時間は眠らないと十分ではない。
と、いう。
だから、余程のことがない限り、常に8時間は眠るようにしているという。
この話を日本人にすると、
――それは眠り過ぎ！
と、一笑に付された。
たしかに、8時間は長い。
例えば、朝7時に起きなければならない人は、夜11時に眠らないといけない計算になる。
日本で夜11時といえば、まだTV番組が盛んに放送されている時間帯だ。
しかし、客観的にみれば、おかしいのは日本人のほうであろう。
――1日に8時間も眠るなんて！
といって、一笑に付すのは、行き過ぎのように思う。
日本人の睡眠不足は主に大人である。
子供は、そうでもない。比較的、しっかりと眠っている場合が多いように思う。
もちろん、最近は深夜まで起きている子供も少なくはないそうだが……。
それでも、例えば、列車の中で親子連れをみていると、ある事に気付く、
親が居眠りをしていても、子供はしていないことが多い。
――寝ちゃダメ！
と親を叱る子供まである。
今日も、そんな親子連れをみた。
電車の中である。
小学生くらいの娘さんが、お父さん、お母さんの寝顔を、しきりに眺めている。
見上げる目線は不安そうですらあった。
そういえば、僕にも、そんな記憶がある。
旅先の電車で両親が居眠りを始めると、妙に不安になったものだ。
日本人は、もう少し寝てもいい。
もちろん、安易に、
「眠れ！」
と、いうつもりはない。
日本が、戦後半世紀の間に著しい経済発展を遂げたのは、この睡眠時間の犠牲と無縁ではあるまい。
経済動向を落ち込ませない程度に睡眠時間を伸ばすことは、できないものだろうか？
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2005年9月14日 (水) |
総選挙総括（前編） |
ここ数日、『道草日記』は政治の話ばかりである。
今日を最後にしたいと思う。
＊
自民党の圧勝に終わった今回の総選挙――
勝敗の分析の一つに、
――生真面目な岡田民主党が、不真面目な小泉自民党に敗れ去った。
というものがある。
例えば、岡田代表と小泉総理との演説を聞き比べてのことであろう。
たしかに、岡田代表は笑みすらみせずに、堅い話ばかりしていた。小泉総理は冗談を交え、ときに無駄話さえした。
よって、
岡田代表 ＝ 生真面目
小泉総理 ＝ 不真面目
の図式は、一見、正しいようにもみえる。
以上を踏まえ、
――真面目の美徳が蔑まれる時代がやってきた。
と言い出す識者まで現れた。
その見方は、少しおかしい。
たしかに、小泉総理は不真面目な一面をもつ。
が、決して不真面目一辺倒ではない。
今回の総選挙で、民主党は壊滅的な打撃を被った。
それは自民党の旧体質も同じである。
例えば、TVカメラの前で、
――総理に解散などさせない！
と豪語した元自民党の大物議員・亀井静香氏である。
御本人は辛うじて議席を守ったものの、配下の派閥勢力は完全に奪われてしまった。
そもそも、自民党を追放されてしまったのだから、派閥も何もあったものではない。
かつて、同じように、
――総理に解散などさせない！
と叫んだ議員に故・金丸信副総理がいる。
金丸氏は亀井氏とは違った。総理を恫喝し、最後は薙ぎ倒した。総辞職に追い込んだのである。
時の総理は海部俊樹氏である。
あの頃の自民党は、今の旧体質が本質であった。
しかし、いかに金丸氏といえども、今回の小泉総理の戦略・戦術には、してやられたに違いない。
時代が変わったということである。
今回の総選挙で、小泉総理が真面目に取り組んだこと――それは郵政民営化の名を借りた自民党旧体質の打破である。
この一点に関し、小泉総理は、総理になる前から、実に生真面目であった。
郵便局関連の組織票に頼った自民党議員を駆逐することで、一部の既得権層に配慮した政治判断が下される現状を変えたい、という決意である。
もちろん、既得権層は郵便局関連だけではない。が、その象徴として標的にされた。
とはいえ、郵便局関連の組織票が自民党の大いなる支持基盤であったことは事実である。不当な狙い撃ちとの批判は当たらない。
極論すれば、小泉総理は、
――政治改革！
と叫ぶ代わりに、
――郵政民営化！
と叫んでいたのである。
改革を真面目に働きかけるなら、「改革」の言葉は使うべきではないといわれる。
改革の標的にされる側の警戒心を呼び起こすからである。
（後編へ）
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2005年9月14日 (水) |
総選挙総括（後編） |
（前編より）
今回の総選挙でも、小泉総理は最初から郵政民営化反対派議員を自民党から切り離すつもりでいたといわれる。
反対派議員たちは、小泉総理の覚悟を読み違えた。
もっとも、小泉総理の国会答弁を詳細に聴取していた人は、こうした事態は容易に予測できたらしいが……。
ここにも小泉総理の生真面目さが伺い知れる。
つまり、
岡田代表 ＝ 生真面目
という図式は、さておき、
小泉総理 ＝ 不真面目
という図式は明白に誤りである、といいたいわけである。
小泉総理 ＝ 不真面目 ＋ 生真面目
が正しい。しかも、右辺は、おそらく、
不真面目 ≪ 生真面目
である。そこを多くの有権者が敏感に感じとった。
小泉総理 ＝ 不真面目
とみた一部の識者は、この点を見落としているようにみえる。
だいたい、不真面目な人間が、近隣諸国との外交をこじらせてまで、靖国神社に参拝するわけがない。
小泉総理の本質は度を越した生真面目さにある。
だからといって、僕は小泉総理を絶対的に支持するものではない。
――こういう生真面目な政治家こそが、正義を振りかざし、ときに戦争を引き起こす。
との懸念が捨て切れないからである。
実際、戦争を起こした。
今回の郵政解散は、天下分け目の関ヶ原である。
慶長五年の関ヶ原との違いは、戦闘が8月から9月の初旬にかけて全国各地で一斉に行われたということ、および物理的な戦死者が一人も出なかったということだけではないか。
とにかく、
小泉総理 ＝ 不真面目
の図式は誤りである。
小泉総理 ＝ 不真面目 ＋ 生真面目
が正しい。そして、どこの国でも、真面目一辺倒は嫌われるのである。
民主党の敗因も、その周辺にある。
＊
ところで――
自民党の旧体質の親玉だった亀井静香氏であるが――
郵政民営化反対を唱え、自民党系の無所属候補（ライブドアの堀江貴文社長）と小選挙区で対決していたせいか、一部で、民主党の親玉と間違われたようである。
これでは民主党が浮かばれない。
本来、亀井氏のような政治家を最も叩きたがっていた勢力は、民主党のはずである。
気の毒といえば気の毒である。
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2005年9月13日 (火) |
人が人を選ぶ難しさ |
人が人を選ぶのは簡単ではない。
衆院総選挙を振り返って思うこと、である。
＊
20年ほど前から、識者やマスコミの間で、時々、
――首相公選制の導入を！
との声が上がった。
――主権在民なのに、なぜ自分たちでリーダーを選べないのか？
ということであったと思う。
小選挙区制が導入される以前の10年ほど前までは、日本の政治は「密室政治」が常態だった。与党内部の派閥力学が、国のリーダーを決めていた。
もちろん、派閥の構成員は自分たちが選んだ代議士である。その代議士たちが選んだリーダーだから、結局、自分たちで選んでいることになるのだと、みることもできた。
しかし、
――あの先生は、地元の利益を回してくれそうだから選んだんだ。
というのが実感であった。
国のリーダーを選んでもらうために選んだのだと考えていた人は、ほとんどいなかったに違いない。
――なんで密室で決めてしまうのさ。
という苛立ちである。
その頃、よく引き合いに出されたのは、アメリカの大統領選である。
――彼らはいいよな。自分たちでリーダーを選べるから……。
ということだった。
時代は様変わりした。
今回の総選挙で、僕らは、たしかに自分たちのリーダーを選べたのである。
国民の多くが望めば、小泉総理を退任に追い込むことも、岡田代表を総理に据えることも可能だった。
が、リーダー選びは、決して簡単ではなかった。
マスコミの報道をみる限り、今回の総選挙には、小泉総理の信任投票の様相はあっても、政権選択の様相は希薄だった。
――小泉総理か岡田代表か？
というよりは、
――小泉総理は是か非か？
であった。
小泉総理は、政権の首班を担う政治家としては、及第点である。
もちろん、人には好みがある。とくに人が人をみるときの好みは強烈である。
だから、最終的な評価は分かれて当然だ。
が、あの総理を、非力・無能とみる人はいない。
そういう人を任期途中で辞めさせるには相応の理由がいる。
例えば、岡田代表を擁する民主党政権を望んでいた人も、この時期に小泉総理を引きずり下ろすのは適切でないと判断し、今回は自民党に投票したという人も意外に多かったのではないか。
人が人を選ぶ難しさである。
好みだけでは選べないし、理屈だけでも選びたくない。
＊
そういうえば、首相公選制の声が上がった頃に、光り輝いてみえたアメリカの大統領選だが――
アメリカ国民は、自分たちの望むリーダーを本当に選べているのだろうか？
今の大統領は、前の前の大統領の息子である。
色々なしがらみがあって、ああなったことであろう。
ある意味、
――日本的だな。
と思う。
少なくとも今は、そんなに光り輝いてはみえない。
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2005年9月12日 (月) |
人の心を掴む手続き |
一般に「政治」というと、悪いイメージがつきまとう。
例えば、
――あいつは政治ばかりする。
といえば、大抵は悪口である。
政治が、権力闘争や利益誘導を指すなら、その通りだろう。
が、政治とは、本来、そういうものではない。
少なくとも、政治の素過程に、そういうものは含まれない。
いかに人の心を掴むのか――それが政治である。
人の心を掴む手続きとして、ときに権力闘争が起こり、ときに利益誘導が起こることは、あるにせよ――
人の心を掴むのは難しい。
大義だけでは人は動かない。
実利だけでも人は動かない。
論理だけでは人は動かない。
感情だけでも人は動かない。
もろもろの要素が絡み合い、ときに、ある要素が突出し、ときに、ある要素が切り捨てられ、それでようやく人は動く。
その経緯は実に千差万別だ。
個人によっても違うし、状況によっても違う。
だから――
政治を、ひと口で語るのは難しい。
なのに、今日の『道草日記』は、それをひと口で語ろうというのだから、到底、無理な話である。
でも、敢えて語る。
政治とは、人の心を掴む手続きである。
権力闘争に明け暮れ、利益誘導に邁進するのが政治ではない。
「政治」という言葉が、僕らの日常生活の中で、もう少し肯定的に語られたほうがよい。
僕らの職場や地域社会や交友関係に溶け込んでいる日常レベルの政治が、もう少し意識的に語られるとよい。
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2005年9月11日 (日) |
国民投票であると割り切るならば |
最後まで潮目は変わらなかった。
衆議院議員総選挙の話である。
自民党の地滑り的大勝利が報じられている。
小泉総理の仕掛けた奇襲作戦に、民主党陣営は成す術もなく崩れ去った、といったところか。
これを書いている段階では、まだ全ての選挙区での結果が出揃ったわけではない。
が、民主党の議席が、そのまま自民党の議席に置き換わったような印象を受ける。
民主党が完敗したのは政局だ。
政策ではない。
――政局に弱ければ政策は実践できない。
の好例が、今回の民主党である。
敗因は、
――人心を掴めなかった。
の一点につきる。
衆議の政治の下での政局とは、人心の掌握に他ならない。
郵政民営化に争点を絞った小泉総理の人心掌握術が、民主党の人心掌握術よりも優れていたということであろう。
以後は、小泉総理の任期が問題視されるに違いない。
小泉総理は来年9月の任期満了に伴い、総理総裁の地位を退任すると言明している。残り1年の任期である。
が、今回の投票で選出された衆議院議員の任期は、最大4年である。
3年のギャップがあるわけだ。
このギャップを埋める方法が一つだけである。
来年の8月に、もう一度、総選挙を行うことだ。
今回の総選挙を、郵政民営化に争点を絞った国民投票であると割り切るならば、今度は政権選択を迫る総選挙が必要になってくる。
自民党も民主党も、それぞれ党の看板を書き変え、再度、国民の審判を仰ぐのが筋というものであろう。
選挙には税金が投入される。
2年間で2度もの総選挙は税金の無駄遣いとみる向きもあろう。
が、かかる大事に投入されるなら、納得もいく。
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2005年9月10日 (土) |
民主党代表の |
民主党代表の岡田克也さんは「魂の問題」で奥さんと意見が合わないそうである。
奥さんはお父さんを少女期に亡くされた。
以後の自分があるのは、お父さんの魂に守られているからだと考えておられる。
が、岡田さんには親しい身内を亡くされた経験がない。
それが、
――魂の存在を信ずることができない理由なのかもしれません。
と述べておられる（文藝春秋83ｰ1『理想の死に方』2005年1月）
魂は存在すると、僕は考えている。
が、岡田さんの奥さんとは、多分、考え方が遠い。
どちらかといえば、岡田さんに近い。
魂といっても、例えば、火の玉になって冥界をさまよっているような魂を考えたりはしない。
魂は主観的である。
死者の魂は、生者の心の中にある。
岡田さんの奥さんが、お父さんの魂を強く感じてこられたのは、その通りだろうと思う。
だから、岡田さんの奥さんの心の中には、お父さんの魂が確かに存在すると考えてよい。
ただし、奥さんに最も身近なはずの岡田さんにも、それが、それほどリアルには感じられないという。
魂が自然界に客観的事物（あるいは現象）として存在すると考えるのは、やはり無理がある。
岡田さんは、
――信念を曲げることなく、よりよい政治の実現を目指して頑張り抜いた一人の政治家がいたと、多くの人に記憶されるような――
そういう生き方に努めておられるそうである。
文藝春秋の原稿の末尾の一節である。
多くの人々の心の中に、広い意味での魂として存在できるような――そういう政治家を目指すということだろうと思う。
岡田さんらしいメッセージだ。
剛直な理論家で鳴らし、ときに「原理主義者」と揶揄される。
寄稿は一年近く前のことだ。
その後、「魂の問題」が、御夫婦の間でいかように議論されたか、されなかったかは、もちろん余人には計り知れない。
先月に衆院が解散されてから、TVニュースなどで岡田さんをみかけることが多くなった。
街頭で生真面目に政策を語る姿と、商業誌に奥さんとの「魂の問題」を率直に記す姿とが重なってくる。
まったく重ならないようで、重なってくる。
不思議だと思った。
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2005年9月9日 (金) |
妖怪カイチャネー |
昔、別れた彼女と半同棲の生活を送っていた頃――
休日、ご飯を食べては昼寝をし、ご飯を食べてを昼寝をし、と繰り返していたら、
――出たなあ！ 妖怪クッチャネー！ 退治してくれる！
といって、追い回された。
「クッチャネー」というのは、もちろん「食っちゃ寝ー」である。
ここ2日ばかりは、妖怪カイチャネーになっていた。「書いちゃ寝ー」である。
書いては昼寝をし、書いては昼寝をし――
そんな生活を、昼夜とわずにやったので、「昼寝」は、かなりの率で、「夜寝」になった。
クッチャネーよりは建設的な生活だと思う。
創造の母は睡眠である。
睡眠を削って書いても、ロクなものが書けない――と思う。
超売れっ子作家は、睡眠時間を削って書いているといわれる。
実態は、どうなのだろう？
遅筆の大作家もいる。
そういう人は、おそらく睡眠時間をタップリとって書いている。
暇をみては寝る。
寝ることで脳を休める。
物書きにとっては、寝ることも重要な仕事の一つではないか。
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2005年9月8日 (木) |
「学校に行きたい」 |
先週のアメリカのハリケーン「カトリーナ」で被災した少女が、TVカメラの取材に答え、
――学校に行きたい。
と呟いていた。
ハリケーンで家をなくし、避難キャンプに連れていかれ、生活はメチャメチャだ。
それでも学校に通い、勉強を続けたいという。
もちろん、学校に通うメドはたっていない。
まずは普通の生活を取り戻すことが先決である。
だから、
（まあ、もう少し待ったらいいじゃないか――）
と思った。
生活を取り戻してからでも遅くはないだろう、と――
が、違うのである。
その少女にとっては、学校に通い、勉強を続けることが、生活に直結するのである。
将来の生活である。
昔の人は、厳しいことをいった。
――天は人の上の人を作らず、人の下に人を作らず。
福沢諭吉の言葉である。
『学問のすすめ』の冒頭に出てくるらしい。
原書を読んだことはないので、以下、正確ではないかもしれないが――
この言葉は、
――人は皆、平等である。
ということを伝えるための言葉ではない。
――たしかに、天は人を平等に作ったかもしれない。が、その後、学問をした人と、しなかった人とを明確に差別する。
というのが主旨である。
ある意味、過激な内容だ。
が、『学問のすすめ』の冒頭である。
それくらいのことが書かれていても不思議はない。
つまり、勉強をするということは、豊かな生活を手にするための手段だということである。
厳しい言葉である。
世の中には、勉強をしたくても、できない人が大勢いる。
ハリケーンに被災した少女も、その一人である。
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2005年9月7日 (水) |
物語を作る過程 |
物語を作る過程というのは、なかなか面白い。
物語の三要素は、
１）登場人物
２）世界
３）出来事
だといわれる。
もちろん、この3つのどれが欠けても、物語は完成しない。
とりあえず、上記の三要素に番号を振ってみた。
僕は、この順番で物語を作ることが多い。
人によっては、３）から作るだろう。
２）から作る人もいる。
物語を作る順番は、そのまま作者としての性格を表している。
１）から作る人と、２）から作る人と、３）から作る人と――
それぞれの人たちが作った物語は、テイストが微妙に違ってくる。
逆に、完成された物語をみて、どの順番で作られたかを想像するのも面白い。
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2005年9月6日 (火) |
参政権 |
9月11日の衆院選・選挙公報が送られてきた。
選挙管理委員会が発行しているものである。
そこに、
「日本の行き先を決めるのは、あなたです」
とか、
「あなたの一票には力がある」
とかいった言葉が踊っている。
（子供だましだな）
と思う。
実際には「あなた」の一票に力はない。
微々たる力しかない。
もちろん、だからといって、投票に行かなくてもいいということではない。
それでも僕らは、投票に行かなければならない。
＊
権利と義務とは表裏一体である。
これを交換条件だと理解している人が多い。
義務を果たす代わりに権利を手にできる。場合によっては、権利の行使を遠慮できる――そういう考え方である。
そうではない。
権利には大抵、行使する義務が伴う。
行使する必要があると判断したから、権利として主張しているのである。
例えば、昔は、どの国でも、民に参政権（政治に参加する権利）は与えられていなかった。
それでは困ると考えた民が、
――我々にも参政権を寄越せ！
と主張したのである。
こうして、民が政治に参加する仕組みは整った。
言い換えれば、
――民が政治を引き受けた。
ということである。
一度、引き受けたものは放り出せない。
だから、参政権の行使は義務でもある。
昔、この話を人にしたら、
――その考えは間違っている。
といわれた。
どう間違っているのかと、きくと、
――だって、権利は行使しても、しなくてもいいものでしょう。行使しない権利もあるわけで……。
などという。
それは「権利」という言葉が軽々しく使われる事例の記述でしかない。
「政治に参加する権利」といったときの権利は、そのような日常レベルの権利を指すのではない、ということである。
ことは知識の問題だ。
理解できる、理解できない、の問題ではない。
民が、どのようにして参政権を手にしてきたか――
その経緯を知っているか、知らないかの問題である。
＊
冒頭の選挙公報の2文――
「あなた」を「あなたたち」もしくは「国民」に書き換えれば、その通りである。
「あなた」に大した力はない。
所詮、何万分の一、何十万分の一の重みでしかない。
投票を広く呼び掛ける立場としては、認めたくない事実だろう。
が、そこを認めない限り、子供だましの域を出ない。
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2005年9月5日 (月) |
反・勧善懲悪 |
僕は後味の悪い物語が嫌いじゃない。
例えば、主人公が追われ、殺され、それで終わり――という物語が、そんなに嫌いではない。
変わっているといわれる。
たしかに、僕は少数派のようだ。
多分、幼い頃から歴史をみてきていることと関係がある。
歴史をみれば、理不尽すぎて後味の悪い物語は数知れない。むしろ、後味の良い物語を探すほうが大変である。
そもそも理不尽が人の営みの本質ではないか。
予定調和の勧善懲悪は、人の営みに反している。
悪を徹底的に懲らしめてくれる善など、どこにもいない。
――どこにもいないからこそ、物語に描く意義がある。
というのは、その通りだろう。
ここから先は好みの問題である。
もし、僕が、この手の理想的物語を描くなら、徹底して反・勧善懲悪で描くと思う。
悪が善を完膚なきまでに叩きのめす物語である。
もちろん、悪を徹底的に懲らしめる善も、善を完膚なきまでに叩きのめす悪も、この世には存在しない。
そういう意味では、共に人の営みに反する。
だから、好みの問題といった。
どうやら僕は、よほど勧善懲悪が嫌いらしい。
どうして、こうなってしまったのか？
もしかしたら、幼い頃からTVやマンガなどで勧善懲悪の物語ばかりみせられたからかもしれない。
その反動が後遺症となったか。
しかし、予定調和の物語ばかりみせられていたのは僕だけではないはずだ。
世の子供向けの、ほぼ全ては勧善懲悪である。
もし僕が予定調和に飽きて反・勧善懲悪に走ったとしたら、僕みたいな嗜好の持ち主が、もっといるはずである。
やはり、要因は僕の内面にあるのだろう。
さて、何が要因か？
よくわからない。
それが知りたくて、僕は物語を紡いでいるのかもしれない。
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2005年9月4日 (日) |
臭い物にはフタ！ |
小説家にせよ、マンガ家にせよ、映画監督にせよ、その他、ありとあらゆる物語の作り手にとって――
自分がみたくないもの、しりたくないものを描くことは、どれくらいあるのだろうか？
二十歳の頃、僕は、自分がみたくないもの、しりたくないものを小説に描いたことがある。
今、振り返ると、それがどうしても必要であったものとは思えない。
（なんで、こんなもん、かいてるんだろう？）
と思う。
今の僕は、自分がみたいもの、しりたいものしか、描きたくない。
もちろん、それ以外のものも全く描かないわけではないが、少なくともメインでは描きたくない。
だって、自分がみたくないもの、しりたくないものを、読者に、
――みたい。
――しりたい。
と思わせることなど、到底、無理だろうと思うから――
自分がみたくないもの、しりたくないものを、一生懸命に描こうとする人は、いるのだろうか？
いるとしたら、どういう気持ちで、描こうとするのだろう？
もしかして、みたくないもの、しりたくないものを敢えて描くことで、嫌悪の情を和らげるのが目的なのだろうか？
僕の場合、そういうことをすると、かえって嫌悪の情は強まる気がする。
やっぱり、
――臭い物にはフタ！
でしょう。
もちろん、あくまで物語という虚構を扱う上での話である。
現実の生活においては、こうはいかない。
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2005年9月3日 (土) |
賞味期限の話 |
冷蔵庫からココア乳飲料を発見――
賞味期限は、
――2005年7月3日
となっていた。
すっかり忘れていた。
僕はココアが好きなので、ときに欲張って買って、こういうことになる。
賞味期限は二ヶ月前に終わっているが、決して、
賞味期限 ＝ 品質保持期限
ではない。
そのまま捨てるのも忍びなかったので、とりあえず、ひと口、飲んでみることにした。
すると――
（なんだ。飲めるじゃん！）
である。
味も、そんなには変わっていない。
というわけで――
二ヶ月前に賞味期限の切れたココア乳飲料をチョビチョビと飲みながら、この『道草日記』を書いている。
それにしても、賞味期限というのは何なんだろうか？
結局、メーカー側が商品の味に自身をもっている期間ということか。
つまり、賞味期限前の味については、
――全面的に責任をもちます。
――御批判は甘んじて受けます。
と、いうことだろう。
となれば、賞味期限以後の味については、
――感知いたしません。
と、いうことなのだろう。
たしかに、このココア乳飲料――味は変わっている。
微妙に味が落ちている。
ひょっとしたら、品質もヤバくなっているのかもしれない。
あとで腹を壊すかも……。
そんな飲み物なんて、捨てればいいのに……。
マル太は意外に（予想通りに？）貧乏性である。
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2005年9月2日 (金) |
一人称か三人称か |
小説を書く上で、ずっと気になっていることがある。
人称の問題である。
一人称で書くか、三人称でかくか、である。
語り手が「私は」と登場するのが一人称小説である。
一人称小説は書きやすく、読みやすい。
大崩れが少ない。
だから、初めて書く場合には、一人称小説は取り組みやすい。
が、
――下手でも、書きやすく、読みやすい。
というのが実態である。
下手なのに、下手だと気付かれにくいという点は、一人称小説の弱点である。
もう一つ深刻な弱点がある。
語り手の描写が甘くなるということだ。
わかりやすくいえば、語り手の欠点がみえにくい。
人間、誰だって自分の欠点は隠したい。
それは一人称小説の語り手だって同じだ。実在か虚構かは関係がない。
語り手のキャラクターの造形がリアルであればあるほど、自分の欠点を上手に隠す。
表面上は全てを包み隠さずに語っているようにみえて、実は、一番ヤバいところは隠している。
もちろん、本人は隠しているつもりで実は隠しきれていない、なんていう技巧をしのばせることは可能だろうが、さて、どれくらいの読者が気付くだろうか？
僕は、高校時代、一人称小説を褒められた。
だから、十代の頃は、一人称小説を書かないといけないと思っていた。
けれど、実際に書いていたのは三人称小説である。
そちらの評判は、必ずしも良いものではなかった。
今も基本的には同じである。
それでも、やっぱり小説は三人称だと僕は思っている。
三人称が小説の王道だと信じたい。
究極の三人称は映像である。
映像の物語が隆盛を極めている現在、三人称小説に、どれほどの貢献の余地が残されているのだろうか？
その辺は、よく考えないといけない。
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2005年9月1日 (木) |
何もはいていない？ |
自宅の近所を歩いていたら、凄い格好の女の人をみた。
上はTシャツだけで、下は何もはいていないのである。
もちろん、本当に何もはいていないかどうかは、わからない。
Tシャツの裾が太腿の付け根までを微妙に隠していたからだ。
が、何もはいていないようにはみえた。
なので、
（えええー!?）
と仰天した次第である。
思わず反射的に視線を反らしてしまった。
反射的に視線を向けてしまうほど、僕は若くない。
念のため――
それにしても――
なんで、あんな格好で歩いていたのだろう？
海水浴場なら、わかる。
水着の上にTシャツを着れば、そんな格好になる。
が、バス通りから一本だけ路地裏に入ったような所での話である。
（そりゃないでしょう、お姉さん！）
である。
いや、「お母さん」かもしれないけれど……。
外見は30歳前後といったところだった。
お子さんがいても、全然おかしくはない。
もしかして――
スカートをはいていたつもりだったのだろうか？
そういえば、そんな失敗談をきいたことがある。
――この前さぁ、あたしさぁ、スカートはかないでコンビ二いっちゃったのよ！
というヤツだ。
20代の女性の告白だった。
（ホントかよ？）
と思った。
（話を作ってるんじゃないの？）
と思った。
たしかに、スカートはズボンほどにはハッキリとした感覚がない、と女性はいう。
とはいえ、まさか、はき忘れに気付かないほどでもあるまい――
そう思っていた。
ところが、今日、あんな格好の女の人をみて、考えが変わった。
たまにはスカートをはき忘れることも、あるのかもしれない。
にわかには信じがたいが……。
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