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2005年7月31日 (日) |
――老兵は死なず。消えゆくのみ |
――老兵は死なず。消えゆくのみ。
という句がある。
ダグラス・マッカーサー（Douglas MacArthur）の言葉だ。
アメリカ連邦議会での演説の一節である。
マッカーサーは朝鮮戦争時、国連軍総司令官の地位にあったが、核使用を巡ってトルーマン大統領と対立し、事実上、解任される。
演説は、そのときのものだ。
英語では、
――Old soldiers never die; they just fade away
である。
この句について、長らく考えている。
どういう意味か、である。
いわゆる「老害」が指摘されるときに、
――後進に道を譲れ。
くらいの意味で用いられる言葉だが、はたして、それで本当によいか？
――老兵は消えゆくのみ。
なら、それでも良かろう。
ひっかかるのは、
――死なず。
が挟まっている点である。
ちなみに、この言葉――元来はマッカーサーのものではない。
オリジナルが存在する。
――Old soldiers never die; they just fade away. Young soldiers wish they'd fade away.
当時、アメリカ軍でハヤった歌の一節だという。
――老兵は死なず。消えゆくのみ。皆が、それを望んでいる。
くらいの意味か。
どうやら、老兵は厄介者だったようである。
後半部分は、直訳すれば、
――若い兵は、老兵が消えゆけば良いと思っている。
となるが、「young soldiers」については、これを「old soldiers」の対句とみなせば「老兵以外の兵士」ととることもできる。
誰が書いた詞かは不明らしい。
インターネットで探してみたが見当たらなかった。
作詞者は、どのような思いを込めたのか？
「死なず」は老兵である。つまり、兵士である。
兵士についての死だから、普通の意味ではあるまい。
おそらくは戦死を指す。
つまり、
――老兵は死なず。
は、
――老兵は戦死しない。
という意味だろう。
老兵は、新兵と違って戦場での勘所を心得ているから、簡単に戦死したりはしない――ということであろうか。
であれば、
――消えゆくのみ。
の意味も変わってくる。
――歳をとって、いつかは追い出されるだけだ。
くらいの意味ではないか。
当然、それに続く部分、
――皆が、それを望んでいる。
も変わってくる。
――老兵は厄介者だ。
ではなく、
――どんな新兵だって老兵になるまで、生きていたい。
という意味にもとれる。
誰だって死にたくはない。
しかし、戦争が終わらない限り、戦場から逃げ出すわけにはいかない。
戦争が終わらないなら、老兵になるまで戦い続けるしかないではないか。
つまり、
――要は誰だって戦死なんかしたくない。
ということである。
その日の戦闘が終了すると、兵舎の話題にのぼるのは、勇ましくも暗い話ばかりであろう。
――今日はアイツがやられた。
とか、
――それはそれは凄まじい最期だった。
とかである。
が、老兵は違う。
老いて体が動かなくなって除隊される。
兵舎の話題にのぼることもない。
誰に記憶されることなく、寂しく消え去っていく。
それでも皆、本当は、そんな風に消え去りたい。
――それはそれは凄まじい最期だった。
などと、いわれたくはない。
冒頭の句、
――老兵は死なず。消えゆくのみ。
の意味を、僕は以上のようにとらえている。
だから、国連軍総司令官のマッカーサーが自身をなぞらえるにしては、かなり不自然だったと思っている。
句の良さが半減してしまった。
いつ死ぬかわからない最前線の老兵を思わないと、凄みが出ない。
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2005年7月30日 (土) |
太陽系第10番惑星 |
太陽系第10番惑星がみつかったそうである。
正確には、第10番惑星の候補と目されていた天体が、
――たしかに太陽系の惑星であるらしいと結論づけられた。
ということである。
アメリカの航空宇宙局（NASA, National Aeronautics and Space Adminis-tration）が、今月29日に発表したそうである（共同通信提供）
これまで「第10番惑星」といえば、SFの物語の定番だった。
冥王星が第9番惑星で、その外側に惑星はないことになっていたから、第10番惑星というのは、かなりの部分、ファンタジーだったわけである。
実は「第10番惑星」の語感が気に入っている。
英語なら、単に「tenth planet」だ。味気ないこと限りない。
が、日本語は違う。
硬質なところがよい。
そう――僕は硬質のファンタジーが好きである。
それが、ファンタジーでなくなるという。
ちょっと、つまらない気もする。
第10番惑星は太陽から約97天文単位の距離にあるという。
1天文単位は「太陽から地球までの平均距離」と定義されているから、地球からは相当に遠い。
それにしても――
第9番惑星である冥王星の発見が1930年である。
それから75年もの間、発見できなかったのは、なぜなのか？
実は――
太陽から冥王星までの平均距離が39.5天文単位である。
つまり、第10番惑星は冥王星の2倍以上の遠さなのである。
ちなみに、海王星が30.1天文単位、天王星が19.2天文単位である。
これなら無理もない。
75年くらいの時間がかかって当たり前だったか。
名前は、どうなるのだろう？
とりあえず、セドナ（sedna）という仮名が与えられているそうである。
ネイティブ・アメリカンの神話に登場する海の女神の名前だとか……。祖霊神の一面もあるという。
日本語名は、どうするべきか？
天王星、海王星、冥王星――の次である。
やはり、漢字3字にまとめるべきだろう。
いや――
冥王星よりも相当に遠いのだから、漢字4文字でもいいかもしれない。
水星から土星までは漢字2文字、天王星から冥王星までは漢字3文字である。
太陽から離れるに従って漢字の数は増えている。
地母神という言葉がある。
大地の女神を指す。「母なる大地」の具象化であろう。世界中に認められる具象だという。
とはいえ、セドナは海の女神だ。
「地母神」では具合が悪い。
「海母神」というのは、どうだろう？
「海母神星」と書いて「かいもしんせい」と読ませる。
あるいは「水母神星」は、どうか？
荒漠たる宇宙空間には「海」よりも「水」のほうが似つかわしい。
読み方は「すいもしんせい」とする。
少なくとも物語の設定なら、これで十分である。
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2005年7月29日 (金) |
頭の老化は思い込みから |
副業先の同僚が、
――もう老化かしら。
と首を傾げていた。
30代の女性である。
理由を問うと、
――うちは子供が3人、犬が1匹なんです。この4つ名前がゴッチャになるんです。
と、いう。
例えば、自分は息子さんの名前を呼んでいるつもりなのに、実際には飼い犬の名前を呼んでいたりするわけである。
――何度も必死で呼んで、声もきこえてるはずなのに、なぜか来ない、と思ったら、犬の名前を呼んでた。
と、いう。
それじゃあ来ないでしょう。
来たら、むしろヤバいのでは……？
＊
頭の老化というのは、たしかに、こうやって始まる気がする。
もちろん、そう単純な話ではない。
加齢に伴い、脳の組織が劣化し、脳の機能が低下する――などと安直に主張するつもりはない。
頭の老化と体の老化とは相関がないと思っている。
変化は、もっと繊細なレベルで起こっている。
要は、思い込みの傾向ではないか？
日頃、接していて、
（この人、頭が老化してるなあ）
と思うのは大抵、思い込みの強い人である。
決められた条件では決められた答えしか返せない人である。
自分の応答が修正できない。
僕自身の話をすれば、僕が自分の老化を最も自覚したのは20代後半だった。
決められたことを、決められた通りにこなすことが、求められていた。
思い込みを持たないと打開できない環境だったのである。
いま思えば、自分から進んで頭を老化させていたようなものだった。
子供を犬の名前で呼んでしまうのは、思い込みの一種である。
むしろ、思い込みの純系ではなかろうか。
犬の名前を何回くらい口にするかで、その人の思い込みの強さを推し量れる気がする。
1、2回で済む人と、5回、6回と続く人とでは、明らかに差がある。
しまいに怒りだすような人は、頭が相当に老化している。
しかし、この手の老化なら、意識次第で、どうにか食い止められるのではないか？
自分の思い込みを点検する習慣があればよい。
実際――
60代、70代の人たちと接していて、
（ああ、この人は若いなあ）
と思うのは、大抵、自分の思い込みを、すぐに訂正できる人である。
少なくとも、そういう人たちが周囲に「若い」という印象を与えていることは間違いないことのように思える。
若さの秘訣は思い込みの排除――と極論しても、構わないのではないか。
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2005年7月28日 (木) |
マル太・管理人モード |
本日は多忙につき、『道草日記』はお休みです。
よく、
――芸は技だけではない。
などといいますが、本当にそうですね。
ベテラン歌手の唄を聴き、しみじみと感じ入りました。
技以外の何かが伝わってくるようです。
それを、しばしば「心」と安易に表現してしまうのですが……。
もちろん、技がなければ話になりません。「心」だけでは、酔っ払いの放歌と一緒ですからね。
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2005年7月27日 (水) |
天気の良い日に |
今日は朝から晴れわたっていたようだが、気付かなかった。
自宅でカーテンを閉め切って、ずっと書き物をしていた。
昨日まで荒天だったので、カーテンを開けようが閉めようが関係ないと思っていた。
ようやく昼過ぎになって、カーテンの向こう側が、やけに明るいことに気付いた。
そうなると、さすがにカーテンくらいは開けたくなった。
木漏れ日がキラキラと揺れていた。
まだ昨日の風が残っていて、気の枝が揺らされているからだ。
良い天気である。
作家の三田誠広さんの本に『天気の好い日は小説を書こう』（朝日ソノラマ、1994年）というのがある。
小説は、天気の良い日に――ピクニックとかテニスとかをしたくなるような壮快な気分のときに――書かれるべきものである――そういう主張である。
僕は、この本を読んだときに、目からウロコが落ちた。
それまでは、天気の良い日は行楽にでも出かけないと不健康な人間の烙印を押されるような気が何となくしていたのである。
――そんなことはない。
というのを、この本は教えてくれた。
以来、小説を書きたいときは、どんなに天気が良くても書くようにしている。
とはいえ――
いつまでも健康でいようと思ったら、多少は体を動かさないとね、天気の良い日くらいは……。
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2005年7月26日 (火) |
「――敵を愛しなさい」？ |
真の学びは対話の中でしか生まれない。
街を歩いていて、
――敵を愛しなさい。
と書かれた看板のようなものを目にした。
宗教絡みの看板である。
あえて、どこの宗教かは書かないが……。
困ったものである。
真に人に学んでもらいたいのなら、
――敵を愛しなさい。
のような言いっ放しは、百害あって一利なしだ。
敵を愛せということは、つまり味方は愛してはいけないのかとか、敵も味方も愛せということなのか、そもそも敵を作ってはいけないということなのか……。
何が何だかさっぱりである。
だから、多くの人に無視される。
もっとも、学ばせることが目的ではなく、信じ込ませることが目的であるなら、これでもいいのかもしれない。
――敵を愛しなさい。
といわれて、
――そうだ！ 愛すんだ！
と思える人だけを相手にすればいい。
知り合いにキリスト教の牧師さんがいる。神学者でもある。
その方は、よく喋る。言葉を尽くして語ってくれる。
こちらが、えげつない質問をしても、必ず、それなりに返答してくれる。
宗教家にも色々な人がいる。
言葉を大切にする宗教家なら、信じられる。
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2005年7月25日 (月) |
論理、政治 |
この国で正論をはくと嫌われる、ということに気付いたのは十代の頃だったか。
もちろん、暴論を正論と履き違えて嫌われる例もあることは認めた上で、
――それにしても、ひどくないか？
と思う。
最大の原因は、論理が「理屈」と称され、敬遠される現状であろう。
子供の頃、
――理屈ばかり、いうんじゃない！
と説教をされた。
（なに寝ぼけたことを！）
というのが今の気持ちである。
人とコミュニケーションをとるときには、まず論理がなければ話にならない。
論理の下での共感であったり同情であったりするはずだ。
ここでいう「共感」や「同情」とは、論理を通り越した感情のことである。
たしかに、ときには感情も大切である。
論理だけが全てはではない。
が、感情の普遍性に限度があることは常に忘れてはならない。
同じ体験を共有した者にしかわかり合えない感情など、ザラである。
戦争体験が最たる例だ。
あれは、わかる人にしか、わからない。
実際に体験した人ではないと、リアルなレベルではわからない。わかった気になるのは簡単だけれども……。
もちろん、戦争を感情で語るのは構わない。
とくに戦争を体験した人が感情を吐露するのは、貴重なことである。
が、感情は非普遍である。
わかる人と、わからない人とがいる。ときに、わかった振りをする人もいる。
そんなものに依拠した戦争談義は、芸術の世界では輝き得ても、例えば、政治の世界では、絶対に輝き得ない。
政治とは、この世の全ての人が関わりうる営みである。
普遍性の極みにある。
そんな世界に感情は禁物だ。使えるものは論理しかない。
――論理だって非普遍ではないか。
という人は、論理をよく知らないのではないか。
論理の世界では必ず前提（論理の初期条件）を設ける。
その前提が食い違えば、論理が非普遍に思えるときがある。
が、そういうときでも相互の前提を丁寧に摺り合わせていけば、通じない論理はない。
――論理の普遍性にも限界はある。
と主張する人は、おそらく前提の摺り合わせの重要性に気付いていないか、擦り合わせの仕方が下手か、だろう。
この国では、政治が不当におとしめられている。
――あの人は政治ばかりしているよね。
というのは大抵、悪口になる。
――権力闘争ばかりしている。
の意味にとられる。
そんなことはない。
本当の意味で政治ばかりやっている人は、皆から多大に感謝されてしかるべきである。
政治とは、本来、私を捨て、論理を用い、ときに感情も考慮しつつ、公に尽くすことであるはずだ。
人と話をしていて、この当たり前のことを確認する必要に、しばしば迫られるのは、いったい、どうしたことなのであろう。
政治嫌いの背後には論理嫌いがあると思っている。
論理を「理屈」と呼んで蔑んでいる間は、この国の政治が一流と目される日は来ない。
それは、この国の多くの人々が望む結論なのだろうか。
――政治なんて、ケ！ 理屈なんて、ケ！
というのが、この国の総意なのであろうか？
もちろん、それが、この国の総意ならば、是非もない。
60年前の太平洋戦争（大東亜戦争）のような過ちを、何度でも繰り返すだけである。
運が相当に良くない限りは……。
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2005年7月24日 (日) |
惰眠をむさぼろうとしたのだが…… |
ここ数日、ちょっと嫌なことが重なって、気分が重い。
こういうときは何をやっても良い結果が出ない。
気晴らしに遊びの小説を書いてみたが、筆がのらない。
構想を練ったときは、あれほど楽しかったのに……。
当然かもしれない。
構想を練った頃は、今ほど気分は重くなかった。
さて――
こういうときに、どうするか？
人によって様々な対処法を教えてくれる。
散歩に出かけるとか、お風呂に長めに入るとか、ひたすら惰眠をむさぼるとか……。
意外に受動的な方策がいいように思う。
だって、何をやってもイマイチなのだから、かえって何もしないほうがいいではないか。
というわけで、今日、惰眠をむさぼろうとしたのだが――
すぐに無理とわかった。
夕方に中途半端に用事が入っていて、むさぼる時間がない。
次善の策として、散歩に出かける。
1時間ほど――
やっぱり、気分は重いままである。
かえって重くなったような……。
こういうときは、どうやら少しでも積極的に動いてはいけないようだ。
（よし、明日こそ惰眠を！）
と思ったが、これも無理である。
明日は朝から予定が詰まっている。
ま、運が悪かったということで……。
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2005年7月23日 (土) |
便所の話 |
便所で、いかにくつろげるか――が生活の質に関わってくる気がする。
戦国の武将・武田信玄は六畳敷の便所をもっていたという話が伝わっている。
ときに、そこを寝所とし、重大な政略や戦略を練ったとされる。
真実は知らない。
が、もし、この話の通りであれば、信玄の便所には究極の快適性（amenity）があったはずである。
人生の重大事を決断した場所は、ことごとく便所ではなかったか。
信玄ほどではないが、僕も、よく便所で物を考える。
洋式トイレに座り、あれこれと思考を巡らすのは、子供のときからの癖である。
そういえば、小・中学生の頃は、便所に大量のマンガを持ち込み、読んでいた。
家に遊びにきた友人に、
「なんで、便所にマンガがあるんだ？」
と怪訝な顔をされたこともある。
僕は、もっぱら洋式トイレ派である。
和式はどうも苦手だ。
落ち着かない。
中腰だから当たり前――
でも、一概にはいえないらしい。
――和式じゃなきゃヤだ。
という人も相当にいる。
洋式トイレの便座に触れるのが耐えられない、という声をきく。
僕は、小学校に上がるまで、和式トイレをみたことがなかった。
初めてみたとき、
（こんなんで、どうやってしろっていうんだよー）
と悲しくなったのを覚えている。
そのトラウマが尾を引いた。
今でも和式トイレは苦手である。
極力さけるようにしている。
もちろん、急を要する場合は別だ。
和式トイレに駆け込むことも多々ある。
外出中に便意を催し、慌てて公共施設などに駆け込んだら、和式トイレしか開いていなかった――という経験は、しょっちゅうである。
ヨーロッパなどを旅行しているときは安心である。
どこに駆け込んでも、和式トイレに遭遇する畏れは皆無である。
安心して便意を催せる。
それを思えば、言葉の不自由など大したことではない……かも――
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2005年7月22日 (金) |
スゴい喧嘩をみた |
いやはや――
久々にスゴい喧嘩をみた。
といっても、目の前でみたわけではない。
本でみた。
マンガ家・安彦良和さんの対談集『アニメ・マンガ・戦争』（角川書店）である。
この中の最後の100ページ弱は、評論家・大塚英志さんとのトーク・バトルに費やされている。
100ページという分量を感じさせないスピード感である。
あっという間に読み切ってしまった。
自衛隊のイラク派遣・差し止め訴訟の是非に始まり、戦後民主主義の統括的評価や、その評価の方法論自体を巡って議論は激しく対立する。
安彦さんが1947年生まれ――
大塚さんが1958年生まれ――
70年安保闘争の頃は、安彦さんは青年期、大塚さんは少年期を迎えていた。
全体的には、シンプルな理詰めで押し切ろうとする大塚さんと、考え詰めた「好き嫌い」で対抗する安彦さんとのツバぜりあいである――
少なくとも、そういう印象である。
議論の武器が別物だけに、バトルの迫力は満点だ――
多少、噛み合っていないけど……。
（ちょっと大塚さん……。そんな言い方で大丈夫ですか？）
とか、
（あ〜あ、安彦さん、切れちゃったよ、ヤバいよ……）
とかいった感じである。
でも、いいのである。
喧嘩は大切だ。
僕は喧嘩腰の議論を回避しない人が好きである。
そういう人は無条件で信用したくなってしまう。
結局、信頼関係が磐石だからこそ喧嘩腰にもなれるわけで――少なくとも対談集での喧嘩腰は、そうであろう。
俳優さんたちがベッドシーンを演じるのに確固たる信頼関係が必須なのと同じ理屈である。
ちょっと喩えがおかしいか……。
実は、このお二人――ご存じの方も多いと思われるが――それぞれマンガ家や評論家とは別のお顔を持っておられる。
安彦さんは、日本アニメの金字塔『機動戦士ガンダム』のキャラクター・デザインを手がけた元アニメ作家――
大塚さんは、ベストセラー・コミック『多重人格探偵サイコ』の原作者である。
お互いがお互いの実力を認めあっている点は間違いなかろう。
2006年からは神戸芸術工科大学で一緒に教鞭を執られるそうである。
そうはいっても――
喧嘩をする御当人同士はシンドかろう。
周囲もハラハラするに違いない。
「学生諸君、ケンカを見かけても近づくなヨ、ケガするぞォ〜〜〜」
とは本書での安彦さんのお言葉――
たしかに、そうだ。
僕は喧嘩を厭わない人は好きだけれど、そんな僕でさえ、そういう人たちとは、できれば喧嘩することなく、お付き合い願いたいわけで……。
人の世は難しい。
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2005年7月21日 (木) |
汚濁の中に清浄を |
仙台市長選が始まった。
連日、選挙カーが市内を行き来している。
相変わらず、名前連呼型の選挙運動をする候補者がみかけられる。
いつまでもたっても、こうした選挙運動が途絶しないのは、結局、多少なりとも票集めに有効であると実感されているからであろう。
＊
――美しいものをみたいなら目をつぶれ。
と、いう。
時々みかける句である。
要するに、
――美は理想の世界にしかない、現実の世界にはない。
と、いうことだ。
もっともなことだと思う。
美を真剣に追求する人――生業として追求する人――つまり、芸術家など――は、真摯に受け止めるべき句であろう。
が、現実の汚濁にまみれなければならない人に、同じことをされては困る。
その筆頭が政治家だ。
政治家に目をつぶられてしまうと、人々の生活は破綻する。
理想の国家とか理想の政策とか理想の法律とか理想の教育とかを追いかけるあまり現実を無視されては、たまったものではない。
かといって、現実の汚濁にまみれているだけの政治家も困る。
汚濁の中にも理想の清浄を見出す力がなければ、優れた政治家とはいえない。
汚濁の中に清浄を見出すには目を開く必要がある。
目を閉じていれば、汚濁の中に何となく清浄を見出してしまうものである。
多分、子供にもできる。
＊
さて、選挙運動で名前連呼型に執着する政治家は、どう評価されるべきだろうか？
普通に考えれば「ダメダメ政治家」の烙印を押したいところだが、果たして、そうだろうか？
ああした選挙運動が「汚濁の中に清浄を見出す方法」の一つでないと、どうしていいきれるだろう？
名前連呼型の選挙運動が票集めにつながらない社会を作らないかぎり、何をいっても始まらない。
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2005年7月20日 (水) |
一日2回も洗濯 |
夏は一日2回も洗濯できるのがいい。
今日もそうだった。
一日2回も洗濯をしてしまった。
僕の場合、毎週水曜日は休みであることが多い。
今日も休みだった。
それで一日2回も洗濯をした次第である。
それにしても――
仙台の梅雨は明けたのだろうか？
今日は、すっかり真夏の天気だった。
たしか「梅雨明け」の声は、まだ耳にしていないのだが……。
一日2回も洗濯できると、得した気分になる。
逆に冬場は絶対に無理である。
朝起きて洗濯し、ベランダに干しても、乾かないことがある。
夕方になっても湿っぽい。
＊
仙台に来たばかりの頃を思い出す。
10年前の夏である。
あの頃は、休日になると、朝早く起きて洗濯をし、ベランダに干すことが多かった。
そして、乾くまでの間は、よく昼寝をした。
昼寝などしないで、一日2回の洗濯にでもチャンレジすれば良さそうなものだが、そんな勤勉など思いもよらぬ。
自分に与えられた時間は無制限にあると思い込んでいた。
洗濯物が乾くのを待ちながらの昼寝は、気持ちいい。
最高に気持ちいい。
寝ている間に、何かが成し遂げられる快感である。
錯覚だろうとは思うが……。
冬は、そうはいかない。
とりあえず、寒い中、ベランダに干してはみる。
夕方になっても乾かない。
乾かないのがわかるから、昼寝をしていても、今一つ気持ちよくない。
――昼寝などしないで、何か別の仕事をしなければ……。
みたいな気分になる。
これも錯覚だろうと思うが……。
＊
今日は真夏の天気だったので、バッチリ乾いた。
ベランダに出た瞬間、
（これはアッという間に乾くな）
と思った。
が、なぜか昼寝はできなかった。
ちょっとはしてみたが、10年前ほど気持ちよくはできなかった。
午後には、いそいそと2回目の洗濯に取りかかる。
10年前の気持ちよさが懐かしい。
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2005年7月19日 (火) |
オヤジたちよ、歓喜の涙を流せ！ |
店内で商品を物色しているときに、「あみん」の『待つわ』が流れてきた。
「あみん」は1982年にデビューした女性デュオで、『待つわ』がデビュー曲である。
この曲がヒットチャートを独走し、「あみん」は、その年のNHK紅白歌合戦に出場した。
いわゆる昭和のヒットナンバーである。
これを耳にし、
（え？）
と思った。
（『待つわ』って、こんなに、いい曲だっけ？）
と思ったのである。
僕が初めて『待つわ』を聴いたのは1987年だった。中学2年のときである。
文化祭の準備で夜遅くまで学校に残っているときに、担任の先生が、
「オレ、この歌、好きだなあ」
と仰っていたので、記憶に残っている。
30歳直前の男性の先生だった。
以後、耳にする度に気に留めたので、そのうちに何となく旋律や歌詞を覚えてしまった。
が、レコードやCDを買うところまではいかず、せいぜい、
――教養として知っている。
程度で終わっていた。
いい曲だとは思っていたが、それ以上は入れ込めなかったのである。
だから――
――『待つわ』って、こんなに、いい曲だっけ？
というのは偽らざる本音である。「あみん」のお二人（岡村孝子さん、加藤晴子さん）には申し訳ないが……。
歌唱や編曲が現代風であったので、カバー（リメイク）だと直ぐにわかった。
問題は、
――誰がカバーしたか？
である。
まあ、およその見当はついた。
歌唱に特徴があった。
＊
「W」と書いて「ダブルユー」とよむ――
辻希美さん、加護亜依さんの女性デュオ「W（ダブルユー）」のことである。
辻さんも加護さんもビッグネームだ。
昨年の8月まで、アイドル・グループ「モーニング娘。」の主要メンバーだった。
アイドル業界に普通に関心のある人なら、知らぬはずはない。
辻さんが1987年生まれ、加護さんが1988年生まれである。
お二人とも十代――が、年齢を感じさせない芸達者ぶりである。歌唱だけで一本立ちできることは疑いない。
『待つわ』をカバーしたのは、このお二人だ。
収載されているのはアルバム『デュオU&U』である。
このアルバムは、インターネット評でも大好評である。容赦ない酷評コメントが取り柄のインターネットなのに――である。
逆に酷評コメントが酷評されているくらいだ。
多くの人々に支持された理由は「謙虚な新しさ」のように思える。
『デュオU&U』に収載された曲は全て昭和のヒットナンバーである。
「ザ・ピーナッツ」や「ピンク・レディー」や「うしろゆびさされ組」などの曲が並ぶ。
それら原曲を、あたかも、モノ真似する勢いで歌ってしまっているのが『デュオU&U』である。
が、ただのモノ真似では終わらない。
たしかに「モノ真似」には違いないのだが、原曲に食われていないのである。どの曲も辻さん、加護さんの歌になっている。
お二人の確かな歌唱と声質とが個性として結実しているからであろう。
作家の童門冬二さんは歴史小説を書くコツとして、
――新しい話は3、4割で止める。
といっておられる（『童門流人前で話すコツ』PHP文庫）
読者にとって未知の内容で盛り沢山にしてはならない――既知の内容を6、7割は混ぜてやっても、十分に新しい小説として認知されるばかりか、良作として評価されやすいというのだ。
おそらく、「W」の『デュオU&U』が評価されたのは、新しさが3、4割だったからである。
未知の内容で盛り沢山にしなかった。そこが「謙虚な新しさ」の所以である。
それにしても――
『デュオU&U』は出色のできである。
辻さん、加護さんの歌唱力に負うところが大きい。
さながら、
――剛腕！ 正面突破！
の様相である。
――オヤジたちよ、歓喜の涙を流せ！
みたいな宣伝文句が、よく似合いそうだ。
80年代のアイドル親衛隊たちも、本当は、こういうレベルの歌謡を求めていたのではないか。
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2005年7月18日 (月) |
ヤナギダ先生、タカギ |
僕は、中学校が小学校の隣だった。
6年間通い続けた小学校の隣の敷地に、3年間通い続けた中学校があった。
「卒業もヘッタクレもあったもんじゃねぇな」
と父は笑った。
小学校の卒業式のときである。
たしかに、そうだと思った。
卒業生のほぼ全員が隣の敷地に移るだけなのに、
――先生、さようなら！ みなさん、さようなら！
も、ないものだ。
卒業式の日、同級生の女の子たちは皆、涙を一斉に流して式場を後にしたが、僕は、父のその言葉のお陰で、すっかり夢から覚めていた。
そのせいだろう。
中学校の入学式は、僕にとっては酷く緊張感に欠けるものだった。
事実、僕は入学式の日に遅刻している。
「おお！ 最後の一人が来たか！」
というのが、中学校の担任教師の第一声だった。
たしか、ヤナギダ先生とおっしゃった。
40歳前後の男性で、豪放磊落（ごうほうらいらく）型――割と喜怒哀楽を表に出す人だった。
社会科の先生で、野球部の顧問だった。
日教組の活動にも携わっておられたらしい。
同僚の先生たちからも慕われるようなカリスマを持った人だった。
不思議な魅力があって、皮肉っぽいことをいっても許される愛嬌があった。
遅刻して慌てて駆け込んできた僕に、
「みんな、お前を待っていたんだよ」
と声をかけ、座席を指し示してくれた。
その座席の前の席には、タカギという同級生が座っていた。
初めてみる顔だった。
クラスの半分は小学校の顔見知りで占められていた。
残りは隣町の小学校の卒業生である。
タカギも隣町の小学校の出身だと思った。
が、タカギは、きいたこともない小学校の名を口にした。
「結構、遠いとこだよ」
とタカギは笑った。
タカギは中学入学に合わせて引っ越してきていた。
タカギには両親がいない。
それで、血の繋がりのない中年の女性に引き取られてきたという。幼い弟や妹も一緒だった。
僕らは、すぐに仲良くなった。
僕は、この頃から初対面の人間と、うまくやっていくのが得意だった。
家も割と近くで、僕の部屋からみえる崖の上にタカギの家はあった。
その崖を昇り降りするなどして、よく一緒に遊んだ。
が、付き合いは3ヶ月で終わる。
夏休みに、タカギが引っ越したのである。きょうだい揃って、施設に入れられたときいた。
無理もない。
タカギの家は小さくて古い平屋だった。養い親の女性を責めるわけにはいかない。
夏休みの最後の夜、僕は、タカギの部屋で、タカギのきょうだい達と一緒に、TVゲームで遊んだ。
そこに、なぜかヤナギダ先生もいた。
「おい、タカギ！ これ、どうやってやるんだ！」
と真剣に訊ねる先生の姿があった。
遊んだのは野球ゲームである。
任天堂の初代ファミリーコンピュータが普及し始めた頃である。
恐ろしくシンプルな野球ゲームだった。
「お！ 野球部の監督が野球ゲームやっている」
と冗談をいった記憶がある。
先生には完全に無視されたけれど……。
そのヤナギダ先生も、翌春、中学校を後にした。
離任式の花束は僕が渡した。
他にも適当な人はいたはずだが、多分、僕が最も甘えていた生徒だった。
だから、指名されたのだと思う。
花束贈呈の壇上で、
「ありがとうね」
と小声で囁いて下さったのが最後の言葉になった。
以後、ヤナギダ先生とはお会いしていない。
タカギが去った頃、
「一度、お前のお父さんと酒を飲みたいんだなあ」
といわれたことが印象に残っている。
父が解剖学者であったことを、先生は御存じだった。それで、だと思う。
あいにく、父は下戸だったので、話はウヤムヤになったが……。
ヤナギダ先生やタカギのおかげで、僕の中学時代の幕開けは、かなり劇的なものになった。
単身、隣町の中学校に放り込まれたような劇的さだった。
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2005年7月17日 (日) |
インプット型、アウトプット型 |
どうやら世の中にはインプット型の人とアウトプット型の人とがいるようである。
インプット型というのは、学ぶことが好きな人――
アウトプット型というのは、表すことが好きな人――
インプット型というのは、例えば、幾つになっても語学勉強が苦にならなかったり、難解で分厚い哲学書を手にとるとウキウキしたり、する。
アウトプット型というのは、例えば、文章や絵をかくのが好きだったり、他人と会話をかわすのが楽しかったり、する。
もちろん、どんな人も複雑な一面をもっているので、どちらかに分類できると決めてかかるのは問題があろうが、強いていえば、どちらかに与する人が多いのではないか？
僕は、どちらかといえば、アウトプット型である。
いや――
明白にアウトプット型である。
インプットはそんなに嫌いではないつもりなのだが、インプットしていると疲れるのである。
先日も、喫茶店で一時間ほど読書をしたらクタクタになってしまった。
目はチカチカするし、頭はズキズキする。
読んでいてつまらない本ではなかったのだが、それでもクタクタになった。
アウトプットをするためにはインプットもしなければならない。
たとえ、どんなにインプットが苦痛でも、インプットを放棄するわけにはいかない。
だから、僕もインプットを止めようとは思わないが、それにしても、
――この疲労感は何なんだ！
と思う。
多分、どこかに無理がかかっているのだろう。
その無理が何なのか、自分ではよくわからない。
もしかしたら、正しく理解しようとする意気込みが強すぎるのかもしれない。
せっかく理解するのだから、正しく理解したい。
誤解の理解も有益だと断言する勇気は、今のところ、僕にはない。
そのくせ、正しく理解するなんて原理的に無理だと思っている。
この世に真の客観などありえない。
どこかに必ず自分の主観が混じるのだ。
インプット型の人は、その辺の調整が巧いのだろう。
誤解を恐れずにいえば、
――手の抜き方が巧い。
のである。
インプット型の人に学んだほうが良いのかもしれない。
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2005年7月16日 (土) |
創造性 |
――創造性は、柔軟性および適応性と密接に関連する。
という内容のエッセイを読んだ。
たしかに、その通りと思う。
物事を柔軟に思考し、状況に的確に適応していけば、創造的になれるであろう。
ただ、一つだけ問題だと思ったのは、そのエッセイが、
――創造性とは何か。
について、正面から触れていなかった点である。
創造的であるための方法論は論じているのに、肝心の創造性の中身に触れないのは詐欺みたいなものだろう。
創造性とは新しい組み合わせを見い出す能力のことだと思っている。
古い着想や観念、思想、考えなどの組み合わせである。
大切なのは、通常、着想や観念や思想や考えなどを生み出すことが創造性ではない、ということである。
もちろん、そうした要素とて、元来は人が生み出したものである。
よって、それらを生み出す能力も、当然、創造性には違いない。
が、全く新しい着想や観念や思想や考えなどを生み出す創造性は、希有である。
そういう創造性を、僕は「超創造性」と呼んでいる。
創造性の極致である。
超創造性の現出は、一つの文化圏の中で、百年に一度あるかどうか、ではないか。
しかも、多分、狙ってできるものではない。
後世の人間が、結果論として認めるものが、超創造性だと思っている。
だから、超創造性については議論をしてもしょうがない。
少なくとも創造性の議論よりは益が薄い。
では、創造性を高めるには、どうするべきか？
やっぱり、柔軟性と適応性とを研くことだと思っている。
僕は、潜在的に創造性の乏しい人間など、いないと思っている。
皆、創造性の種は持っている。
が、その種の育て方を知っていると人と、知らない人がいる。
知っている人は、常に物事を柔軟に思考し、状況に的確に適応していくことを重視する。
創造性は、古い要素の新しい組み合わせだといった。
「物事を柔軟に思考する」の中身は、いかに多くの「古い要素」を集めてくるか、である。
下手な選り好みはしない。
「状況に的確に適応する」の中身は、いかに効果的な組み合わせを探すか、である。
安易に妥協したりはしない。
創造性は特殊能力ではない。
鍛えれば誰もが創造的に振る舞える。
そう僕は信じている。
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2005年7月15日 (金) |
0％ |
もし人間に寿命がなかったら、どうなっているだろう？
今よりも楽な世の中になるだろうか？
多分、そうはならない。
人間に寿命のない世の中では、おそらく、人間の篩い分けが起こる。
死ぬ人間と死なない人間と――である。
寿命がないのだから、人は基本的には死なない。
殺されることでしか、死ぬことはない。
死ぬ人間とは、殺される人間のことである。
それゆえに――
かえって凄惨な殺し合いが始まるのではないか？
殺す人間と殺される人間とに篩い分けられていく。
そうはいっても、多くの人間が、いつかは殺されるだろう。
ミスのしない人間はいない。
100回目までは死を回避できても、101回目で回避し損ねるかもしれない。
ごく稀に、何千年、何万年と殺されないで済む人間が出てくるかもしれない。
けれど、そんな人間は多分、ろくなヤツではない。
これは勝手な想像だけど――
もちろん――
現実の世の中は、そうではない。
人は、黙っていても、いつかは死ぬ。
歴史上、死ななかった人物はいない。
古代中国の権力者たちの中には、晩年、不老不死の妙薬を真剣に求めたものもいる。
が、そんなものが、みつかるわけがない。
みつかっていたら、大変である。
今頃はきっと、うんと暗い世の中になっていた。
人間の生存率は0％である。
絶望することはない。
0％にも良い面はある。
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2005年7月14日 (木) |
女優を消費する側の捻れ（前編） |
今日の『道草日記』に品はない。
下品がお嫌いな方は、お読み飛ばしになるべし――
＊
アダルトDVDの女優さんが自前のホームページを持っていたとしよう。
その女優さんの作品に感動した男が、掲示板に、
――いやあ、先月発売の『海辺のホテルでジャストミート！』は最高でした。
などと書き込みを入れたとする。
この行いを、どう捉えるべきだろうか？
まあ――
『海辺のホテルでジャストミート！』なら、アダルトといっても、かなり健康的な作品であろうから、
――あなたの性愛美に大変な感銘を受けました。
と解釈することもでき、ひとまずは落ち着くかもしれない。
が――
『興奮！ 人妻、監禁・拷問』であれば、話は厄介である。
まず確認しておくべきことは――
監禁・拷問される（そして、多分、性的に虐待される）人妻を演じるのも、海辺のホテルでセックスに興じる女性を演じるのも、女優の仕事としては同程度に困難であろう――ということである。
生半可なプロ意識では通用しない。
だから、そのような演技で男の心を動かす（良い意味でも悪い意味でも動かす）女優さんは、一定の敬意に値する。
むろん、職業に貴賎はないとの前提がある。
看過できない問題は、そうした女優さんを消費する側――男の側――にある。
例えば、男がアダルトDVDショップで『海辺のホテルでジャストミート！』を手にとったときと『興奮！ 人妻、監禁・拷問』を手にとったときとでは、女優さんに向ける視線が相応に異なるはずである。
少なくとも、『興奮！ 人妻、監禁・拷問』の女優さんに、
――あなたの性愛美に大変な感銘を受けました。
というのは偽善に思われる。
たとえ虚構世界であるにせよ、その女優さんに加えられる非人道的な仕打ちを楽しむというのが、この手の作品の趣向である。
真っ当な視線であるはずがない。
もし強いて正直にいうなら、
――あなたが非人道的な仕打ちをうけるところに大変な感銘を受けました。
となる。
これは捻れだろう。偽善の捻れである。
多分、まともな男なら、このような書き込みはしない。
念のために言い添えると――
女優さんのほうに捻れはない。
契約や指示に従って粛々と仕事をこなし、正当な報酬を手にしているだけである。
ちなみに――
――そんな仕事を引き受ける女性がいるから、青少年の健全な育成が阻まれるのだ。
という議論は別次元である。
よって、今は措く。
（後編へ）
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2005年7月14日 (木) |
女優を消費する側の捻れ（後編） |
（前編より）
さて――
この捻れを、僕は「偽善の捻れ」と呼んで、とりあえず問題視したのだが、果たして妥当であろうか？
どんな職業人だって、自分の仕事の評価は気になるものである。
真にプロ意識に優れた女優さんにとって、自分が出演したアダルトDVDへの感想は、是非とも吸収しておきたいところに違いない。
たとえ、それが『興奮！ 人妻、監禁・拷問』であろうと『海辺のホテルでジャストミート！』であろうと、である。
だから、その女優さんのホームページに、
――いやあ、先月発売の『興奮！ 人妻、監禁・拷問』は最高でした。
と書き込むのは、女優さんの立場を推し量った行いといえなくもない。
その意味では、偽善どころか、なかなかの善行である。
とはいえ――
前述の通り『興奮！ 人妻、監禁・拷問』を手にとったときの動機は褒められたものではない。
女優さんに非人道的な仕打ちを加える仮想と無縁ではなかったはずである。
それを隠し、
――いやあ、先月発売の『興奮！ 人妻、監禁・拷問』は最高でした。
と書き込むのは、やはり偽善であろう。
この矛盾は、そう簡単には解決できないように思える。
もちろん、
――女優さんだって、非人道的な仕打ちが売りだとわかって出演するのだから、なんの遠慮が必要か。
と開き直ることは可能であろう。
が、それは問題のすりかえのように思える。
繰り返すが、女優さんに捻れはないのである。
捻れているのは男の側だ。その女優さんを消費する側の矛盾である。
四の五のいわずに黙って目をつむれば済む話ではある。
なぜなら――
この手の矛盾が厳存するので、
――マニアックなアダルトDVDなど、ろくなものではない。
との総意が形成されるわけである。
＊
以上のような議論をする気になったのは――
ある特撮系のジャンルを専門とする女優さんたちの本音らしきものを、つかんだからである。
――アクションシーンは気持ち良いが、ピンチシーンは恥ずかしい。
というのである。
「ピンチシーン」というのは、ヒロインが悪役に痛めつけられるシーンのことである。
で――
一部のファンは、そのピンチシーンこそが、
――すばらしい。
とホームページなどに書き込んでいる。
ご本人たちが「恥ずかしい」といっているシーンを絶賛するわけである。
「ピンチシーン」のような奇異なコンセプトが絡む事例なので、議論の簡単のために、比較的、典型的なコンセプトに置き換えてみたのだが――
かえって、わかりにくくなった？
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2005年7月13日 (水) |
議論が気持ち良く決裂するとき |
上手にやり込められる才覚というものがあると思っている。
議論の能力は大きく分けて二つあるのではないか。
１）説得する能力
２）説得される能力
である。
議論の能力というと、１）ばかりがクローズアップされる。
が、真に大切なのは、２）だと思っている。
「上手にやり込められる」である。
議論相手の説得を、納得のいく形で受け入れるということである。
本当は納得がいかないのに、その場を収めるためだけに説得を受け入れるのは最も下手なやり方であろう。
これほど相手を愚弄するやり方もない。
とはいえ――
気持ちは、わからないでもない。
理解できない議論に、いつまでも付き合わされるのは大変だ。
ついつい手を抜きたくなる気持ちは自然である。
が、どんな場合でもそうだが、公的な場で手を抜くことは許されない。
職場の会議や商談・交渉の場で手を抜けば、重大事に進展し得る。
とりわけ、上手にやりこめられる才覚に乏しい人は、しばしば、深刻な過誤を引き起こす。
議論相手が自分の理解を超えた主張を始めると、打つ手がない――なので、逃げることを考える。
逃げるときには、さすがに議論相手の感情を傷つけない配慮はするものだが、取り繕いは大抵、失敗する。
その程度で騙される人は、元来、コミュニケーション能力に乏しい人だろうから、最初から議論する価値がないかもしれない。
が、騙されない人の場合は取り返しが付かない。
感情的にこじれるだけでなく、以後、その人には永久に見放される覚悟を決めないといけない。
つまり――
有益な議論をする人の説得を、いかに受け入れるかが問題なのである。
あるいは、有益な議論をする人と、無益な議論をする人とを、いかに峻別するか、である。
説得される能力の高い人は、この峻別が上手である。
最初は、有益な議論か無益な議論かの判断に全精力を費やす。
質問や反論も、そこだけに標準を合わせる。
この峻別に長けた人は、議論相手が自分の理解を超えた主張を始めても、苛つかない。
有益な議論をする人だと見抜けば、気持ちよく理解に努められるし、無益な議論をする人だと見抜けば、逆に、その議論が、いかに無益であるかを間接的に納得させることもできる。
こういう能力全般を称し、「上手にやり込められる才覚」と呼んでいる。
この才覚が豊かな人同士の議論は決裂しても気持が良い。
相手の立場を相互に尊重しながら決裂できる。
議論の決裂には負のイメージばかりが先行する。
誤解だと思っている。
「上手にやり込められる才覚」が少ないことの傍証とみてはどうか。
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2005年7月12日 (火) |
はかなげな少女 |
――はかなげな少女
という表現を、よく目にする。
幼い頃は、
――不治の病か何かで余命いくばくもない少女
くらいの意味で理解していたが、最近は、
（どうも違うな……）
と思うようになってきた。
いや――
もちろん、「不治の病」云々の意味で用いられるほうが今も多かろうし、そのほうが自然だろうし、そもそも、そうした用例が間違っていると主張するつもりはない。
ただ――
（どうも違うな……）
と感じられてしまうのである。
おそらく、
（不治の病に冒された少女って、そんなに多くないじゃん！）
ということである。
にもかかわらず、
――はかなげな少女
みたいな表現が氾濫しているから、
（どうも違うな……）
なのである。
つまり、
――はかなげな少女
というのは、必ずしも「不治の病」と関連付けられていないのではないか、ということである。
では何と関連付けられているか、というと――
時の流れである。
僕は、
――全ての少女は、はかない。
と思っている。
だってそうである。
少女期を、どう定めるかにもよるが、仮に幅広く5歳から20歳までとしても、わずかに15年である。
この15年で少女は少女でなくなってしまう。
これを、
（はかない）
と嘆じることに僕は抵抗がない。
15年などアッという間である。
今年32になる僕がそう感じるくらいだから、70代、80代の人たちにとっては、もっと「アッという間」に違いない。
もちろん、同じことは少年にもいえる。
少年も同じような意味で、はかないのかもしれない。
ただ、男の勝手な視点でいわせてもらえれば――
少年が大人なって失うものと、少女が大人になって失うものとの間には、明瞭な差があるように思える。
少女のほうが、より多くのものを失うのではないか？
逆に――
少年は大人になることで、少女よりも多くのものを得る気がする。
真実は知らぬ。
僕は男なので、男の視点でしか少女を語れない。
男の視点でみれば少女は、はかない――夏草の露がごときである。
だから――
最近では、街をゆく女子高生や女子中学生の姿をみる度に、
――はかなげな少女
のフレーズが浮かぶ。
もちろん――
彼女たちのほとんどは、不治の病などとは無縁のはずである。
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2005年7月11日 (月) |
テロの恐怖 |
昨日から東京にいた。
今は帰りの新幹線の中である。
新幹線に乗っていると、いつもと違うことに気付く。
制服姿の警備員が車内を巡回しているのだ。
今月7日のロンドン地下鉄テロ事件を受けてのことと思う。
ああいうニュースを目の当たりにすると、さすがに気になるものである。
そういえば、JR東京駅の構内でも同様の警備員を何人もみた。
ききなれぬ業務放送を何度か耳にしている。
関係者の緊張感が張り詰めている。
先年のイラク戦争のときに、
――アメリカやイギリスを支持するということは、いつテロ攻撃を受けても仕方がないと覚悟をきめることだ。
と、いった人たちがいた。
今は、まさに、そういう状況である。
これが本当に避けられない状況だったなら、僕らは甘んじて恐怖に耐えなければならない。
問題なのは、
――本当に避けられなかったかどうか。
である。
少なくとも、あのときの日本政府は、そう考えたのだ。
だから、米英支持を明確に打ち出した。
が、その説明は十分でなかったように思える。
なぜ、政府当局は米英支持を打ち出す必要があったのか？
是非、わかりやすい説明をして欲しい。
例えば、
――本当はアメリカにつくべきかどうかなど、わからない。が、歴史をみよ。日本が太平洋戦争で悲惨な目に遭ったのは、結局はイギリスやアメリカを敵に回したからではなかったか。アメリカは、何だかんだいって、日本のお隣だ。そのアメリカの親戚がイギリスだ。これらを敵に回せば、たちゆかぬ。少なくとも、そういう恐怖心を我々は持っている。
みたいに、わかりやすく説明してくれれば良いのだが……。
政府当局が本音で語れないのは、やむを得ない。
それが政治というものである。
が、評論家とかアナリストとかいう人たちには、もう少し本音で喋ってもらいたい。
――テロの恐怖に屈してはいけない。
などと、賢し気に当局を代弁する者は、単に想像力に乏しくて、テロの恐怖を実感できていないだけではないか？
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2005年7月10日 (日) |
難しさへの甘え |
僕は放っておくと話が難しくなる。
普通に小説を書けば、難解な物語になるし、普通に雑談を始めれば、難解な話題になる。
どうも、中学・高校の頃に、
難しい＝面白い＝カッコいい
みたいな図式が刷り込まれたようなのである。
その影響が今も残っているのだろう。
一種の甘えである。
――難しければ、それでいいだろう。
という安直な考えだ。
今は考えが変わっている。
難しい＝つまらない＝カッコわるい
である。
――難しい話なら誰にでもできる。
と考えている。
難しい話は難しくないのだ。
かといって、
易しい＝面白い＝カッコいい
というわけではない。
日頃、偉そうなことをいっている年配の人が、酒の席になると、食の刹那的な話とか、性の肉体的な話とかしかしないことがある。
たしかに、わかりやすい話ではあるが、
――面白い。
とは思えない。
――カッコいい。
とも思えない。
結局、行き着くところは、
――難しい内容を易しく話す。
ということになる。
これに勝る妙技はないように思える。
が――
もちろん、そんなことは簡単にはできない。
それ相応の熟慮や覚悟がいる。
だから、人は、つい、
――難しい内容を難しく話す。
の愚を犯す。
根底にあるのは、
――難しければ、とりあえずバカにはされないだろう。
という甘えである。
難しい話を難しく語るくらいだったら、食や性の話を直情的に語るほうが、だいぶマシである。
本当は、そうである。
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2005年7月9日 (土) |
オリンピックはわかりづらい |
野球とソフトボールとが除外された。
オリンピック（五輪）の話である。
2012年のロンドン五輪では野球もソフトボールも実施されない。
昨日、シンガポールで開かれた国際五輪委員会（IOC）の総会で決定されたことだという。
――これで日本のメダルが2個へった。
という声がある。
野球もソフトボールも日本のお家芸だ。
が、日本人が五輪を見つめ直すには、よい機会ではないか。
今回の一件は五輪のわかりづらい面を改めて露呈したように思う。
五輪の話をするとき、いつも思い出すのがサッカーのワールドカップ（W杯）である。
サッカーW杯に比べると、五輪の中途半端が目に付くからだ。
そもそも、なぜ20種類以上の競技が集まって同一の大会を開く必要があるのか？
以前にも『道草日記』で書いたことだが、サッカーW杯は、わずか一競技で五輪を上回る熱狂を、世界中に届けている。
五輪を純粋なエンターテイメントとみるなら、複数競技の同時開催は、むしろ、大会の意義や全容をわかりにくいものにする。マイナス材料といえなくもない。
国別のメダル獲得競争が、ほとんど唯一のプラス材料だろう。が、あれは公平なレースとはいえない。当該国の経済力がものをいう。スポーツ以外の要素が深く絡む。
だいたい、五輪はエンターテイメントなのか？
本来は古代ギリシャの平和祭典の復興が目的だった。
参加選手もアマチュアが原則だった。
そういえば、前々回の夏季大会で、犬かき泳法みたいなクロールで、何とか最後まで泳ぎ切ったアフリカ選手が話題を呼んだ。
微笑ましい光景ではあるし、人によっては勇気づけられるシーンであろう。
が、あれがエンターテイメントだといわれれば、どうか。首を傾げたくなる。
今の五輪は哲学が不明瞭だ。
アマチュアリズムが良き伝統のはずなのに、アメリカのプロ野球選手が参加しないという理由で野球を排除する。
参加することに意義があるといいながら、世界的にはマイナーであるという理由でソフトボールを排除する。
もちろん、内部に色々と複雑な事情があることは想像できるのだが……。
他方、サッカーW杯は、わかりやすい。
実に、わかりやすい。
――サッカーの世界一を決める大会
である。
世界一を争うのだから、当然、プロ選手で固められている。
アマチュアリズムの良き伝統――などと堅苦しいことはない。
だから、世界中で支持されているのだろう。
自国の代表チームが出場していなくてもTV観戦は盛り上がるというのがサッカーW杯だそうである。
本当にサッカーが好きな人は、この祭典を見逃せないのだ。
今の五輪も、そういうスポーツ大会を目指しているのだろうか？
ならば、もう少し柔軟に考えても良さそうなものである。
例えば、一大会一都市開催に縛られているから、
――野球場なんか代物、作りたかぁない！
――ソフトボールのグラウンドなど無意味だ。
という話になる。
競技は、それが最も盛んな地域で実施すればよい。
例えば、野球は北中米やアジアで、というように――
そうすれば、少なくともエンターテイメントとしては、すっきりする。
観客席に閑古鳥が鳴く事態も避けられる。
エンターテイメントでないというなら、やはりアマチュアの祭典に戻すほうがよいのではないか。
たしかに、泳ぎに不慣れな競泳選手が胸を張って参加できる雰囲気というのも悪くはない。
そのためには、今の商業主義を抑制するべきだろう。いまのままでは、
――参加することに意義がある。
などと、おこがましいことは誰にもいえまい。
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2005年7月8日 (金) |
僕は学校嫌いだったらしい |
僕は風呂に朝、入る。
夜、眠いときに風呂に入り、目がさえて困った――ということを子供の頃に、たくさん経験した。
それで、一人暮らしを初めてからは基本的に朝に入るようにしている。
夏場は汗をかくので、朝、夜と二回入ることも珍しくはない。
特に近年は、そうである。
で――
なぜか最近、風呂に入ると眠くなるようになった。
子供の頃は、あんなに目がさえて困ったというのに……。
この変化は何なのか？
まあ――
人間とは変わるものである。子供のときから変わっていないほうが、むしろ奇異だ。
が――
実は朝起きが以前ほどプレッシャーにはならなくなっている。
「以前」というのは、大学院時代も含めた学校時代のことだ。
どうも、このことが大きいようである。
学校時代、朝は忌むべきものだった。
夜、決まって、
――ああ、あした朝起きなきゃ〜。
とプレッシャーがかかった。
それが、
――なかなか寝付けない悩み。
に繋がっていったように思う。
それで、風呂に入り、目がさえていたわけだ。
今は、それがない。
――明日は朝から仕事！
というときでも、キチッと時間通りに起きられる。
むしろ、私用で早起きをするときのほうが怪しい。
要は、
（僕って、相当な学校嫌いだったわけ？）
ということである。
学校時代には自覚がなかった。
今は強く自覚している。
僕は学校が好きではない。むしろ嫌いだったのだ。
実際は、もっと複雑である。
僕は勉強は好きだったりする。
人の話をきくのも好きである。
読書だって毛嫌いするほどではない。
だから――
学校でやること自体が嫌いなのではない。
学校というシステムが嫌いなのである。
学校というところは、どうも恩着せがましい。
少なくとも日本の学校はそうである
――おら！ お前ら！ これからオレたちが教育を施してやる。よ〜く学んでおけ！
みたいな雰囲気である。
――学ぶことが楽しいことだ。
とはツユも考えない人たちが運営する組織――
――それが学校だ！
と僕には思えてならない。
我ながら、よく耐えたものである。
小学校から大学院までの20年間――
もちろん、得たものも、たくさんある――俗物的なものばかりだけれど――
が――
途中、大学受験の予備校に通った。
あれだけは違った。
予備校は、学校であって学校ではない。
先生たちの多くが、学ぶことの楽しさを必死で伝えようと努力していた。
だから――
予備校時代の二年間も、僕は朝が苦痛にならなかった。
本来は逆のはずである。
なぜ、こうなってしまったのだろう？
もしかしたら――
教育とは、公的機関が担ってはいけないものなのかもしれない。
国公立の小学校、中学校、高等学校、大学はもちろん、私立高校や私立大学だって本質的には公的機関である。
少なくとも大学受験の予備校に比べれば公である。
僕は、
――究極の教育機関は私塾ではないか？
と考えている。
教えたい人が自由に開き、学びたい人が自由に集まる――そんな私塾である。
僕も、一度は自分の私塾を開きたいと思っている。
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2005年7月7日 (木) |
肉筆の原稿 |
最近、手紙は、なるべく肉筆で書くようにしている。
以前は、ワープロやパソコンで書いたものを印刷し、そのまま投函していた。
本当は、ワープロやパソコンで書きたいのである。
写しが手元に残るし、そもそもラクである。
肉筆だと、清書がバカにならない。
丁寧に仕上げるためには、1、2回は書き直すことになる。
これに文面の推敲も含めれば、3、4回は書き直す。
それでも肉筆にこだわるのは、一度、手書きの私信を送り、ものすごく感謝されたからである。
僕の字は決して上手ではない。
少なくとも味わいのある筆跡ではない。
加えて、僕は一応は物書きなので、筆跡よりも文面が大事だと思っている。
いかに文面で相手の心を揺さぶるか、で勝負している。
が――
よく考えたら、文面で勝負をし、筆跡でも勝負すれば、いうことはない。
文面だけに重きを置くのは、せせこましい考えだ。
＊
学生時代、大学の同窓会機関紙で編集のアルバイトをしていた。
あるとき、文化勲章をもらった偉いOBから肉筆の原稿を頂いたが、それを紛失してしまった。
内容は活字になって機関紙に載っているからいいだろうと思ったら、
――なんと、もったいないことを！
とお叱りを受けた。30年くらい先輩の編集委員からである。
当時の僕は、
（文面こそが大事だ）
と思っていた。
だから、お叱りの意味が、よくわからなかった。
形式的な権威主義にきこえたのである。
今ならわかる。
その文化勲章をもらったOBの方は、文面はおろか、筆跡に至るまで、並々ならぬ努力を払い、原稿を認（したた）められたに違いないのだ。
肉筆の原稿を仕上げるにはエネルギーがいる。
文面には表れない趣向もある。
かけがえのないものを紛失したのだと、今さらながらに思う。
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2005年7月6日 (水) |
紙面とコンピュータ画面と |
教育の現場でコンピュータが盛んに使われるようになった90年代中盤――
ある有名大学の重職にあった方が、こんなことをいわれた。
――僕らはコンピュータ画面よりも紙面をみるほうが楽だけれど、これからの人たちは逆になるんじゃないか？
つまり――
今の大人は、子供の頃から、紙のメディアに慣れ親しんでいるのに対し、これからの大人はコンピュータのメディアに慣れ親しんでいる――
だから、コンピュータ画面を苦としなくなるのではないか――
そういうことである。
腑に落ちなかった。
どこかおかしいと思った。
が――
何がおかしいのか、具体的には指摘できなかった。
＊
あれから10年が経って、事態はどうなったか。
少なくとも、僕の周りでは、紙面派が優勢である。
――紙面はみてて疲れる。コンピュータ画面のほうがいい。
という人は、みかけない。
僕自身、コンピュータ画面の前で何時間も仕事をすることがあるが、何時間も集中力が持つのは手を動かして書いている（キーボードを打っている）からであり、ディスプレイに表示されているものを単に読んでいるだけだったら、30分が限度である。
インターネットのサイトで、広く投稿小説などを扱っている人によると、
――多くの人にとってコンピュータ画面をよむのは辛い。
という実感をお持ちのようである。
あるいは――
サイトから無料でダウンロードできる公文書籍の類いが、書店で販売されるようになると、一気にダウンロードの件数が減るという話もある――
これは外国の話――
とにかく――
どうやら、コンピュータ画面よりも紙面のほうが人の目に優しいという事実は、ほぼ疑いがない。
では、コンピュータ画面が衰退するかというと、そうでもあるまい。
不特定多数の人に、常に最新の情報を提供することができ、しかも一度、提供されたものに修正を加え続けることで、常に情報を最新たらしむことができるという点で、コンピュータ画面は紙面を超越している。
……であるならば――
行き着く先は、どこか？
――紙面みたいなコンピュータ画面
であろうと僕は思っている。
コンピュータ画面が紙のようにペラペラで、自由にめくることができ、しかも、随時、書き込んだり編集し直したりできれば、抜群の利便性である。
加えて――
画面に写し出されたときの質感が、紙に印刷されたときの質感と全く同じだとしたら――
まさに夢のようである。
紙の欠点は、かさ張って重いということだろう。
我が家にある紙情報を全てコンピュータ情報に置換すると、かなりスッキリする。
ソファの一つも置けるに違いない。
誤解のないようにいっておく。
紙は偉大だ。
2000年前の発明品であるのに、いまだに使われている。
もしかしたら、2000年後も使われ続けているかもしれない。
＊
どうやら、わかってきた。
――紙面がコンピュータ画面にとって代わられる。
との予言が、腑に落ちなかった理由である。
紙が持つ歴史の長さを考慮していない。
レコードがCDにとって代わられたときのような響きがある。
実際は相当に違うのに、である。
紙とレコードとでは、人類に支持されてきた年月が違うのだ。
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2005年7月5日 (火) |
頭ごなしに怒られた |
頭ごなしに怒られた。
見ず知らずの若い女性に、である。
まあ、僕が悪いのだけれど……。
＊
僕は自分の車を自宅アパートの入り口付近に止めるクセがある。
忘れ物に気付いたり、急に物が必要になったりすると、よく車を横付けにする。
時間にして4、5分――たまに30分くらいのこともある。
かれこれ7、8年は、そうやっていた。
今日も、それをやった。
そうしたら、怒られた。
「車庫に入れないんです！」
という。
アパートの向かいの車庫のことらしい。
僕の車が邪魔をしているようだ。
たしかに、道幅は狭い。
車体が大きければ、思うように車庫入れできないのかもしれない。
文句をいわれたのは今日が初めてである。
今まで7、8年も、そうやっていたのに――
（なんでだろう？）
と思って考えると――
思い当たる節が出てきた。
僕が車を横付けするのは大抵、真っ昼間か深夜か、である。
が、今日は宵の口にやった。
それで、その女性とドンピシャに鉢合わせになったのだと思う。
あるいは――
僕が気付いていなかっただけかもしれない。
実は7、8年前から、その女性はハラワタの煮えくり返る思いをしていたのかもしれない。
そうだとすると、今日は、
――ここで会ったが百年目！
だったわけである。
ここぞとばかりに噛み付いてきたとしても不思議はない。
そうはいっても――
僕だって、何も意図的に意地悪をしていたわけではない。
いきなり待ち伏せされて、
――ツンケン、ツンケン。
いわれると、さすがに穏やかではいられない。
抗議のときに、最初から悪意ありと決めつけるのは、いかがなものか？
少なくとも僕は、そうしないように気をつけている。
一見、悪意に溢れているようにみえても、意外と、そうでないことは多い。
他人の事情など、そう簡単にはわからないものだ。
まあ――
僕が100％悪い事実に変わりはないけれどね。
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2005年7月4日 (月) |
理想の死に方 |
今年の『文藝春秋』の新年特別号に、
――各界著名人58名が望む――理想の死に方
という特集記事が編まれていた。58名が寄せた随筆の集合である。
表紙の見出しには、
――三笠宮殿下、瀬戸内寂聴からフジ子・ヘミング、ダライ・ラマまで
とある。
三笠宮崇仁親王に始まり、作家の渡辺淳一さんで終わる。
数百字に及ぶものから十字に満たないものまで、バリエーションは豊富だ。
この新年特別号を買って半年が過ぎている。
今でも時々、手にとってはページをめくる。
迫力のある随筆集である。
＊
ノートパソコンを使っていて、知らないうちに電源アダプターが外れ、充電の残りが20％とか10％とかになっているときがある。
（何だよ、まったく！）
といって、電源アダプターを繋ぎ直すわけだが――
ふと思った。
がんの告知は、多分、こんな感じなのではないか、と――
もちろん、がんの告知の場合は、
（何だよ、まったく！）
といって、電源アダプターを繋ぎ直すわけにはいかない。
――余命一年
といわれれば、基本的には「一年」である。
あわてて「充電」して「一年」が「十年」になったり「二十年」になったりはしない。
もっとも、余命予測は、しばしば外れる。
現代医学は、そこまで十分に発達しているとはいえない。
「一年」が「二年」になったり「半年」になったりすることはある。
それは、ともかく――
人生は、慌てて「充電」し直したりはできない。
残された10％や20％を、いかに完全燃焼させていくか？
どうしても、そういう発想に立たざるを得なくなる。
そこが、人の命の切なくて、儚（はかな）いところである。
先日、
――あなたは自分自身と折り合いをつけていない。
と、いわれた。
「折り合い……ですか？」
と僕は問うた。
曖昧な言葉なので真意を確認したかったのである。
が、その人は、
――折り合い、折り合い。
と繰り返すだけであった。
言葉のプロではないので、言い換えの重要性に気付かなかったのだろう。
僕にとって「折り合いをつける」というのは、
――いつ死んでもいいように生きる。
ということである。
五年後や十年後の栄光や幸福を目指したりしない、ということである。
――今の自分にできることで、やっていて多少なりとも幸せなことを、地道に追及していく。
ということである。
もちろん、今日、明日にも死んでいいと本気で思っているわけではない。
が、仮に、そのような状況に追い込まれても、
――まあ、仕方ないか……。
と思える程度には諦める、ということである。
もし僕が今日、
――余命一年
と宣告されたら、どうするか。
書きかけの物語や随筆を全て中断し、ある物語だけに没頭すると思う。
死にいく自分が味わうためだけの物語かもしれない。
そんな物語の行く末を考えながら、この世に別れを告げる――それが僕の理想の死に方である。
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2005年7月3日 (日) |
マル太・管理人モード |
いつも『道草日記』を御覧頂き、ありがとうございます。
今日の日記はお休みです。
色々と仕事が立て込んでいます。
先週、仙台を留守にしていたツケですね。
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2005年7月2日 (土) |
実用的な挨拶 |
この世で最もやってはいけないことは、
――自分の都合を隠して恩を着せること。
だと思っている。
例えば、ある人にＡという仕事を頼まず、Ｂという仕事を頼みたいとする。
自分の都合でＡではなくＢを頼むのである。
なのに、
――あなたはにはＢのほうがやりやすいだろうから……。
という――そういうことである。
これは良くない。
すれ違いの始まりである。
では、どうすべきか？
簡単である。
――あなたにはＢをお願いしたい。
とストレートに伝えるか、あるいは、
――どちらをやりたいか？
と訊き、Ｂと答えたら、そのまま、
――では、やってくれ。
と伝え、Ａと答えたら、
――悪いがＢをやってくれ。
と伝えればいい。
＊
以上のことを初めて意識したのは従姉の結婚式のときだった。
先年に亡くなった祖母は当時、まだ出席できる状態だった。
が――
足腰が弱っていたので素早くは動けない。
式場の人がいった。
「おぶってあげてください。そのほうが、お祖母さまも喜ばれるでしょうから……」
逆である。
祖母は祖父が亡くなってからは、親族のヘッドとして、威厳を保っていた。
痴呆の気配が多少は漂っていたとはいえ、このときも盛装に身を固めていた。
そんなヘッドをおぶるのは忍びない。
だから、僕は式場の人の言葉を容れなかった。
祖母のためを思うなら、おぶってはいけないと考えたのである。
すると、
「予定から遅れているんです。早く移動してもらわないと困ります」
と、いわれた。
（――なら、最初から、そういえよ！）
である。
――そのほうが、お祖母さまも喜ばれるでしょう。
などというから、いけない。
――そうして頂かないと我々が困るのです。
と、いえばよい。
なぜ、いえないのか？
＊
よく、
――挨拶ができる人間になれ！
と、いう。
「おはようございます」「失礼します」「いらっしゃいませ」「ただいま」などの挨拶である。
たしかに、この手の挨拶ができない人は困る。
が、挨拶が苦手な僕にいわせれば、この手の挨拶は最重要ではない。
どちらかといえば、形式的な挨拶である。
最重要なのは「ありがとうございます」「申し訳ありません」などの実用的な挨拶だ。
意味もなく礼を述べたり、詫びを入れたりすることはない。
そういう意味で実用的である。
＊
あのときの式場の人は、おそらく「申し訳ありません」の挨拶ができない人だった。
――申し訳ありませんが、お祖母さまを、おぶっていただけませんか？
と、いえば何の問題もなかったのである。
この種のミスを犯すのは大抵、意思疎通能力に限界のある人である。
一見、ソフトで温かい人柄の人が多い。形式的な挨拶には優れた人たちである。
もちろん、そういう人たちにも良さはある。
が――
正直にいって、僕は辟易している。
多分、僕と対極的な人たちだからだ。
僕は、よく、
――冷淡、きつい、頭が堅そう。
などといわれる。
たしかに、そうみられる一面を僕は持っている。
だから、意思疎通能力を磨き始めた。
例えば、大事な場面で意見を具申するときは必ず、
――私は、それが正しいと信じているが、絶対的に正しいとは思っていない。
と付け足すようにしている。
――そんなことくらい当たり前だから、わざわざ付け足さなくてもわかるだろう。
とは思わないようにしている。
暗黙了解の恐さを過小評価しないようにしている。
＊
どこの職場でも、
――あいつは「おはよう」がいえない！
と怒る人がある。
ときに過剰に怒っている。
そういう人は、大抵「ありがとう」や「ゴメンなさい」がいえない。
周りに「おはよう」を強いるのに、「ありがとう」や「ゴメンなさい」がいえないのは最も恥ずかしいことだと僕は思っている。
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2005年7月1日 (金) |
「一生、俺のもんだ！」 |
今日は副業先のVIPの方々と会食をする。
そのうちのお一人がもらされた言葉が印象的だった。
その方は五十代前半の男性で、今年、高校一年になる娘さんがおられる。
酔っ払って、
「今が一番かわいい盛りでいらっしゃるでしょう？」
と伺うと、
「それがねえ〜」
と渋い顔をお作りになる。
さらに伺うと、中学1年くらいまでは、お父さん娘（こ）で万々歳だったそうだが、この頃は、
――気持ち悪い。
と、いわれるようになってしまったとのこと――
「一生、俺のもんだ！ って思ってたんだけどなあ、ガハハハ！」
とお笑いになる。
父親の歓喜と悲哀とを同時に思い知った。
「女のお子さんをもてば、わかりますよ」
だそうである。
あんまり、わかりたくないかも……。
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