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2005年2月28日 (月) |
黒のルーズソックス |
僕はルーズソックスというのが、どうも苦手である。
はっきりいえば、嫌いである。
「ルーズソックス」とは、例の女子高生のはくダブダブの靴下である。
女子高生の定番ファッションとして認知されたといってよい。
いや――
もちろん、僕は単に好みをいっているだけであるから、これをもって、直ちに、
――ルーズソックスは、けしからん！
などと罵倒するつもりはない。
僕には良さがわからない、というだけである。
あれは女子高生たち自身に気に入られて普及したものと思っている。
冬などは割と暖かいらしく、意外と機能的な面もあるのだ。
一方、ルーズソックスを観賞用の小道具とみる向きがある。
もちろん、男の視点での話――
雑誌のグラビア・アイドルが、たまにルーズソックスで登場するのをみていると、そうとしか思えない。
どんなに可愛い女子高生でも、ルーズソックスをはかれた途端、僕の興味は萎える。
まあ、三十男の女子高生への興味など萎えたほうがいいに決まっているが……。
ところが、見方を変えると、あれも相当にお洒落だということがわかった。
今日、電車の向かいに座った女の子が黒のルーズソックスをはいていた。
高校の制服でなく、私服だったのが、よかったらしい。
若い女の子の魅力が足下から存分に引き出されていた。
黒のルーズソックス――
意外といい。
いわゆるルーズソックスは白のダブダブだから萎えるのである。
清楚な制服姿に、あれはない。
だが、黒のダブダブは、かなり、お洒落である。
少なくとも僕には、そうみえる。
よくみたら、黒のルーズソックスは、黒のレッグウォーマー（leg warmer）だった。
遠目には、ほとんど変わらない。
やはり、コーディネートが肝要だと思う。
いくら黒のルーズソックスが物珍しいからといって、やはり制服の下ではサマにならないかもしれない。
今日、電車でみた女の子は、色調が上品に華美で、編み目模様の装飾の多い服装だった。
わずかに西欧人風の顔立が混じっている。
だから、サマになったのかもしれない。
安易なアレンジは危険である。
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2005年2月27日 (日) |
十代の僕には、わからなかった |
十代の頃に理解できなかったことで、いまは容易に理解できること――というのがある。
例えば、ファミリー・レストランと居酒屋との違いだ。
――そんなもん、全然、違うじゃないか！
とは怒らないで頂きたい。
要は、一人で食事をするときには、ファミリー・レストランよりも居酒屋のほうがいい、という話である。
たとえ、他の誰とも話をしないにしても……である。
誰とも話をしないなら、ファミリー・レストランでもよさそうなものだが、毎晩、居酒屋にやってくる。
夫婦二人でやってる家庭的な居酒屋にやってくる。
そういう客は大抵、男である。
店の人とは関わらない。
他の客とも一切、話をしない。
一人、黙々と飯を喰らう。
酒は飲まない。
せいぜいビールが大瓶2本程度――
酒を飲まないなら、ファミリー・レストランでもよさそうなものだが、なぜか、毎晩やってくる。
そして、一言も口をきかない。
（一体なんなんだ！）
と十代の僕は思った。
いまは、わかる。
男は多分、一人身だ。
しかも単身赴任などではなくて、正真正銘の一人身である。
妻もおらず、子もおらず、父母もない。
そういう身の上に違いない。
いまは思えば、なぜ、こんな簡単なことが、わからなかったのか？
人は歳とともに情を重くみるという。
理よりも情である。
これも、わからなかった。
十代の僕には、わからなかった。
いまでは、わかる。
なぜ、こんな簡単なことが、わからなかったのか？
いまの僕には、むしろ、そちらのほうが不思議である。
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2005年2月26日 (土) |
東京の蕎、入試の数学（前編） |
蕎（そば）は、つゆに先だけを浸して食べるのがよい、という。
それが通なのだ、と――
僕などは全てをベチャっと浸すのでバカにされる。
食通を自任する人たちに笑われるのである。
しかし、そうと一概にはいえないことを知った。
――つゆが薄い場合はどっぷりつけていいんだよ。
という。
作家の池波正太郎さんの言葉である（『男の作法』サンマーク出版）
池波さんによれば、
――ちょっとつけるというのは、どっぷりつけたら辛くて食べられないからちょっとつける。
のだそうだ。
濃いつゆと蕎の味とが口の中で混ざりあって具合がよい、という。
――ちょっと先だけつけてスーッとやるのが本当だ。
と主張する人は「半可通」だと池波さんはいう。
――冗談言っちゃいけない、本当の東京の人は辛いからつけないんだ、無理してつけないんじゃなくて。
と手厳しい。
僕は食に疎い。
だから、池波さんの苛立ちに、直接的には共感できない。
が、間接的には共感できる。
以下は大学入試の数学の例である。
受験指導に10年程かかわってきたからこそ、感じる苛立ちである。
池波さんの蕎の話ほどの一般性はない。
予備校生から受ける質問に以下のようなものがある。
――数式の後ろにピリオドを打たなきゃいけないって本当ですか？
「ピリオド」というのは英語のピリオド（period）――終止符のことである。
大学入試の数学では論述を課す場合が多い。
答えだけでなく、答えに至るプロセスも採点の対象となる。
よって、受験生は自分の思考や計算の過程を論理的に記さなければならない。
例えば、以下のような記述が求められる。
＊
等式
Ａ＝Ｂ
の両辺にＣをかけると、
ＣＡ＝ＣＢ
を得る。
＊
よって、数式の後ろにピリオドを打つとは、例えば、上記の「Ａ＝Ｂ」の後ろには、すべからく「.」を打つ――
つまり、「Ａ＝Ｂ.」と書く――ということを意味する。
本当に、そうなのか？
結論からいえば、嘘である――少なくとも日本語の場合には必要がない。
英語の場合は必要になることがある。
どういうことか？
例えば、上の記述（２つの＊で挟まれた部分）を英訳（直訳）すると、以下のようになる。
＊
Multiplying both sides of the equaiton
Ａ＝Ｂ
by Ｃ, we have
ＣＡ＝ＣＢ.
＊
上の記述からもわかるように、英語では数式が文章の末尾にくることが多い。
よって、みかけ上、数式の後ろにピリオドの来ることは珍しくない。
これを知らずに、
――数式の後ろにはピリオドを打つのが本当だ。
と通ぶる人がいる。
池波さんではないが、
――冗談いっちゃいけない。
である。
ピリオドは数式の後ろだから打つのではなく、文章の末尾だから打つのである。
――でも、数式の後ろにピリオドがあるものをみた。
と食い下がる受験生がある。
たしかに、大手予備校の模擬試験の解答冊子で打っているものがある。
どんなに風に打っているかというと、以下のようである。
＊
等式
Ａ＝Ｂ
の両辺にＣをかけると、
ＣＡ＝ＣＢ.
＊
なぜ、ピリオドが打たれているのか？
（後編に続く）
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2005年2月26日 (土) |
東京の蕎、入試の数学（後編） |
（前編より続く）
可能性は二つある。
一つは執筆者が日本語をわかっていない、ということ――
きちんとした日本語なら「ＣＡ＝ＣＢ」で止めてよいわけがない。
こうした止め方は体言止めとみなせよう。
だが、体言止めとは、主に和歌や俳句などで、一定の文学的効果を狙って用いられる修辞であり、数学の答案には、どう考えても不向きである。
もう一つの可能性は行数の節約のため、というもの――
受験参考書の編集に携わる予備校講師の話によれば、行数の問題は、印刷コストの手前、結構、切実らしい。
「ＣＡ＝ＣＢ」の後ろに「を得る」を加えれば、余白も含め、2行を消費する。
この分が余計なコストになり得るのだそうだ。
数カ所程度なら問題はない。
が、何十カ所ともなれば別である。
チリも積もれば山となる、である。
というわけで、
――数式の後ろにはピリオドを打つのが本当だ。
というのは嘘である。
半可通の典型といってよいと思う。
試みに手元の書物を調べてみた。
日本語で書かれたもので、数式の後ろにピリオドが打たれているものは、一つもない。
英語では、ピリオドの打たれたものが一冊だけあったが、残りは打たれていなかった。末尾が数式で終わっている文章はピリオドなしである。
とはいえ――
不用意に半可通をからかうのは考えものだ。
自分自身が半可通でないとも限らない。
よほど親しい相手でなければ、知らない振りをしたほうがよさそうだ。
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2005年2月25日 (金) |
出合い頭の死神 |
カローザス（Carothers）の評伝をよみ、違和感を覚えた。
カローザスは20世紀初頭の化学者である。
ナイロン66の発明で知られる。
カローザスはデュポン（du Pont）社のお抱え研究者であった。
数々の功績により、
――会社の金は無制限に使ってよい。
との言質までとったそうである。
デュポン社の発展は、カローザスなくしては、ありえなかった。
まさに栄光の研究者人生であったといってよい。
だが、私生活は思わしくなかった。
生来、鬱の傾向にある人だったらしい。
肉親の死を皮切りに、鬱の傾向が強くなった。
心配したデュポン社は、カローザスに長期休暇を与えた。
遅い結婚も果たした。
それでも、自殺の誘惑には勝てなかった。
ナイロン66が世に広まる様子をみることなく、カローザスは命を絶つ。
享年41――
――死神はカローザスの心をとらえて放さなかったようだ。
と評伝は結ばれている。
僕が違和感を覚えたのは、この結びの文言である。
世の中には、まるで死神とは無縁の人があるかのような文言である。
この世の全ての人が死に向かって生きている――という不条理が無視されている。
さながら、人は何らかの努力次第で、未来永劫、死神の世話にならずに済むかのようである。
高校生向けの評伝であった。
死を度外視したのは故意かもしれない。
たしかに、高校生には、そのほうがよいかもしれぬ。
知らぬが仏という。
僕とて、15年前なら、理解すらできない違和感だった。
だが――
人はいつか死ぬ。
必ずや死神の世話になる日がくる。
そのことを、なるべく早いうちに思い知っておくのがよい。
死が迫ってからでは、できないこともある。
カローザスが真に鬱病による自殺であったなら、それは病没である。
脳卒中や癌による病没と大差ない。
しかも突然の死である。
死は、しばしば突然にやってくる。
若くても、やってくる。
栄光の化学者カローザスも、そうだった。
そのことは、たとえ高校生が相手でも、真摯に伝えるべきではないか。
彼らとて、いつかは死ぬ身なのである。
なのに、
――死神はカローザスの心をとらえて放さなかったようだ。
と、いう。
まるで、死神の求愛を拒み続ければ、いつまでも死ななくて済むかのような錯覚がある。
もちろん、さほど明示的な錯覚ではない。
だから、恐ろしい。
気付いたら目の前に死神が――となりかねない。
出合い頭の死神は、恐ろしい。
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2005年2月24日 (木) |
若さは資源なり |
人に向かって、
――若いね。
とは、いわないように気を付けている。
たとえ、自分より十は歳下であるとわかっていても、いわないように気を付けている。
「若い」を褒め言葉だと思っている人は多い。
年配の人が、若者に向かって、
――若いね。
という場合は、大抵、
――若いっていいね。
くらいの意味であることが多い。
若いということは時間が残されているということだ。
つまり、可能性が残されているわけである。
だから、良いことには違いない。
しかし、無条件で肯定できるものではない。
若い人が「若いね」といわれ、腹を立てる場合がある。
この心理は、何のか？
作家の村上龍さんは、若さは資源だとおっしゃる。
今月3日に開かれた催し物でのご発言だ（『村上龍と語る大学生の集い』朝日新聞社主催、中央大学後援）
若さが資源であるということは、「若い」は、例えば「金持ち」に換言できるということである。
――金持ちだね。
といわれ、いい気がする人はいない。
本当に金持ちだったとしても、そうだろう。
若さが資源なら、それを有効利用することこそが肝要である。
二十歳前後の頃、
「絶対に歳は誤摩化すな」
と、いった人がある。
歳をとっても歳は誤摩化すな――ということだ。
「歳を誤摩化すヤツには、ろくなヤツがいない」
と、いう。
当時、四十代の女性であった。
説得力があった。
歳をとるということは、若さを消費するということである。
だから、歳を誤摩化すとは、消費した若さを過小申告するようなものだ。
過小申告したくなる気持ちはわかる。
例えば、千円相当しかみえない洋服を一万円で買ったとすれば、どうか？
正直に申告するのは恥ずかしいに違いない。
それと同じである。
歳を誤摩化さなくても済むためには、消費した若さに釣り合ったものを備えるしかない。
もちろん、なかなか、できることではない。
ニューヨーク・ヤンキースの四番バッター松井秀喜選手が、まだ巨人軍の三番バッターだった頃、印象に残るコメントを残した。
当時の巨人軍の四番バッターは落合博満さん――現・中日ドラゴンズの監督である。
以下は僕の記憶による。
あるとき、松井選手は試合後のヒーロー・インタビューに呼ばれ、お立ち台に登った。
インタビュアーに、
「落合さんよりも優れているところはどこですか？」
と、きかれ、
「若い、ということぐらいじゃないですか」
と答える。
額面通りに受け取ってはならない。
松井選手が、本当に「若い」を「優れているところ」と思っていたなら、ニューヨーク・ヤンキースの四番バッターにはなれなかったはずである。
松井選手は、
――落合さんより優れているところは何もない。
と、いったのである。
ただ、手元に多くの資源が残っているだけだ、と――
きちんと若さを消費した例――あまりにも偉大な例――である。
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2005年2月23日 (水) |
「泣かせたことはない」 |
――お父さんは、お母さんを泣かせたことはないの？
と娘がきく。
――ない。
と父は答える。「一度もない」と断言する。
――そう考えると、お父さんは立派な男だったんだ。
と――
が、直後に父は食べていた朝御飯で「ごほっ」とむせる。
父の脳裏に浮かんだ情景は、どういうものだったのか？
TVドラマ『はぐれ刑事純情派』の最終章のひと場面だという。
娘は小川範子さん、父は藤田まことさんが演じる。
放映は4月の予定だそうだ。
だから、このシーンは新聞の番組紹介記事で知った。
『はぐれ刑事純情派』は、実は、ほとんどみたことがない。
学生時代、試験前に意味もなくTVをつける癖があった。
そのときに数回、みたきりである。
ただ、この番組が1988年から続く長寿番組であることは知っていた。
人気の秘訣が藤田さんらの芝居の雰囲気にあるらしいということも知っていた。
娘に向かって、
――お母さんを泣かせたことは一度もない。
と断言してしまう父親を、どう演じるのか？
普通に良識のある男だったら、まず断言はするまい。
せいぜい、
――泣かせたことはないつもりだ。
くらいに止めておく。
この記事を読んだとき、
（なんてセンスのない脚本を書きやがる！）
と思った。
記事によれば、むせる演技は藤田さんのアドリブだったそうだ。
つまり、脚本家は、
――泣かせたことはない。
と断言させるつもりだったのである。
そして、その平板で無神経な台詞を藤田さんのアドリブが救ったと、僕は考えた。
が、あとで思い返す。
事実は違うかもしれない。
父親というものは、子供の前で慎重な物言いに徹するなど、できないのかもしれない。
特に婚期を迎えた娘の前では……。
小川範子さん演じる娘は、まだ嫁にいっていない。
脚本家にセンスがなかったわけではないかもしれない。
この脚本家も、普通に良識のある男なら、
――泣かせたことはない。
などと断言しないのは百も承知かもしれない。
敢えて「平板で無神経な台詞」を藤田さんに与えたのかもしれない。
藤田さんが、その台詞を、どう飲み込むのかを知りたかったのかもしれない。
藤田さんの演技を引き出すための方便だったのかもしれない。
真相はわからない。
そもそも、僕は藤田さんの役柄をよく知らない。
もしかしたら、軽はずみな発言を頻発するキャラクターなのかもしれない。
僕が面白いと思ったのは、脚本家と俳優との人間関係である。
ともに人間について考える職業だ。
が、アプローチは違う。
脚本家は言葉が全てといってよい。
俳優は言葉の選択権がないかわりに、振る舞いを付け足すことができる。
人間の所作の多くは言葉に置き換えがたいから、キャラクター造形の仕上げは俳優の専売特許になる。
脚本家と俳優との息が合わなければ、芝居は台無しである。
相互の信頼関係が必要条件である。
いつか、脚本家と俳優との葛藤を小説にしたいと思っている。
幾つか組み合わせを考えている。
一番書きたいのは、歪んだ性癖にのたうつ男性脚本家と、驕慢だが内気で傷付きやすい女優との葛藤である。
いくらでもドロドロにできる。
それが済んだら、さわやかな組み合わせにしよう。
ベテラン女性脚本家と実力派青年俳優――
なかなか面白そうだ。
老婆と青年とは僕の苦手な組み合わせなのだが、そのほうが意外にするりと書けるかもしれない。
実際に書くとなれば大変だろうけどね。
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2005年2月22日 (火) |
悪口の一種に |
悪口の一種に、
――彼は評論家だ。
と、いうものがある。
例えば、学術研究者の集まりでは、
――彼は他人の研究の評論はするが、自分の研究はサッパリだ。
と、いうものだ。
研究者たちが最も恐れる悪口といってよい。
背景にあるのは、
研究 ＝ 独創的
評論 ＝ 非独創的
の図式である。
研究は自立した活動だが、評論は他者に依存した活動だ、というわけだ。
早い話が、他人の仕事にケチをつけるのが評論だ、という考え方である。
たしかに、研究者が評論家の真似をするとき、この悪口は当たっていることが多い。
素人の評論は、あら探しの域を出ない。
例えば、インターネット上の素人映画評論が良い例である。
ほとんどが、
――ケチをつけているだけ。
である。
なぜか？
あら探しは誰にでもできるからである。
力不足の評論家ほど、あら探しに邁進するのは必然だ。
もちろん、例外はある。
「ケチをつけているだけ」でも、面白い評論はある。
では、どういう評論が面白いのか？
鍵は、やはり独創性だろう。
評論 ＝ 非独創的
の図式は誤りだ。
真に優れた評論は独創的である。
大抵の小説よりも独創的である。
何が独創的か？
例えば、評論の基準が独創的である。
何を良いとし、何を悪いとするかの基準である。
独創的な基準というのは、実は案外に難しい。
基準が独創的になりすぎて独善的であったりすれば話にならない。
そういう基準は読者が拒む。
優れた評論家ほど評価自体に重点はない。
評価の基準に重点がある。
そこに評者の哲学（世界観、人間観、文化観など）が投影される。
凡百の評論には、それがない。
インターネット上の素人映画評論では、例えば何の脈絡もなく、
――カメラワークがなってない。
などと記述される。
この記述が生きるためには、どういうカメラワークが良くて、どういうカメラワークが悪いのか――評価の基準が提示されていなければならない。
にもかかわらず、一切の説明がない。
だから、読者はついていけない。
優れた評論は評価の基準が独創的である。
そして、優れた評論家ほど、なぜか、その独創性を誇示しない。
まことに奥ゆかしい。
八本正幸さんという方の評論に『少女という名の黒魔術』がある（ポップ・カルチャー・クリティーク２『少女たちの戦歴』青弓社、1998年）
映画『エコエコアザラクIII』の評論である。
『エコエコアザラク』は、1970年代にマンガ家・古賀新一さんによって発表された作品で、黒魔術師の少女が主人公の物語である。
映像化には1990年代の技術を待たなければならなかった。
八本さんは、映画『エコエコアザラクIII』の中で、黒魔術師の少女である主人公の存在が都市伝説に位置付けられている点を高く評価した。
この都市伝説という設定が、主人公の存在を虚構の縛りから部分的に解き放っている――という主旨である。
虚構と現実とが、いかに曖昧にされているか――というのが八本さんの基準であろう。
この基準は、それほど独創的ではないかもしれない。既に誰かが提示している基準かもしれない。
僕は評論を多読しているわけではない。
が、これを読んだときの僕には十分に新鮮であった。
だから、少なくとも僕の中では、この評論は今でも珠玉の輝きを放っている。
優れた評論の定型となっている。
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2005年2月21日 (月) |
――頼む！ 起こしてくれ！ |
僕は目覚まし時計を壊してとめる……らしい。
朝は苦手である。
子供の頃から苦手である。
いつまでも寝床でヌクヌクしたいと思う。
寝床の僕は極めて意志薄弱である。
だから、目覚まし時計の厄介になる。
ところが――
目覚まし時計を壊してとめるらしい。
本人には自覚がない。
大学の友人で、目覚まし時計のベルが死ぬほど嫌いという男がいる。
彼も朝は苦手であった。
学生時代は、昼の12時より夜の12時のほうが起きている確率が高かった。
彼は目覚まし時計のベルが死ぬほど嫌いなので、必ずベルが鳴る前にとめるという。
「だから、オレ、目覚ましの音、きいたことないんだよ」
と、いった。
（ホンマかいな？）
と思ったが、目覚まし時計に一種の憎悪を抱いているのは、よく伝わってきた。
僕も寝床でヌクヌクしているときは、目覚まし時計を憎悪する。
――鳴るな！ ボケ！
である。
その前夜には、
――頼む！ 目覚ましくん。オレを起こしてくれ！
と拝んでいるのだから、いい気なものである。
ということは――
付き合っている彼女に目覚まし時計の代わりをさせるのは大変に危険なこと、ということになる。
容易に別れ話の原因となる。
それでも、頼むことはあったけれども……。
目覚まし時計を壊してとめる、というのは誇張である。
実際には目覚まし時計を思いきり叩き、その弾みで電池が外れ、それでとまる。
だから、我が家の目覚まし時計は何度でも壊れてくれる。
ついには電池収容スペースの蓋が外れてしまった
あまりにも惨い主人だからだろう。
時々、逆襲してくる。
一人で勝手に電池を外すのである。
そういうときは、いつまでも3時である。
4時になっても3時だし、5時になっても3時である。
昨日、それをやられた。
目覚まし時計の時刻が変わらない。
みる度に変わらない。
こういうとき、なぜか、おかしいとは思わず、幸せだと思う。
――まだ寝れる……。
というわけである。
昨日の場合、6時過ぎに電話がかかってきた。
5時の約束に遅刻したのである。
「……あのぉ、どうしたんでしょうか？」
と、きかれたので、
「――え？」
と戸惑う。
別の時計が正しい時刻を表示していた。
ちなみに、上記の時刻は全て午後である。
午前ではない。
前の夜は徹夜だったので、朝から寝ていたのである。
昨日は日曜だ。
休日の過ごし方としては、これが当たり前である。
では、平日ならどうするか？
徹夜明けでも家を出る。
当たり前である。
生きていくためには、やむを得ない。
その場合、30分でもいいから寝るのがコツである。
そういうとき、もちろん目覚まし時計を敵に回せない。
――頼む！ 起こしてくれ！
と拝むのである。
いい気なものである。
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2005年2月20日 (日) |
寒さ自慢は程々に…… |
寒い。
今夜の仙台は、寒い。
尋常でない冷え込みである。
氷点下は確実だ。
もしかして、−5℃に迫る勢いではないか？
とにかく、ありとあらゆるものが凍てついていた。
路面――
洗濯物――
水たまり――
自転車の鍵――
車の鍵の差し込み口――
特に車の鍵の差し込み口には参った。
鍵が差し込めないのである。
中がカチコチに凍っていたらしい。
鍵を手で温め、どうにか開けることができた。
その間、立ちっぱなし……。
コートは車の中……。
仙台の冷気、恐るべし――
もっとも、これには別の要因もありそうで――
というのは、日頃から力任せに鍵を捻っているので、どうも鍵が変形してしまったようなのである。
これが直接の原因かどうかはわからないが、少なくとも遠因にはなっているだろう。
自業自得である。
水たまりの凍り方も尋常ではなかった。
表面の氷の分厚いこと、分厚いこと――
まるでプラスチックである。
洗濯物も凄かった。
天然の形状記憶――折り畳むのも、ひと苦労――
じっと、とけるのを待つ。
繊維の傷みは激しかろう。
もちろん、今夜の冷え込みが尋常でないというのは、あくまで仙台を基準にしての話である。
仙台よりも寒い地域では、こんな話、屁でもないだろう。
上には上があるものだ。
寒さ自慢は程々にしておく。
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2005年2月19日 (土) |
聞き上手 |
とんねるずの木梨憲武さんは聞き上手なのだそうである。
脚本家の三谷幸喜さんのご指摘による（朝日新聞『三谷幸喜のありふれた生活』244）
三谷さんは木梨さんのトーク番組に出演された。
出演中、かなりリラックスできたのだそうである。
木梨さんの聞き上手振りが大変に素晴らしかったからだ。
三谷さんによれば、聞き上手の極意は、
――いかに相手に感心を持っているように振る舞えるかに尽きる。
という。
なるほど――
人は、自分に関心を抱いてくれていそうな相手には自然、饒舌になるものである。
ところで、相手に感心を抱いているように振る舞うのは結構、難しい。
実際に関心を持っていてさえ、上手く振る舞えないときもある。
例えば初な少年は、好意をもった少女の前で大抵、そうなる。
＊
母によれば、妹は聞き上手だという。
友達と話しているところを観察すると、妹は一方的に相手に喋らせることが多いそうだ。
だからであろう。
妹は友人たちの「かなりヤバい秘密」も握っているようである。
（なんで、そんなことまで！）
と思ったことがある。
少女時代の妹は、いわゆる優等生タイプであった。
勉強もスポーツも人付き合いも、そこそこにできる――いわゆる穴がないタイプである。
しかし、ずば抜けたものがない。
兄は逆だった。
勉強は大得意――だが、スポーツは恐ろしく苦手――でも、野球だけはまあまあ……というデコボコ人間だった。
兄がそんなだから、妹は、いい意味でも悪い意味でも、目立たない。
正当に評価されることも少なかった。
親戚の中では、
「お兄ちゃんは優秀だけど、妹のほうはね……」
というのが通念となった。
千葉から岡山に引っ越したとき、妹は初めて兄と無縁の学校に入った。
妹が中学2年――僕が高校に入学した年である。
比較の対象がなくなり、かなり楽になったと、後にきいた。
多分、本当だろう。
妹を正当に評価しなかったのは僕も同じである。
十代の頃の僕は、ずっと勘違いをしていた。
曰く、
――妹が聞き上手なのは、単に自分から持ち出せる話題が少ないからだ。
と――
僕は幼少時より口が上手かった。
理屈っぽく言い負かすのが得意だった。
他人の話を黙ってきくなど我慢ならない性分でもあった。
聞き上手の大切さを知ったのは、大学に入り、家庭教師を始めたときである。
家庭教師で教えるときは、実は7対3で生徒により多く喋らせるくらいが調度よい。
教えたことを随時、アウトプットさせることで理解が深まる。
教え下手の家庭教師は、その比率が逆だ。
ときに10対0で喋っていたりする。
それではマスプロ教育と同じだ。
一対一の利点を無駄にしているに等しい。
聞き上手の実体を知って、妹の資質を知った。
人の話に関心を抱き続けるには、忍耐だけではダメである。
重要なのは知性だ。
未知の情報に接したときでも、それを即座に分析し、自分なりに理解する能力が不可欠である。
漫然ときいていたのでは関心は抱けない。その振りすら、できない。
この能力を、妹は十代のときから備えていたように思う。
聞き上手の資質は評価されにくい。
だいたい、とんねるずの木梨憲武さんが、そうではないか。
相方の石橋貴明さんは目立つ。派手だ。
それに比べ、木梨さんは目立たない。地味だ。
正直な話、石橋さんのおまけ――というイメージも拭いがたい。
三谷幸喜さんは前述の随筆の中で、役者としての木梨さんに期待しておられる。
芝居センスが抜群なのだそうだ。
役者としての木梨さんを、もっとみてみたい。
＊
聞き上手は損をする。
卓越した聞き上手ほど、そのようだ。
損をさせてはならない。
少女時代の妹を思い出しても、そう思う。
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2005年2月18日 (金) |
第一印象が良すぎるというのも…… |
初対面は難しい。
第一印象が難しい。
初対面のとき、自分の第一印象は、その場限りで決まってしまう。
あとで取り返せない。
恐ろしい。
第一印象を、いかによくするか？
かなりの頭の使いどころである。
第一印象は良すぎないほうがよい。
知人に、こんな感じの人がいる。
入社時の面接では最高評価だった。
面接担当者に、
――とても魅力的な人です。
と、いわしめた。
が、入社して数カ月で、ミスをおかした。
対外的なミスだった。
取引先の相手を怒らせた。
自分も怒った。
居合わせた同僚たちは、びっくりし、声もかけられなかったという。
そんな人にみえなかったので、尚更だった。
この一件が、ある重役を窮地に追い込んだ。
最終的には事なきを得たのだが、重役は事態を重くみた。
面接担当者を呼び出し、
――解雇したい。
と、いいわたす。
重役に直接の人事権はなかった。
よって、解雇は免れた。
面接担当者は当人に延々と説教を続けた。
最初が好印象だっただけに、あとは辛い。
口答えにあう度に印象は悪化していった。
ついには、その面接担当者も見放した。
人間である。
つい怒りに身を任せてしまうことはあろう。
だが、そんなことは、まずなさそう、という判断で採用されていた。
不運だったいえる。
第一印象は、ほどほどがよい。
もちろん、
――うわ！ こいつ、最低！
みたいな第一印象は話にならない。
が、
――この人はできる！
とか、
――とても感じのいい人！
とかいった第一印象は危険である。
最初が良すぎると、あとは落ちるしかない。
――可もなく不可もなく。
――平々凡々。
――どんな人だっけ？
がよい。
こういうのが得をする。
後日、わずかに優れた働きをしただけで、
――結構やるじゃん！
とか、
――もっと駄目な人かと思ってた！
とかいった感じになる。
第一印象は難しい。
ほどほどに、が難しい。
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2005年2月17日 (木) |
法華堂のブランコ（前編） |
雨に閉ざされる――という経験をした。
十九歳の夏のことである。
当時、僕は東京の予備校に通っていた。
一人暮らしだった。
受験勉強には行き詰っていて、それなりに落ち込んでいた。
自然、関心はよそに向かった。
文芸、音楽、演劇、写真――
寒い夏だったと記憶している。
雨ばかり降っていた。
なのに――
突然、鎌倉まで散歩にいくことを思いつく。
翌日、すぐに実行した。
平日だった。
予備校はサボったのかもしれない。
あるいは、たまたま休講だったのか……。
その辺は忘れた。
とにかく、平日だった。
鶴岡八幡宮から歩いていける所に法華堂跡というのがある。
鎌倉時代、宝治合戦に敗れた三浦一族郎党が自刃して果てたところ――と伝えられる。
いまでは児童公園になっていて、滑り台やらブランコやらの類が置かれている。
あれから十年が経っているが、おそらく今も変わってはいないだろう。
その日は朝から雨だった。
僕は、量販店で買った千円のシャツに、色あせたブルーのジーンズ、麻でしわくちゃのジャケットを羽織った――よい格好ではない。
少なくとも同世代の異性の好感は絶望的だった。
もったいない――と思う。
あれから10キロ以上も太った今は、尚更、そう思う。
当時の僕は痩せていて、着飾る余地は十分に残されていた。
が、全く頓着なかった。
そういう年頃だった。
とにかく、そんな感じで――
僕は法華堂跡の児童公園を訪ねたのである。
公園の敷地に足を踏み入れた途端、雨足が強くなった。
傘をさしていても、一歩踏み出せば足先からずぶ濡れになるような雨だった。
雨に閉ざされる――とは、そういうことである。
仕方なく、その場に突っ立った。
しばらく、雨の音をきいた。
背後でブランコがキイと鳴った。
多分、風でも吹いたのだ。
誰もいないことは、振り向けば確認できたはずである。
そこで振り向いていたら、今の僕はない。
僕は振り向かなかった。
なぜなら、雨に閉ざされていたので――
振り向けば、足先からずぶ濡れになると思ったのだ。
つまらない理由だった。
かわりに、空想に耽った。
ブランコには娘が座っている。
若い娘だ。
白いカーデガンに水色のスカート――
年の頃は十八、九――
傘はさしていない。
ただの娘ではなかった。
北条家の末裔だ。
北条家は鎌倉期に政治を牛耳った一族である。
法治合戦で三浦氏を滅ぼしたのも北条家であった。
娘は、うつむいている。
ブランコの周りには三浦一族の屍が累々と積み重なっている。
僕の目には映らない。
が、娘の目にはみえている。
娘は目を閉じない。
凝視する。
娘は傘をさしていない……。
＊
（後編へ）
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2005年2月17日 (木) |
法華堂のブランコ（後編） |
（前編より）
以上は空想である。
雨が小降りになり、僕は振り向いた。
もちろん、ブランコには誰もいない。
遠のく雨音だけが余韻に残った。
このとき、僕はルビコン川を渡ったと思う。
当国風にいえば、洛中・本能寺の急襲を決意した――といったところか……。
その日の夜――
僕は物語を書き始めた。
法華堂跡で濡れていた娘の物語である。
平凡な物語だった。
稚拙な物語だった。
高校時代に書いた物語――幕末の動乱をモチーフにした未来小説――のほうが遥かに斬新だったと今は思う。
が――
僕にとっての物語は、法華堂のブランコから始まる。
あの雨に閉ざされた児童公園のブランコである。
今にして思えば、あれはエロスとタナトスとであった。
物語における生の衝動と死の衝動――
二つの衝動に突き動かされ、僕は小説を書き始める。
その次の年の春――
僕は仙台にきた。
以後、学位をとるまでの十年は回り道だったと思う。
結果論だ。
後悔はしていない。
以上のことは、結局、つい最近になって、わかったことだ。
今も法華堂跡にブランコはあるだろう。
が、あのときの娘は遠くにいってしまった。
追いかけないわけにはいかない。
雨に濡れたエロスやタナトスの物語を少しでも洗練させるべく、僕は小説を書く。
今でも、そうありたいと、切に願っている。
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2005年2月16日 (水) |
美の基準 |
今日は東京に行ってきた。旧友に会うためにである。
日帰りである。
もちろん、幾つか用事は抱き合わせてある。
交通費を考えれば、それくらいしないと割に合わないと考えたのだが、その旧友とは、ほぼ13年ぶりの対面だったので、そんなことをしなくても得るものはあった。
今日の話は、それではない。
浅草で、とびきりの美人をみた。
土産屋の店員さんである。
大正期の画家・竹久夢二の美人画をかたどった色紙などを販売していた。
歳の頃は30〜40代――
やや焦茶色かかった黒髪を結い上げ、白いうなじをみせていた。
ジーンズの布地のジャケットを着こなし、あわせ目からは白い薄手のセーターがのぞいていた。
黒のスラックスは脚のラインを綺麗に浮かびあがらせている。
顔立はあどけなく、薄化粧が上品で、頬のたるみさえなければ、十分に20代で通用しただろう。
（こんな人が奥さんでは、旦那さんも嬉しかろう）
とか、
（こんな人をお母さんにもった少年は大変だ）
とか、色々と余計なことを考えた。
ところが、このことは一緒にいた旧友には話さなかった。
何となく話す気にはなれなかった。
彼がお土産を探すのに忙しく、その店員さんに全く関心を払っていなかったということもある。
しかし、それだけではない。
もちろん、
――あの人、綺麗だよね？
と向けたら、
――そうだね。
くらいは返してくれたろうと思う。
しかし、そのことに、いったい、どれほどの意味があろうかと思ってしまったのだ。
＊
人は、美しい人や美しい事物をみると、つい、
――美しい！
と叫びたくなるものらしい。
美を誰かと分かち合いたい、という欲求だろう。
ところが、美を分かち合うのは容易ではない。
例えば、学問の世界における論理的帰結などとは違い、美に関して他者に強制了解を求めることはナンセンスである。
――俺は、これを美しいと思う。お前も、そう思うだろう？ な？
と、いうわけにはいかない。
――そんなに美しくないじゃん！
と素っ気なくされることも珍しくはないからだ。
人が何かを美しいと感じるのは主観である。
そこに客観の入り込む余地は、ほとんどないように思える。
そもそも、美の基準は体験の記憶と切り離せない。
例えば、僕は竹久夢二の美人画を美しいと思う一方で、顕微鏡下にみえる肝細胞の配列（肝臓の組織）も美しいと思う。
竹久夢二の美人画はよいとして、肝細胞の配列はどうか？
もちろん、肝細胞の配列は、僕が学生時代にヒトの臓器の切片を多数みてきているからこそ感じられる美であろう。
浅草の街頭で100人にアンケートをとっても、おそらく真の賛同者は一人も得られない。
が、竹久夢二の美人画で同じことをやれば、数十人の賛同者が得られるに違いない。
どちらも美である。
これらに上下はあるのだろうか？
おそらく、あるまい。
賛同者の数以外で優劣を付けることは不可能であろう。
だから――
人は、何かをみて美しいと感じたとき、その美を殊更に人と分かち合おうとはしないほうが賢いようである。
――綺麗だよね。
などと同意を求めず、
――綺麗だと思う――というのはね……。
という風に、自分が、なぜ、それを美しいと思うのかを、あるいは、どのように、それを美しいと思うのかを、陳述すればよい。
陳述は説得のためではない。
自分の審美眼を人に伝えるためである。
いわば、手の込んだ自己紹介である。
というわけで――
僕が今日、浅草の土産屋でみかけた美人について、旧友に、
――ねえ、綺麗な人だよね。
と同意を求めなかったことは、おそらく正しい。
もし、その土産屋の美人のことを、どうしても話題にしたければ、僕が、どういう女性を美人に思うかを、伝えればよかったことになる。
そこまで考えがまとまったのは帰りの新幹線の中だった。
時、既に遅し――である。
あの土産屋に僕にとっての「とびきりの美人」がいたという事実を、僕の旧友は、ついに知ることはなかった。
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2005年2月15日 (火) |
昨日はバレンタイン・デー |
昨日はバレンタイン・デーだった。
なのに昨日の『道草日記』ではノー・ケア――
もちろん、忘れていたわけではないのだが、なぜか昨日の『道草日記』を書いているときだけは、綺麗さっぱり、忘れていた。
というわけで――
1日遅れでバレンタイン・チョコの話――
夕べ、仙台の大学生（全員、男）たちと、
「本命チョコ、もらったことある？」
という話になった。
まず問題になったのは「本命チョコ」の定義である。
例えば、奥さんが旦那さんにあげるチョコは、本命チョコには違いない。
しかし、
「何か違うぞ……」
という話になる。
やっぱり、本命チョコというのは、
――ずっと、あなたが好きでした。受け取って下さい！
っていうヤツである。
いわゆるチョコの贈呈が恋の告白になっているタイプであろう。
そういうチョコをもらったことがあるか、という話である。
1人だけ、
「小学生のときなら、もらった」
という返事だったが、あとは、もらったことがない、というような返事だった。
僕も、もらったことがない。
だから、
（もらいたい）
と、ずっと思っていた。
小・中学生の頃である。
が――
いま15年以上前の自分を振り返ってみると、無理だと納得――
どうヒイキめにみたって、
――もらえる訳がないタイプ。
であった。
本命チョコをもらうような男の子というのは格が違う。
見た目がよく、性格が優れており、スポーツもできて話が巧くて……そういうタイプである。
そういうタイプは、告白する女の子がガチガチになってしまっていても、決して慌てない。
女の子がチョコを渡すなり逃げ出してしまったとしても、あとで、その女の子の友達を捕まえて、
――本当にありがとうっていってたって、伝えといて。
と、さり気なくフォローしてしまうタイプである。
そんなのは、どう考えたって、15年前のマル太には無理であった。
いまだって無理だけどね……。
というわけで、バレンタイン・チョコとは縁がない。
いわゆる本命チョコとは縁がない。
そんな自分が、いまは特に嫌いではない。
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2005年2月14日 (月) |
お見合いは面白い |
今度、お見合いをするという。
高校時代の友人の話である。
同性の友人だ。
「面白そうだね」
と、いったら、
「そうかぁ？」
と返された。
僕の意見には懐疑的だった。
まあ、わからないでもない。
僕がいったことは嘘ではない。
お見合いは本当に面白いものだと思っている。
「したことある？」
と、きかれたので、
「ない……」
と正直に答えたけれど……。
僕がお見合いを面白いと思うのは、主に経験者の言葉からだ。
それまでは全く見ず知らずの他人――しかも異性の他人――が、自分の前で徐々に心を開いていく様子をフォローできるのが面白い、という。
もちろん、向こうに心を開かせるには、こちらも相応に心を開かなければならない。
だから、高みの見物――というものではない。
男の立場からいわせてもらえば、お見合いの面白さは、もっと、あからさまに表現できる。
つまり、無難な世間話から始めて、次第に女性の胸裏に迫っていく過程が、大変にスリリングなのである。
心の衣を一枚一枚、剥がしていく――
などというと怒られるに違いないが……。
が、そんな喩えも満更ではないほどにスリリングなのである。
だから、若い頃は、よくやった。
飲み会などで女の子と一対一になれる機会をとらえ、よく喋ったものである。
自然発生的なお見合いといってよい。
これが実に面白い。
もちろん、所詮は遊びなので褒められたものではない。
とはいえ、風俗店などに通うよりは遥かに健全なので、結構、上等な遊びだと思っている。
もっとも、その都度、一線を越えて寝床の関係にもちこもうとするなら「上等」とはいえないが……。
以上のことを大学時代に公言したら、クラスで一、二を争う遊び人の男が同調した。
意外だった。
どうも、女ったらしには二種類あるらしい。
女性を物財とみなすタイプと、あくまで人間とみなそうとするタイプとである。
もちろん、前者が始末におえないのは、いうまでもない。
本当は、後者も前者に負けないくらい始末におえないのだが、一線を越えなければ、いつまでもバレないので、賢い選択といえよう。
早い話が――
お見合いというのは寝室の前座に等しい、ということである
だって、
（あとで結婚しよう）
というのだから、そうである。
違うのは、「前座」のあとが何ヶ月先、何年先になるのかが、わからないという点だけだ。
というわけで――
31歳にもなってしまうと、お見合いなんか、やっていられない。
気恥ずかしいの、なんのって……。
だって、「寝室の前座」を真っ昼間にやるわけでしょう？
しかも、ちょっと改まった席で……。
まあ、そこが面白いんだけどね……。
＊
お見合いは若いうちに限る。
変に男女のことがわかってしまう前に、ガンガンやるべきである。
そうすれば、かなり楽しめるのではないか？
楽しんだ上で、良い人とめぐりあえたら、いうことはない。
僕は、お見合いを一度もしてこなかったことを悔いている。
自然発生的なお見合いは、もういい。
人工発生的なお見合いを、したかった。
もちろん、若いうちに……である。
＊
ところで――
「前座」は「前戯」とは違う――
念のため……。
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2005年2月13日 (日) |
人生の行程の再確認 |
昨夜、高校時代の同級生から携帯電話にメールが入った。
広島にいる友人である。
メールには、長らく海外赴任を続けている別の友人の名前があって、それに本人の署名が付いているだけだった。
代わりに、
――サイズが大きすぎてこれ以上、受信できません。
と表示されている。エラー・メッセージのようだった。
（何だろうと？）
と思ってメールを返すと、
――いま飲んでいるところ。写真を送ったんだよ。
との返事――
なんと、その海外赴任中の友人を交え、臨時同窓会をやっている最中だった。
広島在住の別の友人も一緒――計3人の同窓会である。
写真は無理である。
僕の携帯は5年前のショボい型なので……。
海外赴任中の友人は、休暇による一時帰国で、今月下旬には任地に戻るという。
「もし可能なら、成田を発つ前に東京で会おうよ」
と伝えてみた。
そのまま電話を切るのが惜しくて、苦し紛れに出た言葉だった。
向こうも忙しいはずだ。
そんなに簡単にスケジュールがあくとも思えない。
余計な一言だったかもしれない。
何はともあれ――
高校時代の友人から連絡をもらえるのは嬉しい限りである。
僕の場合、小学・中学の交友関係は全て切れてしまっている。
高校入学時に、千葉から岡山に引っ越したのが、きいたようだ。
これで高校の交友関係まで切れると寂しい。
向こうの携帯電話を回してもらって、海外赴任中の友人だけでなく、その場に居合わせた3人全員と会話した。
――もう歳も歳だし……。
という話になった。
お互いの年齢を言い交わさなくても無条件で話ができる――貴重な交友関係である。
こうやって歳をとっていけるのは幸せなことだ。
人生の行程を再確認できる。
自分の年齢を前向きにとらえることができる。
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2005年2月12日 (土) |
「恋の願書」 |
以前、どこかで書いたことのある話だが、『道草日記』ではなかったようなので、もう一度、書くことにする。
大学受験生の話である。
僕が学生時代に講師をしていた学習塾でのことだ。
数年前のこと――
仲の良い二人組の男子高校生が通っていた。
便宜上、Pくん、Qくんと呼ぶことにしよう。
二人とも国公立大学を志望していた。
国公立大学を受験するためには、1月中旬の大学入試センター試験（一次試験）と2月下旬以降の個別試験（二次試験）とを受験しなければならない。
受験生は、大学入試センター試験の自己採点結果を基に、個別試験の出願先を決める。
ちょうど、その頃――
Pくんは、困ったことに、同じ学校の女の子のことが気になり始めていた。
その女の子をRちゃんとしよう。
Rちゃんが、どんな女の子かは知らない。
Rちゃんは塾の生徒ではなかった。
Pくんは、Rちゃんとは会話を交わせるくらいの仲ではあったが、特に親しかったわけではないらしい。
片思いの可能性も十分にあった。
で――
ある日のこと、Pくん、Qくんは、以下のような会話を交わした。
「――ねぇ、Qくん。二次試験の願書、もう出した？」
「まだ――Pくんは？」
「まだだよ。どうしようかと思ってさぁ」
Pくんは、Rちゃんがどこの大学に出願するかを気にしていた。
「今日、○○大学に出すかも、っていってたんだ」
「じゃあ、一緒のところに出したら？」
とQくん――
Qくんは男子校なので、こういう話は珍しかったらしい。
面白半分にチョッカイを出す。
一方、PくんはQくんを信頼しているらしく、Qくんの前で、
「う〜ん。そうだな〜」
と真剣に悩んでみせる。
僕らの目には、Qくんにからかわれているようにしかみえないのだが、そうはとっていないらしい。
なんとも不思議な関係であった。
で――
願書を出し終えた後の二人の会話――
「ねぇ、Qくん。二次試験の願書、出した？」
「うん。△△大学に出した。Pくんは？」
「□□大学」
「あれ？ Rちゃんと同じところじゃないの？ なんで？」
「別にいいじゃん……」
そして――
Qくんが名台詞を吐く。
「ねえ、Pくん。恋の願書は出したの？」
そばできいていた講師たちが大爆笑――
「やめろよ、そういうこというの……」
とPくん――
抵抗は弱々しい。
しかし、Qくんは追撃の手を緩めない。
「恋の願書、早く出したほうがいいよ。倍率、高いかもよ」
再び大爆笑――
なおも執拗に勧めるQくんに向かって、
「やだよ。足切りにあったらどうすんだよ」
とPくん――
さらに大爆笑――
「足切り」とは、大学入試センター試験の点数が低い受験生を門前払いにする制度である。
受験生が殺到する一部の大学が採用している。
つまり、「恋の願書」で「足切り」にあうとは、
――ごめんなさい。彼氏いるの。
ってことか――
実に巧い比喩表現である。
皆、腹を抱えて笑った。
以後、二人の会話は語り草となる。
1月、2月は受験生が心身ともに参る時期だ。
なのに、こんな会話を交わす余裕があったとは……。
余裕を持ち過ぎたせいか、残念ながら二人とも第一志望の大学には合格できなかった。
しかし、どちらも、ただ者ではなかろう。
その後も逞しく生きていったに違いない。
ちなみに――
その後のPくんが、Rちゃんとどうなったかは知らない。
PくんとQくんとの交友関係がどうなったかも知らない。
知らないほうがいいと思っている。
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2005年2月11日 (金) |
真冬に花火の音？ |
交差点の横断歩道を渡ろうとしたら突然、花火の音がした。
――チリチリ、パパパ、ババアーン！
である。
思わず、
（この真冬に？）
と空を見上げてしまったが、もとより花火であろうはずはない。
他の通行人の多くも怪訝な顔をみせていた。
間もなく、
「そこの歩行者！ 横断歩道、渡るの止めなさい！」
とダミ声が浴びせられる。
お巡りさんである。
よくみると、交差点の信号機の上には巨大な2台のスピーカーが付いていた。
先ほどの花火の音は、このスピーカーのスイッチを入れたときの雑音だったようである。
実は、この交差点、もともと曰く付きの交差点で、4本の道路が複雑に交わったものだ。
うち3本は車の通りが激しく、信号無視をする人は滅多にない。
が、残りの1本は滅多なことでは車が通らないため、多くの人が信号無視をする。
で――
その残りの一本の道路の脇には、なぜか交番が建っている。
――あの交差点で信号無視をするのはスリリングですよ。
と、かつての同僚が冗談混じりにいった。
たしかに、そうだ。
お巡りさんの眼前での信号無視は、なかなかに勇気のいることである。
それにしても――
まさか、あんなスピーカで歩行者に注意を呼び掛ける装置が備わっていたとは、気付かなかった。
しかも、みつけ次第、即刻、叱責するとは……。
今日、注意されていた歩行者は、大人の女性の集団だった。
大人に向かって信号無視を注意しても……と思う。
本当に危険な信号無視を、大人はやらない。
事実、そのときも「極めて安全な信号無視」だった。
もちろん、ルール違反には違いないが……。
公衆の面前で、頭ごなしに叱責を浴びせても、心には響くまい。
むしろ、恨みをかいかねない。
交通ルールの大切さを説きたい気持ちはわからないでもないが、時と場所と相手とを見極めないで説いても、大損である。
僕だけではあるまい。
その場に居合わせた多くの人たちは、少なからず不快に感じたろうと思う。
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2005年2月10日 (木) |
鎹（かすがい）の想い |
女性は、
――遠くからみているに限る。
と思う。
最近、本当にそう思う。
もちろん、男からみた勝手ないい分だが……。
しばらく独り身でいると、たまに人恋しくなるものだ。
が――
ひと度、特定の女性と一緒に生活し始めると、
――遠くからみているに限る。
と思ってしまう。
過去に結婚を考えた女性が二人ばかりいたが、いずれの場合もそうだった。
――遠くからみているに限る。
のである。
もちろん、これは僕に限った話かもしれない。
男がする「女の話」である。
当然、そこには心温まる話があれば、凄惨極まりない話もある。
その辺は割り引いて考えて頂きたい。
とはいえ、一つの反省点がある。
二人の女性と深く付き合った上での共通の反省点である。
いずれの場合も、どうやら、
――遠くからみている期間が短すぎた。
ようなのである。
どちらも、出逢って一週間くらいで深い仲になった。
この場合の「出逢って」は、互いに異性として意識し始めて――という意味である。
遠くからみている期間を、もっと伸ばしていれば、どうなっていただろうか？
案外、今ごろ、結婚していたかもしれないと思うときがある。
遠くからみていた頃の淡い追憶に浸りながら、
――今の目の前の彼女は憎らしいけれど、あの頃の彼女は美しかった。
との思いが、意外と強固な鎹（かすがい）になったりはしなかったか。
――好いて、惚れて、一緒になったんだろう？ 夫婦喧嘩なんかすんじゃないよ！
などと、老婆が中年夫婦を叱りつけるシーン――
TVドラマで何度もみたことがある。
鎹の想いを意識させようとする台詞に違いない。
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2005年2月9日 (水) |
「なでしこJAPAN」より弱い!? |
――北朝鮮は「なでしこJAPAN」より弱い!?
のだそうである。
今週号の『週刊プレイボーイ』（2/22号、集英社）の見出しである。
サッカー・ワールドカップ（W杯）最終予選の話だ。
「北朝鮮」とは北朝鮮・男子代表チームのこと――「なでしこJAPAN」とは日本・女子代表チームのことである。
男子サッカーと女子サッカーとではレベルの差が大きい。
だから、
――北朝鮮は「なでしこJAPAN」より弱い!?
は、いいすぎである。
北朝鮮・男子代表チームを過小評価しすぎである。
もちろん、こんな見出しが踊ったのは、今日が、2006年ドイツW杯最終予選・対北朝鮮戦の日だったからである。
結果は2−1で日本の辛勝――
「なでしこJAPAN」より弱い――どころの話では全くなかった。
それで思い出したのが1998年のフランスW杯本大会である。
当時、日本打表チームの監督は岡田武史さん――
予選リーグを1勝1敗1分で勝ち抜くと約束して現地に乗り込んだが、結果は3戦全敗――
消化試合となった第3戦で1得点を挙げるのがやっとであった。
大会前、マスコミの論調は明らかに過熱していた。
――いやいや、2勝くらいは挙げられるのではないか？
とか、
――1勝1敗1分は弱気にすぎる。
とかである。
3戦全敗の結果に、帰国直後の岡田監督には罵声が飛んだ。
たしか、空港で生卵などを投げ付けられたのではなかったか。
（マスコミがいうほど勝てるわけはないって思ってましたよ）
と、当時、大学の後輩が吐き捨てていた。
（戦前のマスコミと一緒ですよ）
と――
その時は、正直、
（そこまで話を大きくするかぁ？）
と思ったりもしたのだが、彼の言にも一理ある。
昭和12年の盧溝橋事件を皮切りに、日本は泥沼の日中戦争に突入していった。
その背景にあったのは「中国一撃論」である。
――中国など一撃すればアッという間に屈服する。
という考え方で、当時の軍部や政府の主要見解であった（半藤一利著『昭和史』）
こうした甘い見方が不毛な消耗戦を招いたといってよい。
甘い見方の一助を担ったのはマスコミである。
満州事変以降、軍部の独走に賛辞を惜しまなかったのは当時の大手新聞社であった。
どうも、この頃から、日本のマスコミには、
――北朝鮮は「なでしこJAPAN」より弱い!?
などと不用意に書いてしまう素地があったように思う。
戦争にせよ、スポーツにせよ、勝負事は下駄をはくまでわからない。
とくにサッカーでは戦力差があてにならないといわれる。
1996年のアトランタ・オリンピックでは日本代表チームがブラジル代表チームに勝利した。
あの時ほどの戦力差が今日の日本・北朝鮮両代表チーム間にあったとは思えない。
なぜ『週刊プレイボーイ』は、あのような見出しを掲げたのか？
おそらく、購買部数を伸ばすためである。
刺激的かつ挑発的な見出しが部数を伸ばす。
かくいう僕も、そうした見出しに踊らされ『週刊プレイボーイ』を手にとった。
ここ何年も読まなかった『週刊プレイボーイ』を、である。
そこは戦前の新聞各社も同じだった。
昭和期の国威発揚の波に乗って、各社とも順調に部数を伸ばすことに成功したといわれる。
『週刊プレイボーイ』の記事を読んでみた。
筆者の真意は、
――戦術面だけなら、女子のなでしこジャパンのほうがはるかに先をいっている（笑）
ということだった。
つまり、体力面や技術面を無視すれば――という条件付きである。
それは、そうだろう。
今日のゲームで北朝鮮代表チームがみせた体力・技術のレベルはw杯最終予選の場に相応しいものであった。
さすがに、ここまで勝ち上がってきたチームである。
北朝鮮を甘い相手と断言してしまう人は勝負事の恐さを知らない。
『週刊プレイボーイ』の記事は終始、北朝鮮をのんでかかった文面だった。
最後は、
――むしろ、ちょっと心配になってきたぞ。大丈夫か、北朝鮮!?（笑）
で締められている。
昭和初期の「中国一撃論」の成れの果てが、この記事かもしれない。
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2005年2月8日 (火) |
ここはゲレンデですか？ |
凍結路面をみると思わず、
――ツイ〜！
と滑りたくなってしまって困っている――と書いた。
1月22日の『道草日記』である。
で――
今日、早速、滑ってきた。
故意に、ではない。
急斜面の下りで不用意にブレーキを踏んだら、
――ツイ〜！
と滑ってしまった。
対向車が来なかったので助かったが、来ていればアウトだった。
10メートルは滑ったと思う。
今日の気温は夕方から氷点下――路面は、折からのボタ雪でビチョビチョに濡れていたので、夜8時の段階で、既に完全に凍結していたらしい。
タイヤというものは転がっていれば滑らない。
転がらないとき――つまり、ブレーキでロックしているとき――に、タイヤは滑る。
――ツイ〜！
と滑る。
面白いくらい、よく滑る。
今日も実感――
（ここはゲレンデですか？）
ってな具合だ。
滑走は、ブレーキを緩めた途端に止まった。
ブレーキを緩めることでスピードが落ちる。
変な気分である。
普通は逆だろう？
とはいえ――
無事に帰宅できたからこそ、こんなノン気な文面が書けるのである。
今日も我が身の幸運に感謝――
交通戦争・冬の役（えき）は苛烈である。
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2005年2月7日 (月) |
――ひとりも殺すな |
人と人とが何事かを一緒にやっていくとき、必ずや、何らかの問題点が生じるものである。
人は誰しも不完全だ。
欠点をもつ。
行き届かない。
情に流される。
だから、人の組織というものは、そのままでは容易に綻びる。
不完全な人間の、ただの寄せ集めでは、うまくいくはずがない。
では、組織の綻びを未然に防ぐには、どうすればいいか？
昔の聖人は重いことをいった。
――和を以て尊しとなす。
だそうだ。
たしかに、そうには違いない。
人類普遍の最終境地といってもよい。
アメリカ帰りのエリート上司だって、
――やっぱり組織は和が大切だよ。
などと述懐する。
もちろん、和だけでは駄目なのだが、和がなければ話にならない――ということである。
しかし、この「和」とは、いったい何を意味するのか？
色々な識者が、色々な考察を著わしている。
どれも根幹は同じような気がする。
要は、
――話し合いが大事だよ。
ということではないか。
相互の意思疎通――組織の各構成員が常に他者をみ、組織全体を見渡しながら動くこと――
これに尽きる。
だが、人には個性がある。
個人差がある。
いや――
能力差がある、といったほうがよい。
全ての人が「常に組織全体を見渡しながら動く」ということは無理である。
それを、できる人がいれば、できない人もいる。
ここに、人の組織の難しさがある。
大抵の人は、ここで諦めてしまう。
――どこの組織も同じでしょ？
と、いうわけだ。
たしかに同じだけれども……。
当面は、邪魔者を排除しようとする欲求との闘いになる。
どこの組織にも和を乱す人――乱しているとみなされる人――がいる。
そういう人を、頑として排除しないことである。
――ひとりも殺すな。
といって、トルメキアの最後の王は、娘クシャナに後事を託す。
マンガ『風の谷のナウシカ』の最終シーンである。
――よくいうよ。
と陪臣クロトワが嘯（うそぶ）く。
王は悪名が高く、それまでに数多（あまた）の臣を殺めたことは周知の事実であった。
――ひと度、他者を排除し始めたら、人は死ぬまで排除をやめられない。
それが作者のメッセージであろう。
人の哀しき本性である。
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2005年2月6日 (日) |
読みたいと思っていた本が―― |
読みたいと思っていた本が見当たらない。
２、３週間前に購入したものだ。
昨日の夕方、じっくり腰を落ち着けて読もうと思って行方を探したが、見当たらない。
それで、先週の火曜日のことを思い出す。
他の大量の本たちと一緒に外に持ち出していたのであった。
大がかりな調べもののためであった。
我が家は狭い。
そういう時は、いきつけのファミリー・レストランに場所移動する。
もちろん、空いている時間を狙って――でないと追い出される。
お目当ての本は、そのとき本たちの中に紛れ込んでいた可能性が大である。
そういえば、
（なんで、こんなんまで持ってきてんだ？）
と思った気もする。
そして、忘れてきてしまった、と……。
持ち出したのは10冊くらい。
1冊忘れても気付くまい。
うーむ。
困った。
今日あたり、問い合わせてみるか？
しかし、何といって問い合わせればいいのだろう？
――先週の火曜日に本の忘れ物はなかったですか？
か？
ちょっと間抜けだ。
＊
などといっていたら……ありゃ？
たった今、その本を発見――
タイトルは『近衛家の太平洋戦争』（NHK出版）――著者の一人は近衛忠大さん――昭和初期の政治家・近衛文麿の曾孫にあたられる。
なかなか、みつからなかったのには訳がある。
こんな昭和史の本が、実に奇想天外な本の下から出てきた。
『復刻版 サクラ大戦 原画＆設定資料集』（ソフトバンク パブリッシング）――である。
『サクラ大戦』とは恋愛・戦闘シミュレーション・ゲームのこと――
そりゃ、わからんだろう！
もっと、わかりやすく整理しておけよ！
……もちろん、自分で置いたのだが――
昭和史の本とゲームの本とがゴッチャになっているのは訳がある。
式部たかしが、最近、当サイトの『小説鍛練場』で『サクラ大戦』の二次創作小説を連載し始めたことと関係がある。
本物の『サクラ大戦』は大正史がモチーフだ。
が、式部たかしの『サクラ大戦』は昭和史がモチーフである。
だから、『近衛家の〜』と『サクラ大戦』とは、式部たかしの中では明瞭にリンクされている。
＊
式部たかし『サクラ大戦』は、
――のっけから読みづらい。
と悪評高いこと限りない。
最も大きな理由は、スロースタートだろう。
まあ――
たまにはいいもんですよ。スロースタートな小説も――
多分……。
僕の経験では、書いている本人が楽しん書いている小説は、ほぼ確実にスロースタートになる。
本人がプロ意識の塊になっているときは、序盤からトップスピードになる。
式部たかしの小説は、いつもスロースタートである。
特に、このサイトでしかご覧でない方は、そう思っておられることだろう。
当たっている。
たしかに、このサイトの作品は、どれもスロースタートである。
つまり、
――本人が楽しんじゃってる！
ってことだな――
よくないかもしれない。
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2005年2月5日 (土) |
心が風邪をひいた |
今日、Yahoo!ニュースのトピックスに、
――どう乗り切る 月曜日の憂鬱
なる小見出しが踊った（毎日新聞提供）
自殺は月曜日に多いという。
最も少ない土曜日と比べると男性では1.5倍、女性では1.3倍だという。
――その程度なの？
とも思うが、
月〜金、9時〜5時
が当たり前ではなくなった今、この数字は実態よりも少ないかもしれない。
月曜日とは、休日あけ（仕事始め）を意味している。
自殺した人全員の休日あけを特定し、改めて調べてみたら、2倍とか3倍とかになるかもしれない。
どちらにせよ、休日あけは要注意である。
ただし、「休日あけ」というのを重く見過ぎないことだ。
休日あけで憂うつだから自殺する――というほどに、人の心は単純ではあるまい。
うつ病は恐ろしい。
何より、自殺が恐ろしい。
その時は抗いがたい誘惑を感じるという。
が、誘惑はその場限りであることが多い。
助かった場合のほとんどは、
――生きていて良かった。
と思うらしい。
その頃には、自殺を企図した時の自分を客観視できている、ということか？
以上は救急医がコボしていたことである。
真実味がある。
よく、
――本人が死にたがってるんだから死なせてあげなさいよ。
などという人がある。
その人は思い違いをしている。
学生時代、ベテランの精神科医に伺ったことがある。
――お仕事をしていて最もこたえるのは、どういう時ですか？
という質問である。
「自殺された時ですね」
と即答だった。
少なくとも精神医学的には、自殺は完全な敗北を意味する。
本当に死にたいと思って死ぬ人は、近世までの日本の武士くらいではないかと僕は思っている。
「本当に死にたい」とは、自分の死が残される人々にとって意味がある、と理詰めで判断して――ということである。
そういう人の死は尊い……かもしれない。
意味のある死……かもしれない。
が、一般的には、うつ病の人の自殺動機には理解に苦しむところが多い。
なぜ、死を切望するのかが不明確なのである。
もちろん、
――最近、すごく落ち込んでいたから……。
と表面的に理解することはできる。
しかし、根っこが理解できない。
なぜ、落ち込んでいるのかが、理解できないのである。
配偶者に自殺され、
――なぜ、私を残して……。
と嘆くような場合、おそらく、自殺した本人でさえ、死を切望した真の理由を理解できていなかったのではないか？
圧倒的な誘惑の前に、つい死を選んでしまう――
こういうのを「了解可能でない」という。
昔の武士が、お家のために腹を切る――これは了解可能である。
自分が死ねば皆が助かる――という理由は、いい意味でも悪い意味でも、了解可能である。
だが、
――なぜ、私を残して……。
は了解可能ではない。
配偶者が了解できないのだから、他のいかなる人にも了解できないに違いない。
誤解のないようにいっておく。
その人が死にたがっていることを理解することと、その理由を理解することとは別である。
前者は、他者に共感できる人であれば誰にでも了解できる。
実は、同じ病を抱えている人には、一見、了解可能なのである。
自分もそうだから、了解するのに客観的理由は要らない。
集団自殺の難しさはそこにある。
なぜ、人は自殺してしまうのか？
おそらく――
システムとしての脳の働きに僅かな狂いが生じるためではないか？
その狂いのために、人は理由なく死を切望するのではないか？
ちょうど、細菌やウイルスが体に侵入し、システムとしての生体が狂わされ、発熱したり、下痢を起こしたりするように――である。
こういうのを内因性精神障害という。
うつ病は、これに含まれる。
「内因性」は専門用語だ。が、紛らわしい。
「内因」とは「心の内面にある病因」という意味ではない。
現代医学が未だ明らかにしていない病因――という意味である。
現代医学が明らかにした病因は「外因」という。
種々の身体疾患に伴う精神異常は外因性精神障害である。
とにかく――
心の病を特別視しないことが肝要であろう。
――うつ状態は心が風邪をひいた状態のこと。
という。
的を得た表現である。
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2005年2月4日 (金) |
サディスト上司？ |
今日は底冷えのする一日だった。
夕方、仙台駅近くを歩いていたら、コートの中まで風が吹き込んでくる。
思わずビクッと身をすくめてしまった。
こんなに寒いと、つい、
――タ、タクシ〜……！
と手を挙げてしまいそうになる。
最近は、ちょっとでも体調が悪いと、すぐに、
――タ、タクシ〜……！
と弱音を吐く軟弱者に成り下がっている。
体調が良くたって、大雪が降っていたりすれば、
――タ、タクシ〜……！
である。
今日も、そんな気分ではあったのだが、さすがに日頃の運動不足を思って、しっかり家まで歩いて帰ることにした。
歩いても、たったの20分の距離である。
歩けばいいのである。歩けば……。
なじみのカフェの前で、
（暖かいコーヒーでも一杯――）
などという誘惑にも打ち克ち、吹き荒ぶ冷風の中、果敢に信号待ちをしていると、隣に小柄な女性が立っている。
艶のある黒髪を後ろに束ね、いたく清楚な感じ――ちょっと童顔で、受付嬢っぽい制服が似合っていた。
でも――
どこか、おかしい。
手に鞄などはなく、代わりにタバコをひと箱――新品である。
後ろにコンビ二エンス・ストアーがあった。
そこで購入したものだろう。
（タバコなんか吸う人にはみえないけどなあ）
と思ってみていると――
なんと、その娘さん、制服が半袖ではないか！
こちらは厚手のコートにマフラー装備――それでも寒いといっているのに……。
当然、その娘さんも寒さには堪えている。
可哀想なまでにガタガタと震えていた。
そりゃ、そうである。
気温は氷点下でこそなかったが、強風は容赦なかった。
もしかしたら、職場の上司（男性）に、
――お〜い。タバコ買って来てくれ。
とかいわれて、
――ええ？ わたしが？
とか思いつつ、
――はあ〜い。
と駆け出してきたのだろう。
半袖のままで――
無理もない。
終日、暖かい店内にいると、つい外の冷気を甘くみてしまうのだ。
横断歩道の向こう側には旅行代理店や不動産屋などの店鋪が幾つもある。
そのどこかの受付嬢だと思った。
それにしても気の毒である。
（タバコくらい自分で買えよ！ 上司！）
と勝手に義憤――
もしかしたら、その上司はサディストかもしれない。
――ぐへへ……。あの娘を極寒地獄にさらしてやろう〜。
などと企んでいたのではないか？
そんな目でみると、その娘さん――みるからに虐められっ子タイプである。
（なんて、不埒な！ いったい、どこの上司だ？）
と再度、義憤――
その娘さんの駆け込むオフィスを見届けてやろうと思った矢先に、歩行者信号が青に変わる。
娘さん、一目散に駆け出した。
よほど寒かったのである。
で――
駆け込んだ先は旅行代理店でも不動産屋でもなかった。
式場である。
結婚式とか会議とか催し物をやるところだ。
（――ってことは上司じゃないかも？）
と思い直す。
来場中のお得意様が所望したのかもしれない。
上司のワガママなら痛ましい限りだが、お客のリクエストなら仕方あるまい。
（頑張れ――）
と無言のメッセージを送ってもいいように思った。
生きるって大変だからね。
とはいえ――
式場にだってサディスト上司はいるかもしれない。
娘さんの出迎えが偽善の笑顔でなければいいと思った。
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2005年2月3日 (木) |
片方しかない靴下 |
今日、洗濯をしていたら、片方しかない靴下を発見――
もう片方は、どこをさがしても、みつからない。
片方しかない靴下なんてナンセンスである。
さながら――
絵に描いた餅
反対車線のコンビニ
プレイヤーに反応しないDVD
火星旅行の招待券
写真の中の美女
みたいなものである。
（何だって離ればなれになるんだよ。一緒にいろよ）
と文句も、いいたくなる。
「――片われはどこだ？」
と訊いても答えるわけはない。
仮に人語を解したとしても、片われの行方など知る由もあるまい。
仕方ないので、そのまま洗濯して干してやる。
こうしている今も、僕の斜め上方で、奴は一人寂しく、ぶら下がっている。
まわりは、皆、つがいの靴下なのにね……。
＊
独身をみつけたら、必ず、
――お一人なんですか？
みたいにきいてくる人がいる。
年配の人に多い。
あれは、多分、片方しかない靴下に感じられる悲哀と同質のものからくる言葉なんだろうな。
本人は別に悲哀など感じていないのだが……。
＊
というわけで――
片方しかない靴下に同情するのは止めにした。
奴も、きっと、それほどの悲哀を感じているわけではない。
でも、このあと、奴をどうしよう？
絵に描いた餅云々――であることに変わりはないしなあ……。
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2005年2月2日 (水) |
同い年で、よかった |
よいニュースだ。
今年度のブルーリボン賞の主演女優賞に宮沢りえさんが選ばれた。
ブルーリボン賞は在京スポーツ紙の映画担当記者によって選出される。
選出にあたっては、人柄や映画への姿勢も加味されるそうだ。
映画人として、高い評価を得られたといってよい。
宮沢りえさんは1973年（昭和48年）生まれである。
僕と同い年だ。
デビュー当時は超売れっ子アイドルだった。
はちきれんばかりの若さで芸能界を席巻した。
どこまでも健康的な美であった。
当時の写真をみると、他のどの時代のトップアイドルにもない輝きを放っている。
当然のことながら、そんなことは、あの頃の僕にはわからなかった。
――とにかくメチャメチャ可愛い女の子。
という印象だけが刷り込まれた。
アイドルとしての宮沢りえさんのピークは、例の結婚騒動の頃であろう。
当時、角界のプリンスだった貴乃花関との婚約が発表され、間もなく破局した。
あれから、おかしくなったようである。
仕事が減り、心身ともにリズムを崩したと伝えられる。
芸能界に復帰しても、かつての勢いはなかった。
あの健康美が完全に失われていた。
――もう、かつての宮沢りえではない。
と多くのファンが落胆したことであろう。
しかし、僕にとっては、以後の宮沢りえさんのほうが興味深い。
アイドル時代、
――ドラマの演技が下手！
と酷評された。
しかし、2002年には映画『たそがれ清兵衛』での演技が認められ、今年はブルーリボン賞である。
いかなる転機があったのか。
もちろん、知る由はない。
知る必要も、ないのかもしれない。
受賞作品は『父と暮せば』――被爆者の苦悩・再生がテーマという。
――あの宮沢りえが……。
と思う。
15年前の南の砂浜で、はちきれんばかりの姿態をカメラに収められていた少女の出演する作品とは思えない。
時の神様も味なことをする。
人間の奥深さ、割り切れなさを、みせつけられた思いがした。
この人の芸能活動の質が変化し、かつ脚光を浴び続ける限り、その都度、僕も自分の人生について考えるきっかけを得るだろう。
僕も変わり続けている。
例えば、宮沢りえさんが美少女だった頃の僕と、いまの僕とでは、だいぶ違う。
得たものがあれば、失ったものもある。
それは、多分、宮沢りえさんだって同じだろう。
得たものもあれば、失ったものもあるに違いない。
あと何十年かたって、この人の訃報に僕が接する機会があれば、僕は、その時、自分の死を覚悟するだろう。
僕にとっての宮沢りえさんは、そういう女優になる気がする。
この人と同い年で、よかった。
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2005年2月1日 (火) |
悪しからず―― |
久々に悪寒を感じている。
熱があるのだろう。
風邪をひいたようだ。
僕の場合、風邪をひくと通常、喉や鼻にくる。
が、そちらは何ともない。
珍しく悪寒だけである。
市販の風邪薬を飲んで、サッサと眠ってしまおう。
＊
以下は、学生時代に新聞記事で読んだ話である。
都内の大学病院に勤める30代の医師が、先輩の代役で市中病院に赴いた。
外来診察室で患者さんをみていたときに、冷や汗をかく。
自分は、これまでに、ただの風邪をみたことがない、ということに気づいたのである。
大学病院は特定の難治疾患のための病院である。
ただの風邪のための病院ではない。
とくに近年は、お役人のお達しが強力になっていて、そういう方針が徹底されつつあるときく。
その30代のお医者さんは、専門の難しい（稀な）病気の対応には慣れていたのだが、ただの風邪への対応には慣れておらず、治療方針も頭に入っていなかった。
患者さんや看護師さんを前に、
――風邪って、どうすればいいの？
と密かに悩んだ挙げ句、風邪薬を処方するのがやっとだったという。
たしかに、大学の医学部の講義で風邪の治療など、習わない。
風邪は、医学的には風邪症候群という。
ウイルスによるものだ。
他の重篤な疾患の可能性が除外できそうなときに、風邪症候群と診断する――というのが医学上のお約束だったと思うが、そのための検査を繰り返していたら、日が暮れる。
通常は、患者さんの訴えをきき、重い病気の徴候がなければ、
（まあ、風邪でしょう）
と思って、
――風邪症候群の疑い。
と仮診断をつけ、風邪薬を処方する。
それで治れば、
――風邪症候群。
と診断が確定される。
もちろん、僕は専門家ではないので悪しからず――嘘をいっているかもしれない。
蛇足ながら、注意点をもう１つ――
風邪症候群の治療の本質は、風邪薬の服用――ではない。
栄養と休養――である。
つまり、
――ご飯食べて早く寝なさい。
ということ――
医学生向けの教科書の隅に小さく書いてある。
みんなが知っている。
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